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外伝 イズミルと後宮の隠し部屋
イズミル、反省する
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「イズミル」
「……はいグレアム様」
「今の話を要約すると、キミは俺に隠し部屋の状態を黙ったまま一人で動いていたという事になるな?」
「グレアム様、そこを要約してはいけませんわ。それに一人ではなく一応師匠にもご相談はしておりますもの」
「イズミル」
「はい……黙っていてごめんなさい……」
グレアムは大きく嘆息してイズミルの前に立った。
イズミルも女性にしては長身ではあるが、頭ひとつ分以上背が高いグレアムに間近で見下ろされると威圧感が半端ない。
しかもグレアムから感じる魔力の流れから彼の怒り具合がわかる。
自分が悪いとは自覚しているのでイズミルからはこれ以上何も言えない。
口にするとすれば謝罪だけだ。
でもあの時も、そして今もそうするしか無いという思いは変わらないので反省は出来ないのだが……。
「キミは、自分がどれだけ大切な存在か、本当に分かっているのか?」
「わかっているつもりですわ。グレアム様の唯一の妃としての立場は充分理解してお…「そうじゃない」
イズミルの言葉を遮ってグレアムが言った。
「妃として、いずれ国母となる身として尊い身である事は皆が知るところだろう。だけどそれだけじゃない。キミは俺にとって命と同等、いやそれ以上の存在なのだぞ。キミにもしもの事があれば、俺はもう生きてはゆけない。そこのところを理解してはくれていないんだな」
「っ………」
怒りというよりも痛みを感じているようなグレアムの声を聞き、イズミルは堪らなくなった。
グレアムの為にと動いていたが、自分が彼の立場だったどう感じただろう。
話してくれなかった事へのショックと本当に何事も無かったかという不安で悲しくなる。
「グレアム様……本当に、本当にごめんなさい」
反省しないなんてとんでもなく奢っていた自分が情けなかった。
大好きな人を悲しませたかったわけじゃないのに。
その時、大きな体に抱き寄せられた。
鼻腔を擽るフレグランスの香り。
今ではすっかり馴染んだ香りだ。
鍛え込まれた厚い体に手を伸ばして同じ様に抱きしめ返す。
心からの謝罪と愛しさを込めて。
するとグレアムの方からも更に力を込めて抱き締められる。
「ごめんなさいグレアム様。わたくしが愚かでした……」
どのくらいこうしていたのだろう。
永くもあるような短くもあるような。
永遠に身を寄せ合っていたいと思ってしまえるほどに愛している。
すると自分の頭よりも高い位置から、
グレアムの大きなため息が聞こえた。
そしてより一層ぎゅっと抱き竦められる。
思わず「うっ」という声が漏れるほどに。
それからグレアムが呆れた顔をして解放した。
「本当にキミってやつは……まぁそんなイズミルだから、俺は惚れたのだがな」
「グレアム様……」
「だが、もうこれきりにしてくれ。一人で出来る事も一人で何とかしようと思わず、必ず俺を頼る事。キミの夫は、キミが思っているより頼りになる男だと自負しているのだが?」
「ふふふ。ええ、本当に。頼りになる素敵な旦那様です」
「わかっているならそれでいい」
そう言ってグレアムはイズミルの額にキスを落とした。
おでこも心もくすぐったくてたまらない。
はにかむイズミルを優しい瞳で見つめながらグレアムは言った。
「それで?俺は当代の国王として何をすればいいんだ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いよいよあと二話で完結です。
最後までよろしくお付き合いくださいませ。
「……はいグレアム様」
「今の話を要約すると、キミは俺に隠し部屋の状態を黙ったまま一人で動いていたという事になるな?」
「グレアム様、そこを要約してはいけませんわ。それに一人ではなく一応師匠にもご相談はしておりますもの」
「イズミル」
「はい……黙っていてごめんなさい……」
グレアムは大きく嘆息してイズミルの前に立った。
イズミルも女性にしては長身ではあるが、頭ひとつ分以上背が高いグレアムに間近で見下ろされると威圧感が半端ない。
しかもグレアムから感じる魔力の流れから彼の怒り具合がわかる。
自分が悪いとは自覚しているのでイズミルからはこれ以上何も言えない。
口にするとすれば謝罪だけだ。
でもあの時も、そして今もそうするしか無いという思いは変わらないので反省は出来ないのだが……。
「キミは、自分がどれだけ大切な存在か、本当に分かっているのか?」
「わかっているつもりですわ。グレアム様の唯一の妃としての立場は充分理解してお…「そうじゃない」
イズミルの言葉を遮ってグレアムが言った。
「妃として、いずれ国母となる身として尊い身である事は皆が知るところだろう。だけどそれだけじゃない。キミは俺にとって命と同等、いやそれ以上の存在なのだぞ。キミにもしもの事があれば、俺はもう生きてはゆけない。そこのところを理解してはくれていないんだな」
「っ………」
怒りというよりも痛みを感じているようなグレアムの声を聞き、イズミルは堪らなくなった。
グレアムの為にと動いていたが、自分が彼の立場だったどう感じただろう。
話してくれなかった事へのショックと本当に何事も無かったかという不安で悲しくなる。
「グレアム様……本当に、本当にごめんなさい」
反省しないなんてとんでもなく奢っていた自分が情けなかった。
大好きな人を悲しませたかったわけじゃないのに。
その時、大きな体に抱き寄せられた。
鼻腔を擽るフレグランスの香り。
今ではすっかり馴染んだ香りだ。
鍛え込まれた厚い体に手を伸ばして同じ様に抱きしめ返す。
心からの謝罪と愛しさを込めて。
するとグレアムの方からも更に力を込めて抱き締められる。
「ごめんなさいグレアム様。わたくしが愚かでした……」
どのくらいこうしていたのだろう。
永くもあるような短くもあるような。
永遠に身を寄せ合っていたいと思ってしまえるほどに愛している。
すると自分の頭よりも高い位置から、
グレアムの大きなため息が聞こえた。
そしてより一層ぎゅっと抱き竦められる。
思わず「うっ」という声が漏れるほどに。
それからグレアムが呆れた顔をして解放した。
「本当にキミってやつは……まぁそんなイズミルだから、俺は惚れたのだがな」
「グレアム様……」
「だが、もうこれきりにしてくれ。一人で出来る事も一人で何とかしようと思わず、必ず俺を頼る事。キミの夫は、キミが思っているより頼りになる男だと自負しているのだが?」
「ふふふ。ええ、本当に。頼りになる素敵な旦那様です」
「わかっているならそれでいい」
そう言ってグレアムはイズミルの額にキスを落とした。
おでこも心もくすぐったくてたまらない。
はにかむイズミルを優しい瞳で見つめながらグレアムは言った。
「それで?俺は当代の国王として何をすればいいんだ?」
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いよいよあと二話で完結です。
最後までよろしくお付き合いくださいませ。
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