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第二章

ジュリ、アルジノン15歳 ジノン様はずるい人

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今回はアルジノンとジュリ、
それぞれの目線です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ジュリ、俺の可愛い婚約者。


本当は謁見の間で初めて姿を見た時、

あまりの可愛さに驚いたんだ。

なめらかなミルクティー色の髪に

輝くエメラルドアイズ。

一見淑やかで大人しそうな美少女だが、

ジュリの中身は屈強な正騎士そのものだった。

見た目とは裏腹に逞しい男気溢れる性格。

何もかもが規格外で俺の心を鷲掴みにして離さない。

(ジュリならホントに心臓を躊躇いなく鷲掴みに出来そうだが)

どうしても離れたくなくて、
権力を行使して無理やり婚約者にしたが後悔なんてしてやらない。

だって俺の心にズカズカと土足で踏み込んで来たのはジュリなのだから。


俺の運命の相手ではないから婚約なんて出来ないと
ジュリは言うが、そもそも運命の相手ってなんだ?

結婚する相手だけが運命の相手と呼ぶものなのか?

自分の人生の中で、運命的な出会いをする相手、
それも運命なんじゃないのか?

イグリードが何をしたいのか俺にはわからんが、

欲しいものを我慢するスキルは俺にはない。

今後もない。

一生ない。

ジュリ、諦めろ。


俺に立派な王太子になれというなら、

立派な運命の王子になれというなら、

それなら責任を持って側にいて見届けてもらおうじゃないか。

15歳になってますます可愛くなり、

心配で目が離せなくなったジュリ。

今日も、
デビュタント直前の令息や令嬢を集めたお茶会で、一際輝きを放っている。

もう5年ずっと一緒にいるが、

毎日会っても毎日フレッシュに惚れ直す。


あ、ジュリと目があった。

でも何故か半目でこちらを見ている。

なんでだ!可愛いな!

俺は思わず吹き出した。




ジノン様はずるい。

5年前はあんなに傲慢で我儘でポンコツでヘタレだったのに。

この5年で別人のようになった。

同じくらいだった身長はとうに抜かされ、頭一つ分以上は違う。

身体つきだってモヤシ乙女だったのに

程よく引き締まった筋肉に包まれ、

剣技も体術も今や正騎士たちにも劣らない程の腕前になった。

まぁ、その点は「ワシが育てた」感が満たされるので良しとしよう。

顔だってもともと美少年だったのに
この頃は精悍さも兼ね備えてかなりの美形に仕上がってしまった。


解せぬ。

わたしも同じものを食べてるのに。


性格もあんなに悪かったのに、

自分から変わってみようキャンペーンが功を奏して、

あれよあれよと誰もが好ましいと言う王太子になった。

今では彼の周りにはいつも人が溢れてる。

とくに令嬢たちの壁は何層にもなり、

中でもバレンシュタイン侯爵令嬢アリア様と

ダーデリアス伯爵令嬢ローズ様の双璧がいつもアルジノン様の両脇を固めているのだ。

彼に何か用があったとしても、

まずはあのウォールアリアとウォールローズを越えて行かないと辿り着けないのだ。


おかげでわたしはこういう公の場では
アルジノン様に近づくことすら出来ない。


ま、いいけどね。


「ぶはっ!ジュリ!!」

ほっといてもアルジノン様の方がわたしに寄って来るからね。

でもおいコラ、今名前を呼ぶ前になんで笑った?


