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外伝 イズミルと後宮の隠し部屋
見つかった隠し部屋 ①
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※こちらの外伝はグレアムの正妃として公表された夏の大夜会と結婚式までの、本編では描かれなかった空白の日々のお話です。
番外編よりも時間が戻っておりますので、ご注意下さいませ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
紆余曲折を経てグレアムと想いが通じ合ったイズミル。
結婚式は半年後だが、イズミルは既に新しく改装された国王の居住区域へと移り住んでいた。
今まで息を潜めて暮らしていた後宮は、手付かずの状態が続いていたため老朽化も著しく早々に取り壊される事となったのだ。
王宮敷地内に隣接されているため、もちろん取り壊しは慎重に行われている。
イズミルは毎日、王宮の窓からその様子を眺めていた。
長年暮らした後宮だ。
何も感じない訳はない。
侍女のターナも同じ思いなのだろう、時折目元を指でそっと拭う姿が見られた。
ーーだけど……
時代は移り行く。
いつまでも変わらずにいられるものは何もない。
この変化もまた人生だ。
「でもどれだけ時が経とうと、変わらないものもあるわね」
イズミルが一人そう呟くと、後ろから声が聞こえた。
「何が変わらないんだ?」
「グレアム様!」
恩返しの為に青春の全てを捧げた夫、グレアムがイズミルの居室を訪れた。
「如何されましたの?まだ執務中のお時間だと思うのですが……」
窓辺で後宮の取り壊しを見ていたイズミルの元へとグレアムが歩み寄る。
「キミに報告したい事があって。それと書類ばかりと睨めっこで些か嫌気が差した。ならば我が妃の顔を愛ながら直接伝えようと思ってな」
「まぁグレアム様ったら」
イズミルがはにかんで微笑む。
そのイズミルの手を掬い取り、グレアムはその白く細い指先にキスをした。
そしてそのまま目線だけをイズミルに戻し、尋ねる。
「それで?何が変わらないと言うんだ?」
「後宮が取り壊されるのを見ていて思ったのです。時代は移り行き様々なものが変化してゆくけれど、変わらないものもあるのだと……」
そこまで言って、イズミルは頬を赤く染めて俯いた。
グレアムは続きを促す。
「その変わらないものとは?」
「………っ~~…」
「イズミル?」
赤い顔をグレアムに見せないように俯いていたイズミルだが、やがて意を決したように顔を上げて言い切った。
「わたくしの、グレアム様への想いです!」
言ったはいいがやはり恥ずかしくてイズミルはまた顔を伏せるように俯いた。
「…………」
沈黙が二人を包む。
どうしてグレアムは黙っているのだろう。
何も言ってくれないのだろう。
勇気を出して言ったのだから、せめて何か返事をして欲しい……と思ったイズミルがチラリとグレアムの顔を仰ぎ見た。
ーーまぁ、グレアム様ったら
イズミルは少し驚いた。
まさかグレアムがこんな反応を見せてくれるとは。
顔を赤らめて、気恥ずかしそうに片手で口元を覆い隠して横を向いている。
よく見ると耳まで赤い。
グレアムは少し、いやかなり照れくさそうに言った。
「その……なんだ、面と向かって言われると恥ずかしくはあるが…その、嬉しいものだな」
照れながらもそう言ってくれたグレアムに、イズミルの心が温かくなる。
ーーふふ。グレアム様、お可愛らしい。
そしてゆっくりと彼の胸に額を付けて身を寄せた。
グレアムがイズミルの背に腕を回して優しく抱きしめてくれる。
夫婦となり十年が経過している二人だが、
今が新婚、と言っても良い日々を過ごしている。
イズミルは今、心から幸せを噛み締めていた。
それから二人でお茶の時間を楽しんだ。
補佐官の時も何度もグレアムの執務室で他の側近達と一緒にお茶を飲んだが、やはり王と妃として二人で頂くお茶はまた格別だとイズミルは思った。
その時にグレアムからある事を聞かされる。
「後宮の解体に伴い、魔術トラップなどがないか宮内を調査した事は事前に伝えていたな?」
グレアムに訊かれ、イズミルは頷いた。
「はい。何せ千年の歴史のある後宮ですものね。ダンテルマの様な妃も沢山いたでしょうし、調査もせずに解体して、何か起こってはいけませんものね」
イズミルがそう言うと、
グレアムが端的に告げた。
