後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!

キムラましゅろう

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外伝 イズミルと後宮の隠し部屋

グレアム君とエンシェントツリー

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「エンシェントツリーが見たい?」

ビスケットを食べているチビグレアムがその申し出をしてきたグレガリオを見た。

「先月、ハイラント王家の初代の墓かもしれない遺跡が見つかったのはご存知ですかな?」

チビグレアムはビスケットを咀嚼してごっくんと嚥下してから答えた。

「いいや。初耳だ」

「見つかったのですよ、ご先祖の墓の遺跡が。それでその御初代や奥方や一身等までの系譜を知りたいのじゃ」

「いいぞ」

軽い感じで答えたチビグレアムにランスロットが意見する。

「またそんなに簡単に許可をされて……グレガリオ先生も先生です、アレは一応王家の宝ですからね?」

「ふぉっふぉっふぉっ……♪」

「まぁいいじゃないか、減るもんでもないし。グレガリオはイズミルの先生なのだろう?だから特別だ」

「ふぉっふぉっ心の恩師ってやつですわい」

「心の恩師か、すごいな!」

「……」

何を言っても無駄そうだと、ランスロットは口を噤む事にした。



そうして次の日さっそく皆で王家の霊廟の中にある壁画の間へと足を運んだ。

チビグレアムとグレガリオ。
ランスロットにマルセルにゲイル。
そしてもちろんイズミルも一緒だ。

今日のイズミルのいでで立ちを見て、グレガリオは満足そうに笑った。

「ふぉっふぉっ、さすがはズーちゃん我が愛弟子じゃ。壁画の上部へと上がってくれる気満々じゃな」

「ええ。絶対にちょっと上がって見て来てくれと言われると思いましたから」

「ふぉっふぉっ」

イズミルは乗馬用のキュロットを着用している。

風の精霊シルフィールの精霊力を使って軽く浮遊する事が出来るからだ。

巨大な壁画の最上部を見るのに、スカートで上がる訳にはいかない。

それを聞き、チビグレアムが目をむいてイズミルに言った。

「ちょっと待て!イズミル、そなたが上がるつもりかっ?」

「ええ。前回の調査でも上がりましたから」

「危ないではないかっ!」

「大丈夫ですわ……「とは言わせませんよ。前回、バランスを崩して陛下に受け止められたのをお忘れですか?」

イズミルが告げようとした言葉は、ランスロットによって遮られた。
事実なので何も言い返せない。

「俺が受け止めたのかっ?」

チビグレアムがこれまた驚いた様子で言う。
イズミルは頷いた。

「ええそうなのです。その時、落下したわたくしをグレアム様が難なく受け止めて下さったのですわ。その節はありがとうございました」

「いや、俺がしたわけでは……いや俺が助けた事になるのか?しかし俺、凄いな……」

チビグレアムは自身の手をそっと見た。

小さくてか細い、子どもの手だ。

とても今回はイズミルが落ちても助けはれそうにはない。

「………」

じっと手を見つめるチビグレアムを他所にマルセルが言った。

「まぁ今日は俺か護衛騎士が受け止めますよ」

その言葉にイズミルは反論しておいた。

「今日も落ちる前提で言わないで欲しいですわ」

「落ちないとは言い切れないでしょう?」

「………」


イズミルは墓穴を掘らないためにもそれ以上は何も言わずさっさと浮遊して上に上がって行った。

「ズーちゃーん、御初代様の御名のスペル、一字一句間違えんようにしてくれ~い」

グレガリオが天井近くまで上がったイズミルに言った。

その調査中、グレアムは終始ハラハラと心配そうにイズミルを見ていた。

エンシェントツリーを見る許可など与えなければよかったと後悔するほどに。

何か起きても、今の自分にはどうする事も出来ない。

自分の妃なのに。

体の大きな周りの大人に任せねばならないジレンマをチビグレアムは初めて感じていた。

その後イズミルは無事に降りて来て、事なきを得た。

イズミルはメモ用紙をグレガリオに渡した。
そのメモにはエンシェントツリーの最上部の家族の名が書き写されている。

無事に降りた事を安堵しながらチビグレアムはその様子を見つめていた。

「なるほど……御初代様の御名はオラウンとな……」

「妃の名はウルリカ様と言うのですね」

グレガリオとイズミルの会話がどこか遠く感じた。

そしてチビグレアムは一番新しい枝の所に書かれた自分の名とイズミルの名を見つけた。

そこから更に枝が伸びていくのだろうか。

だけど今の自分では……


グレアムは首が痛くなるほど見上げて、
ハイラント王家エンシェントツリーの全体を見回していた。




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