令嬢たちの壁ごと
アルジノン様がわたしの元へとやって来る。

うわぁ面倒くさっ……

ほらぁ、アリアとローズが(呼び捨てか)睨んでくる……。


「ジュリ、遅れて来るとは聞いていたが意外と早かったな」

「ご機嫌ようジノン様。早く来てしまってごめんあそばせ。ご令嬢たちとの楽しいひと時を邪魔してしまいましたかしら?ご心配なく、わたしはすぐに退散いたしますわね」

「何を言う。皆、お前がいなくて俺が寂しくないように話相手になってくれていたのだ。優しい令嬢たちばかりだ」

「まぁ……」

「おほほ」

令嬢達が頬を染めてうっとりと
アルジノン様を見上げる。


「ほほぅ。そうですか、
じゃあずーっとそのご令嬢たちに優しくして貰ってて下さい。わたしは少し野暮用がありますので、御前を失礼します」

しゅたっと手を上げてから、
わたしはチャンスだと言わんばかりに
ドレスの裾を上げてダッシュしようとした、が、ジノン様に襟首を掴まれて阻止されてしまった。

「待て。野暮用ってなんだ。誰に何の用だ?」

「ジノン様には関係ない方ですわ」

「ほほぅ。婚約者なのにか」

「仮初の婚約者ですわ、だってジノン様にはちゃーんと運命の方がおられるんですから」

「まだそんな事言って。
んで?誰に、何の、用なんだ?」

しつこい。

ホラ双璧のお二人、

今こそ出番ですわよ。

「アリア様、ローズ様、ご機嫌よう。
お二人はもうデビュタントのエスコートはどなたかに決まりましたの?」


わたしが話を振ると
お二方は今日の本題を思い出したようで、途端に目の色変えた。

そしてジノン様に襲いかかりそうな勢いで迫り出した。

「殿下!殿下も今度の夜会で成人王族としてデビューされるのですわよね!?
わたしくも同じ日にデビュタントが決まっておりますの!是非ともわたくしをエスコートして下さいませ!」

「ずるいですわアリア様!
王太子殿下!是非ともわたくしのエスコートをお願いいたします!」

「え?困ったな。二人は無理だぞ。
どちらか一人でないと」

ジノン様が困った顔をする。

エスコートするのはいいんだ。

わたしは鷹揚に言ってやった。

「まぁぁ!ようございましたわね、お二人とも!わたしは、そこの王太子殿下に、デビュタントを禁止されておりますから羨ましい限りですわ!ここは是非ともお二人でジノン様を挟んで舌戦を繰り広げて下さいませね!」

と、わたしはジノン様をお二人に押し付けて脱兎の如く走り出した。


後ろからジノン様の声がする。


「おいジュリ!まだその事を怒ってるのか!お前には俺という婚約者がいるのだからデビュタントの必要はないだろ!こらジュリ、待て!ジュリ!」


何が必要ないだ!

ジノン様の勝手な判断で一生に一度のデビュタントを邪魔されてなるものか!

わたしだって年頃になったのだ。

キレイに着飾って、ダンスを踊って、美味しいものを食べたい!


ふん、ジノン様は婚約者としてのデビュタントは必要ないと言ったけど、

ランバード辺境伯令嬢としては必要ないとは言ってなかったわ。

3年後にジノン様の運命の相手が現れて捨てられたとしても、

もしかしたらこのデビュタントで誰かがわたしの事を覚えていてくれるかもしれないもの。

そしてもしかしたら婚約破棄されたわたしでも、普通の結婚が出来るかもしれないもの。


わたしは待ち合わせの場所、

お茶会会場の休憩室の一つに辿り着いた。

ノックしてドアを開ける。

するとそこには
わたしの双子のイトコ、ん?
イトコの双子、のリアム(♂)とリラム(♀)がいた。

「久しぶりね二人とも!元気にしてた?」

わたしは久方ぶりに会う父の弟の子ども、

それすなわちイトコの二人に飛びついて挨拶をした。

手紙でやり取りはしてたけど、直接会うのはホントに久しぶりだ。

二人とも一つ年上だけど、昔から仲良くして貰っている。

社交シーズンが始まり、

我が領地からランバード家のタウンハウスへ移って来たのだ。

二人のデビュタントは去年の社交シーズンで済ませている。


今年はわたしのデビュタントのために力を貸してくれるのだ。

だってジノン様がデビュタントさせてくれないから。

ずるい、自分だけちゃっかりデビューするなんて。


だからわたしは生家の力を結集して自分でデビュタントするつもりだ。

双子の妹のリラムにはドレスや装飾品、メイクやヘアスタイルの協力を。

兄のリアムにはデビュタントのエスコートをお願いする。

今日はお茶会に乗じて
秘密裏に打ち合わせに来てくれたのだ。

持つべきものはイトコである。

夜会は3日後。

ジノン様には何がなんでもバレないようにしないと。

わたしの一生に一度のデビュタントを

邪魔されたくないもの。


変に接してボロが出てもいけないから、

夜会まではなるべくジノン様と接触しないようにしよ~と。

















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