「そうだ。そしてその調査の際に地下で隠し部屋が見つかった」
後宮の隅から隅まで知り尽くしているはずのイズミルも初めて知る事実であった。
番外編よりも時間が戻っておりますので、ご注意下さいませ。
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紆余曲折を経てグレアムと想いが通じ合ったイズミル。
結婚式は半年後だが、イズミルは既に新しく改装された国王の居住区域へと移り住んでいた。
今まで息を潜めて暮らしていた後宮は、手付かずの状態が続いていたため老朽化も著しく早々に取り壊される事となったのだ。
王宮敷地内に隣接されているため、もちろん取り壊しは慎重に行われている。
イズミルは毎日、王宮の窓からその様子を眺めていた。
長年暮らした後宮だ。
何も感じない訳はない。
侍女のターナも同じ思いなのだろう、時折目元を指でそっと拭う姿が見られた。
ーーだけど……
時代は移り行く。
いつまでも変わらずにいられるものは何もない。
この変化もまた人生だ。
「でもどれだけ時が経とうと、変わらないものもあるわね」
イズミルが一人そう呟くと、後ろから声が聞こえた。
「何が変わらないんだ?」
「グレアム様!」
恩返しの為に青春の全てを捧げた夫、グレアムがイズミルの居室を訪れた。
「如何されましたの?まだ執務中のお時間だと思うのですが……」
窓辺で後宮の取り壊しを見ていたイズミルの元へとグレアムが歩み寄る。
「キミに報告したい事があって。それと書類ばかりと睨めっこで些か嫌気が差した。ならば我が妃の顔を愛ながら直接伝えようと思ってな」
「まぁグレアム様ったら」
イズミルがはにかんで微笑む。
そのイズミルの手を掬い取り、グレアムはその白く細い指先にキスをした。
そしてそのまま目線だけをイズミルに戻し、尋ねる。
「それで?何が変わらないと言うんだ?」
「後宮が取り壊されるのを見ていて思ったのです。時代は移り行き様々なものが変化してゆくけれど、変わらないものもあるのだと……」
そこまで言って、イズミルは頬を赤く染めて俯いた。
グレアムは続きを促す。
「その変わらないものとは?」
「………っ~~…」
「イズミル?」
赤い顔をグレアムに見せないように俯いていたイズミルだが、やがて意を決したように顔を上げて言い切った。
「わたくしの、グレアム様への想いです!」
言ったはいいがやはり恥ずかしくてイズミルはまた顔を伏せるように俯いた。
「…………」
沈黙が二人を包む。
どうしてグレアムは黙っているのだろう。
何も言ってくれないのだろう。
勇気を出して言ったのだから、せめて何か返事をして欲しい……と思ったイズミルがチラリとグレアムの顔を仰ぎ見た。
ーーまぁ、グレアム様ったら
イズミルは少し驚いた。
まさかグレアムがこんな反応を見せてくれるとは。
顔を赤らめて、気恥ずかしそうに片手で口元を覆い隠して横を向いている。
よく見ると耳まで赤い。
グレアムは少し、いやかなり照れくさそうに言った。
「その……なんだ、面と向かって言われると恥ずかしくはあるが…その、嬉しいものだな」
照れながらもそう言ってくれたグレアムに、イズミルの心が温かくなる。
ーーふふ。グレアム様、お可愛らしい。
そしてゆっくりと彼の胸に額を付けて身を寄せた。
グレアムがイズミルの背に腕を回して優しく抱きしめてくれる。
夫婦となり十年が経過している二人だが、
今が新婚、と言っても良い日々を過ごしている。
イズミルは今、心から幸せを噛み締めていた。
それから二人でお茶の時間を楽しんだ。
補佐官の時も何度もグレアムの執務室で他の側近達と一緒にお茶を飲んだが、やはり王と妃として二人で頂くお茶はまた格別だとイズミルは思った。
その時にグレアムからある事を聞かされる。
「後宮の解体に伴い、魔術トラップなどがないか宮内を調査した事は事前に伝えていたな?」
グレアムに訊かれ、イズミルは頷いた。
「はい。何せ千年の歴史のある後宮ですものね。ダンテルマの様な妃も沢山いたでしょうし、調査もせずに解体して、何か起こってはいけませんものね」
イズミルがそう言うと、
グレアムが端的に告げた。
「そうだ。そしてその調査の際に地下で隠し部屋が見つかった」
後宮の隅から隅まで知り尽くしているはずのイズミルも初めて知る事実であった。
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