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番外編
番外編エピローグ そして繋いでゆく
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レオナルドとイズミルを連れ、グレアムは
今は自国の属州となったジルトニアへと訪れていた。
言うまでもなく、最愛の妃イズミルの祖国であった地である。
第一子レオナルドは大きな病気をする事もなく
すくすくと成長していた。
そのレオナルドも生後8ヶ月を迎えた。
少々の移動なら可能だろうという事を受け、
前々からジルトニア大公家の墓所へ参りたいと
考えていたグレアムは、それならばとレオナルドの顔見せも兼ねて、ジルトニアへと来訪したのである。
前回は一人でこっそりとジルトニアに帰郷した
イズミルも、今回は王妃として堂々とこの地を踏む事が出来た。
馬車から降り立つと、
大勢の国民たちに出迎えられた。
ジルトニアの元国民たちが一斉にアリスタリアに
集結したのではないかと思うほどに。
それほど皆、イズミルの帰郷を待ち望んでくれていたのだ。
イズミルは本当に嬉しかった。
そして家族の墓前に最愛の夫と息子と立てる事と、
イズミルよりも長くジルトニアへ帰る事が出来なかったターナを連れて来ることが出来た事も心から嬉しかったのだ。
イズミルはまさに感無量、といった面持ちであった。
今は州都となったアリスタリアに到着した後、
まずイズミルはグレアムと共に元大公家の居城や大公家の墓所を守ってくれている有志の数名と面会した。
ジルトニアに帰郷するにあたって事前にグレアムと相談し、ある事を告げる為に滞在しているホテルまで来て貰ったのだ。
有志の中の代表者数名が国王夫妻の前に立った。
皆、緊張した面持ちで固くなっている。
イズミルはすぐに代表者達の元へと駆け寄り、彼らの手を取った。
そして元居城を守り続けてくれた事と、
墓所を花で溢れる場所にしてくれた事を心から感謝した。
自分がどれほど嬉しかったか、どれほど有難かったかを涙を浮かべながら真摯に語った。
そして言葉では尽くせないほど感謝していると、
謝意を述べ続けたのだ。
その様子を目の当たりにした代表者数名は皆
感激し、そして幼かった公女がこれほどまでに
美しく成長を遂げた事を喜んだ。
グレアムは彼らにこれからは居城や墓所の保全や
管理に必要な費用は全て国が出す事を約束した。
必要であれば人材も出すと言うと、
敬愛する大公家のためにこれからも自分達でさせて欲しいと言ってくれた。
面会の後はレオナルドを連れて大公家の墓所へと向かった。
相変わらず墓所には色とりどりの花々が
咲き綻んでいる。
レオナルドが沢山の花を見て、
グレアムの腕の中から嬉しそうに手を伸ばす。
マルセルが花を一輪手折ってレオナルドに渡してくれた。
「レオ、良かったわね」
嬉しそうに花を触る息子にイズミルは微笑んだ。
レオナルドは近頃ますます顔立ちがしっかりしてきた。
父親譲りの黒髪に、イズミルと同じ、いやイズミルよりも少し濃いアメジストの瞳。
イズミルの侍女たちが将来美男子になるのは
間違いないと騒いでいる。
そして家族の墓の前に3人で立つ。
〈お父さま、お母さま、お兄さま……またこちらに伺う事が出来ました。今度はグレアム様と息子のレオナルドも一緒ですよ。どうかこれからも見守っていてくださいね〉
隣のグレアムを見ると、何やら熱心に祈っていた。
「グレアム様、何を祈っておられたのですか?」
「キミの父上達に、長くキミに寂しい思いをさせた事を詫びていたんだ。そしてこれからは必ず幸せにすると誓った」
「グレアム様……」
きっと父たちに届いているだろう。
そして心から祝福してくれていると思う。
愛するグレアムと結ばれて、
愛しいレオナルドを授かった事を。
イズミルが今、どれほど幸せなのか。
家族に見せる事が出来て、本当に良かった。
ジルトニアに行こうと言ってくれたグレアムに
心から感謝したい。
イズミルはそっとグレアムの頬に口付けをした。
一瞬驚いた顔をしたグレアムだが、
すぐに嬉しそうにイズミルの頬にもキスを返してくれた。
そしてもちろん、
ぷにぷにのレオナルドのほっぺにも。
王宮へ戻ると、
またいつもの愛しい日々が待っていた。
ソフィア=ローラインは変わらずイズミルの専属女性騎士として側に仕えてくれている。
この頃ではソフィアに続けと、ハイラント国内の
貴族令嬢で騎士を志す者が増えているという。
女性がやりたい仕事に就けるような社会の枠組みを
作っていかねばな、とグレアムが言っていた。
マルセルと結婚した後も、
リズルはイズミルの“側付き”として勤めてくれている。
侍女の時ほどずっとイズミルの側にいられない事を
嘆いていたが、愛する旦那さまとの家庭を守る事も
大切だとイズミルが言うと、リズルは頬を染めながら頷いていた。
マルセルとランスロットも相変わらずグレアムの側近として頑張ってくれている。
二人きりの時にグレアムがこう言っていた。
「近い将来、ランスロットには宰相職に就いて貰う。でもその前に嫁さんだな、今おばあさまがどこかに良い令嬢がいないか楽しそうに探しているよ」
リザベルの手に掛かればきっとあっという間に
