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外伝 イズミルと後宮の隠し部屋
グレアム君と街を廻る
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「イズミル!見てくれ!凄く目線が高くなって面白いんだ!」
今日のグレアム君はハイラント騎士団総団長であるヴァルター=ロス=バイヤールに肩車をされながらの登場であった。
バイヤールもグレアムが幼少の頃から側にいた人物の一人だ。
当然チビグレアムも彼の事はすぐに分かった。が、しかし……
「イズミル、バイヤールがおっさんになっていて笑ったぞ!」
「誰がおっさんですか」
バイヤールがすかさず抗議する。
まぁグレアム八歳当時のバイヤールは二十代前半くらいであっただろうから、そう思っても仕方ないかもしれないが。
しかも総団長に肩車とは……
「まぁ、ふふ。グレアム様ったら……」
グレアムはエンシェントツリーを見た翌日から、確実に何かが変わった様子だった。
ふっきれたというかなんというか……
以前にも増して今の生活を満喫しているようであった。
こうやって肩車をして貰うのもその一つ。
今日はイズミルと是非行ってみたい場所があるのだと言い、お忍びで出掛ける事になったのだ。
イズミルがチビグレアムに尋ねる。
「今日はどちらへ連れて行って頂けるのですか?」
「王都市街地だ」
「まぁご城下へ下りられるのですか?」
「ああ。ハイラントの民に紛れて、一日中イズミルと遊ぶのだ!」
「なんて素敵なのでしょう。楽しみですわ」
「そうだろう?イズミルならそう言うと思った」
そうして二人は平均的な王都民の服装に着替え、私服を着た少数の護衛と共に街へ出た。
(陰の護衛として暗部も動いていたようだ)
市場へ行って様々な品物を見る。
そして屋台で買い食いなどもした。
(毒見は欠かせない作業だったが)
それから公園へ行って人々が憩う姿を観察したり、王都を流れる河川の遊歩道なども散策してみた。
そして夕方近くに王都が程よく見渡せる丘に上がり、西日を受け輝く王都を眺めた。
「主な移動は馬車でしたが、それでも今日はよく歩きましたわね。グレアム様、お疲れではありませんか?」
「俺は大丈夫だ。と言いたいがさすがに疲れたな。でも今日は一日楽しかった」
「わたくしもです。ご一緒させて頂いてとても嬉しゅうございましたわ」
「我が国の民たちは皆、日々を懸命に生きているのだな」
「そうですわね。民達の生活を肌で感じ、改めて分かりましたわ。この国の豊かさと、安寧な暮らしを」
「そうだな。俺も感じたぞ」
「グレアム様の統治の賜物ですわ」
「俺が守り、大切にし続けているものだな」
「そうです。先代までの御代とは違い、短期間でさらに国力を上げ、執政を風通しよくする事で無駄を省き、財政を潤し民に還元されたグレアム様の手腕には大陸中の国々が賞賛しているのです」
「すごいな俺は!」
「はい。グレアム様は本当に凄いです」
そんな話をしながら、
いつまでも丘の上で二人手を繋いで街を眺めていた。
いつもならイズミルの手をすっぽりと包み込む大きな手が、今は反対にイズミルの手の中に収まっている。
その温かな柔らかい手が愛おしいと、イズミルは思った。
そして次の日にはチビグレアムの希望で先月に見つかったという王家の祖先の墓の遺跡へと訪れた。
昨日の今日で疲れているだろうからせめて翌々日にしてはどうかと提案したが、チビグレアムは平気だと言って遺跡へと向かった。
まるで何か急いでいるかのように。
当然、イズミルも遺跡に同行する。
そこは王都から三時間ほど馬車を走らせた場所にある壮大な森の近くにあった。
その土地は古くにはバルバストルと呼ばれていたらしい。
遺跡にはハイラント王立大学から沢山の人員が調査に当てられていた。
その邪魔にならぬように気遣いながら遺跡を見て周る。
チビグレアムは時折調査員に質問して、その説明を熱心に聞いていたりした。
やがて感慨深そうに遺跡に手を当て呟いた。
「この国の始まりの地だな」
「そうですわね。人も歴史も全てが始まった場所ですわ」
「俺が受け継ぎ、次代へと渡してゆくものだ……」
「グレアム様……」
イズミルが気遣わしげにチビグレアムの名を呼ぶ、と同時にグレアムは何かを見つけたらしく勢いよくその場所にいる調査員の元へと駆けて行った。
「それはなんだ?何かの武器かっ?ちょっと見せてくれ!」
その掛けて行く後ろ姿をランスロットと見送る。
ランスロットが小さくため息を吐いて言った。
「陛下は何をお考えなんでしょうね、連日お出かけなんて……そろそろ現実を見て前向きになって頂きたいのですが……」
その言葉を、グレアムの背中を見つめたままイズミルは答えた。
「……グレアム様はちゃんと前を向いておられますわ。今はきっと、あのお小さいグレアム様なりにご自分が背負われているものを確かめておられるのです」
「え……?」
イズミルには分かっていた。
グレアムが今何を考えているのかを。
