だから言ったのに! 〜婚約者は予言持ち〜

キムラましゅろう

文字の大きさ
上 下
12 / 43
第三章

オリビア=グレイソン

しおりを挟む
アルジノンに手を貸され、

その人は優雅に馬車から降り立った。

今回、
交換臨時大使としてハイラムに舞い降りた美貌の姫君。

オリビア=グレイソンその人であった。


オリビアは18歳。

新大公ディランの実妹で才色兼備と評される類稀なる美姫だ。

鮮やかなオリーブグリーンの髪と
輝くルビーの瞳。


イグリードの予言通りの容姿で
ジュリの前に姿を現した。


馬車からアルジノンにエスコートされてながら歩く姿はまさに女神のようだ。


これまた男神のように凛々しいアルジノンと並ぶと、まさに神話の世界……といった光景であった。


〈ああ……とうとうこの時が来たのね〉



覚悟はしていたが、
思っていたよりもジュリのショックは大きいらしい。
自分の指先が氷のように冷えてゆくのがわかる。
〈寒い……〉
ジュリは震え出しそうな体を叱責する。

〈しっかりするのよジュリ、わかってた事じゃない。あるべき未来へ歩いてゆくという事よ〉

そんな事を考えていたジュリに
アルジノンが声をかける。

「ジュリ!ただいま、ずいぶん帰りが遅くなってすまない。変わりなく過ごしていたか?」

ジュリはこれまでの王妃教育で培った
“笑顔”という武装を身につけた。

「おかえりなさいませ、アルジノン殿下。ご無事のお戻り、本当にようございました。おかげさまでわたしは何も変わりなく過ごしておりましたわ」

ジュリの様子を見て、
アルジノンは何故かほっとしたような表情を見せた。


「変わりないなら良かった。
ジュリ、紹介しよう。臨時大使として来られたグレイソン大公の妹君、オリビア=グレイソン姫だ。オリビア姫、私の婚約者のジュリです」

アルジノンの紹介を受けて、
オリビア姫は花のかんばせを綻ばせながら言った。


「いやですわ様、そんな他人行儀な。オリビアとお呼び下さいとライリーの街を一緒に散策しながら申し上げたではないですか」


様、
ライリーの街で一緒に散策、


まるでわざとジュリに聞かせるような言い方でオリビアは言った。


ジュリは気にしないふりをして
オリビアに挨拶をする。

「ハイラムへようこそいらっしゃいました。お初にお目にかかります。ランバード辺境伯ローガンの娘、シュ・ジュリ=ランバードと申します。以後、お見知りおきを……」

ジュリは自身をアルジノンの婚約者としては紹介しなかった。
いや、出来なかったのかもしれない。

アルジノンが結ばれるべき本当の相手が現れ、ニセモノの自分は席を明け渡さねばならないのだから。


「まぁ、ランバード辺境伯の!
最強と名高い国境騎士団のお噂は我が国にも流れて来ておりますのよ。今後は是非、我が国の騎士達にご教示をお願いしたいものですわ」


オリビアもジュリをアルジノンの婚約者としては見ていないらしい。

あくまでもランバードの娘として
接せられているようだ。

その時、後ろからセオドアが声をかけた。

「皆さま、立ち話もなんですので、どうぞ城の中へお入り下さい。グレイソン公妹こうまい様はお疲れでしょうから直ぐにお部屋へご案内致します」

セオドアがオリビアを促そうとすると、

オリビアがアルジノンに縋って弱々しく告げる。

「わたくし、初めての土地に参ってとても不安で仕方ありませんの。アル様、アル様にお部屋まで連れて行っていただきたいですわ」

オリビアが瞳を潤ませてアルジノンを見上げる。

「でもそれでは……」

セオドアが何か言おうとした時に
アルジノンが答えた。

「わかりました。初めて国を出られたのだ、心細く感じられるのは致し方ない事。私が部屋までお送りしましょう」


アルジノンがオリビアに微笑みかける。

それはジュリでも見た事がないような部類の笑顔だった。


「……!」

ジュリは心の中で息を飲む。


アルジノンがエスコートの手を差し伸べると、嫋やかな仕草でオリビアが白いレースの手袋に包まれた手を添えた。

やがて二人はジュリの横を通り過ぎ、
城の中へと入って行く。

すれ違い様にアルジノンが小声で
「後で話がある」と言った。


ジュリは後ろを振り返る事なく、その場に立ち尽くした。


「ジュリさま……」


セオドアとジュリの侍女のタバサが心配そうにジュリを見る。


大丈夫よ、

わたしは大丈夫。

イグリード、わたしを見ててね。



ジュリはきゅっと唇を引き結び、

踵を返して城の中へと戻って行った。
しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

処理中です...