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第一章

辺境伯令嬢 シュ・ジュリ=ランバード ①

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信じられないかもしれないが、
彼女が予言持ちと言えば信じて貰えるのではないだろうか。

辺境伯令嬢シュ・ジュリ=ランバードには胎内での記憶がある。

自分が母の胎内でふよふよとご機嫌に浮かんでいる時に、不意に脳内に声が響いた。

「やぁ、はじめましてこんにちは。僕はイグリード。どうか僕のお願いを聞いてくれるかな?

キミにはこれから世界の存亡の鍵を握る王子に関わる重要な予言を授けるから、正しい時に正しい相手に告げて欲しいんだ。

これから予言を授けるのはキミを含めて3名だよ。
王子にはすでにキミと同じように予言を授けてある。

ひとりは王子の運命の相手を導き、その運命の相手が王子に予言を渡すのを見届ける者、つまりキミだ。

それから次がまさに王子の運命の相手で、王子の将来に関わる者。

そして最後のひとりは……
予言により正しい道に辿り着いた先に現れる。
その者に会えるかどうかで、
キミがちゃんと役目を果たせたかどうかの答えになる。

どうかな?
お願い出来るかな?」

この時ジュリは5ヶ月の胎児。
丁度安定期に入ったばかりだったので、返事の代わりに宙返りをしてみせた。

もちろん、臍の緒が首に巻きつかないように注意して。


「ありがとう。キミが10歳の時に、予言を持つ者としての証を右手の甲に出すから、それを合図に王子に会いに行って欲しい。

そして王子の運命を左右する、きたるべきその時に予言を呈してくれ。

引き受けてくれて嬉しいよ。
僕はいつもキミを見てる。決して姿は見せないけどね。

それじゃあ、頼んだよ。
僕はこれから、王様の夢の中へ行って、王子とその他3名に予言を授けた事を話してくる。

……期限の日に、キミに会える事を祈っているよ」

頭の中に響いていた声が遠のいてゆく……

寂しげで優しくて悲しげで温かい声。

その後、
さらに5ヶ月の月日を経て、ジュリが超安産の末に産婆の手で取り上げられるに至っても、その声を聞く事はもうなかった。





「どうして忘れていたんだろう」

母の胎内で聞いたあの声を。


今日で10歳の誕生日を迎えるジュリの右手に、予言持ちの証であるアザのような紋章が現れるまで、ジュリは胎内での記憶を失っていた。

しかし右手の紋章を見た瞬間、鮮明に思い出したのだ。

あの声が自分に告げた事を。

自分が託された予言の事を。


「……王子に会いに行かなくちゃ……」


ジュリは父が治める広大な土地を走り抜け、屋敷へと向かった。







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