そして遺跡の帰り道。
馬車の中でチビグレアムはこう告げた。
「イズミル、俺は決めたぞ。
呪いを解いて元の姿に戻る事を」
今日のグレアム君はハイラント騎士団総団長であるヴァルター=ロス=バイヤールに肩車をされながらの登場であった。
バイヤールもグレアムが幼少の頃から側にいた人物の一人だ。
当然チビグレアムも彼の事はすぐに分かった。が、しかし……
「イズミル、バイヤールがおっさんになっていて笑ったぞ!」
「誰がおっさんですか」
バイヤールがすかさず抗議する。
まぁグレアム八歳当時のバイヤールは二十代前半くらいであっただろうから、そう思っても仕方ないかもしれないが。
しかも総団長に肩車とは……
「まぁ、ふふ。グレアム様ったら……」
グレアムはエンシェントツリーを見た翌日から、確実に何かが変わった様子だった。
ふっきれたというかなんというか……
以前にも増して今の生活を満喫しているようであった。
こうやって肩車をして貰うのもその一つ。
今日はイズミルと是非行ってみたい場所があるのだと言い、お忍びで出掛ける事になったのだ。
イズミルがチビグレアムに尋ねる。
「今日はどちらへ連れて行って頂けるのですか?」
「王都市街地だ」
「まぁご城下へ下りられるのですか?」
「ああ。ハイラントの民に紛れて、一日中イズミルと遊ぶのだ!」
「なんて素敵なのでしょう。楽しみですわ」
「そうだろう?イズミルならそう言うと思った」
そうして二人は平均的な王都民の服装に着替え、私服を着た少数の護衛と共に街へ出た。
(陰の護衛として暗部も動いていたようだ)
市場へ行って様々な品物を見る。
そして屋台で買い食いなどもした。
(毒見は欠かせない作業だったが)
それから公園へ行って人々が憩う姿を観察したり、王都を流れる河川の遊歩道なども散策してみた。
そして夕方近くに王都が程よく見渡せる丘に上がり、西日を受け輝く王都を眺めた。
「主な移動は馬車でしたが、それでも今日はよく歩きましたわね。グレアム様、お疲れではありませんか?」
「俺は大丈夫だ。と言いたいがさすがに疲れたな。でも今日は一日楽しかった」
「わたくしもです。ご一緒させて頂いてとても嬉しゅうございましたわ」
「我が国の民たちは皆、日々を懸命に生きているのだな」
「そうですわね。民達の生活を肌で感じ、改めて分かりましたわ。この国の豊かさと、安寧な暮らしを」
「そうだな。俺も感じたぞ」
「グレアム様の統治の賜物ですわ」
「俺が守り、大切にし続けているものだな」
「そうです。先代までの御代とは違い、短期間でさらに国力を上げ、執政を風通しよくする事で無駄を省き、財政を潤し民に還元されたグレアム様の手腕には大陸中の国々が賞賛しているのです」
「すごいな俺は!」
「はい。グレアム様は本当に凄いです」
そんな話をしながら、
いつまでも丘の上で二人手を繋いで街を眺めていた。
いつもならイズミルの手をすっぽりと包み込む大きな手が、今は反対にイズミルの手の中に収まっている。
その温かな柔らかい手が愛おしいと、イズミルは思った。
そして次の日にはチビグレアムの希望で先月に見つかったという王家の祖先の墓の遺跡へと訪れた。
昨日の今日で疲れているだろうからせめて翌々日にしてはどうかと提案したが、チビグレアムは平気だと言って遺跡へと向かった。
まるで何か急いでいるかのように。
当然、イズミルも遺跡に同行する。
そこは王都から三時間ほど馬車を走らせた場所にある壮大な森の近くにあった。
その土地は古くにはバルバストルと呼ばれていたらしい。
遺跡にはハイラント王立大学から沢山の人員が調査に当てられていた。
その邪魔にならぬように気遣いながら遺跡を見て周る。
チビグレアムは時折調査員に質問して、その説明を熱心に聞いていたりした。
やがて感慨深そうに遺跡に手を当て呟いた。
「この国の始まりの地だな」
「そうですわね。人も歴史も全てが始まった場所ですわ」
「俺が受け継ぎ、次代へと渡してゆくものだ……」
「グレアム様……」
イズミルが気遣わしげにチビグレアムの名を呼ぶ、と同時にグレアムは何かを見つけたらしく勢いよくその場所にいる調査員の元へと駆けて行った。
「それはなんだ?何かの武器かっ?ちょっと見せてくれ!」
その掛けて行く後ろ姿をランスロットと見送る。
ランスロットが小さくため息を吐いて言った。
「陛下は何をお考えなんでしょうね、連日お出かけなんて……そろそろ現実を見て前向きになって頂きたいのですが……」
その言葉を、グレアムの背中を見つめたままイズミルは答えた。
「……グレアム様はちゃんと前を向いておられますわ。今はきっと、あのお小さいグレアム様なりにご自分が背負われているものを確かめておられるのです」
「え……?」
イズミルには分かっていた。
グレアムが今何を考えているのかを。
そして遺跡の帰り道。
馬車の中でチビグレアムはこう告げた。
「イズミル、俺は決めたぞ。
呪いを解いて元の姿に戻る事を」
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