良縁が繋がると思ったのだが、当のランスロットはまだ当分は結婚はしたくないと言うのだ。
今は仕事が楽しくて、考えられないと……。
「私は仕事と生涯を共にするつもりですからね、いわば私の伴侶は陛下といっても過言ではないかもしれません」
と、ランスロットがそう言った時のグレアムの
複雑な顔は見ものだったらしい。
そして「これからも政務の女房役を宜しく頼む」
と言って、ランスロットと笑い合ったそうだ。
乳兄弟として、幼馴染として、側近として、
そして友人として、ランスロットはこれからも
グレアムを支え続けてゆくのだろう。
頼もしい限りである。
リザベルとグレガリオの老獪組は相変わらず元気に
楽しくやっているようだ。
リザベルはまさに目の中に入れても痛くないという感じでレオナルドを可愛がり、「ひぃばーば」と
呼ばれ蕩けきった顔をしている。
グレガリオは今も時々気が向けば大学の教鞭を取り、学生たちを揶揄って楽しんでいるそうだ。
二人ともきっと100まで生きる事だろう。
皆こうして、かけがえのない日々を生きてゆく。
その安寧な暮らしを守るために
良き国づくりをしてゆこうと励むグレアムがいる。
そんな夫をイズミルは影に日向に支えながら、
夫婦二人三脚でハイラントという大国を治めていったのである。
その後二人の間にはレオナルドを含め
三男二女の子が生まれ、王室は賑やかなものに変わったという。
そしてその子ども達がまた子を成し、
そうやってハイラント王家とジルトニア大公家の
エンシェントブラッドが繋がれてゆくのだ。
イズミルの己の道を切り開く姿勢が、
自分だけでなくグレアムの人生も、延いては
ハイラントという国の未来をも切り開いたといえよう。
逆境にも負けず数奇な運命も乗り越えて
幸せを手にしたイズミル。
そんな彼女の人生は様々な物語として描かれ、
今の世にも語り継がれている。
そのイズミルを描いたどの物語の中でも
グレアムは生涯側妃を持たず、彼女だけを愛した甘々な夫として描かれているのを、本人は知る由もない。
「グレアム様」
「イズミル」
執務室の窓から城下を見渡すグレアムに
イズミルが声をかけた。
そして側に行き、隣に並び立つ。
「何をご覧になられていたのですか?」
「何を、という事はないんだ。ただこれからもこの国をより良くしてゆこうと思っていたのだ」
「ふふ、グレアム様らしい」
「そうか?」
「そうですわ。微力ながらもお手伝いさせていただきます。だって、わたしは生涯かけて、グレアム様に恩返しをするつもりですからね」
イズミルがそう言うと、
グレアムは眩しいものでも見るようにイズミルの頬に手を当てる。
「微力なものか。
側にいてくれるだけで百人力だぞ。それで充分だ」
「もちろん、わたしがこの世を去る日まで、あなたのお側におりますわ」
「……キミの方が長生きすると思うんだがな」
「そうですわね、父方も母方も長生きの家系ですから。ではわたくしがグレアム様をきちんと看取って差し上げますわね」
「はは、そうしてくれ」
「死が二人を分つまで?」
「死しても別れるつもりはない」
「ふふ」
イズミルは微笑んだ。
そしてそっと、最愛の夫にキスをした。
終わり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これにて番外編も完結です。
本編に引き続き
最後までお付き合いくださった皆さま、
本当にありがとうございました。
朝早くの更新にも関わらず、沢山の方に読んで頂けてとても嬉しく思っております。
最後まで書き続ける事が出来ましたのも読者さま
皆さまのおかげでございます。
一応、物語は終わりますが、
この作品は作者としては思い入れの強い物語でございます。
もしかしたら、エピソードが思いつく度に
番外編を書き続けるかもしれません。
なので完結設定はしないでおこうと思っております。
不定期な投稿になると思いますが、
もしまた投稿した時はお読み頂けると光栄です。
イズミルとグレアムの物語、
お付き合いくださいました事を両名になり代わりお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました!
キムラましゅろう
今は自国の属州となったジルトニアへと訪れていた。
言うまでもなく、最愛の妃イズミルの祖国であった地である。
第一子レオナルドは大きな病気をする事もなく
すくすくと成長していた。
そのレオナルドも生後8ヶ月を迎えた。
少々の移動なら可能だろうという事を受け、
前々からジルトニア大公家の墓所へ参りたいと
考えていたグレアムは、それならばとレオナルドの顔見せも兼ねて、ジルトニアへと来訪したのである。
前回は一人でこっそりとジルトニアに帰郷した
イズミルも、今回は王妃として堂々とこの地を踏む事が出来た。
馬車から降り立つと、
大勢の国民たちに出迎えられた。
ジルトニアの元国民たちが一斉にアリスタリアに
集結したのではないかと思うほどに。
それほど皆、イズミルの帰郷を待ち望んでくれていたのだ。
イズミルは本当に嬉しかった。
そして家族の墓前に最愛の夫と息子と立てる事と、
イズミルよりも長くジルトニアへ帰る事が出来なかったターナを連れて来ることが出来た事も心から嬉しかったのだ。
イズミルはまさに感無量、といった面持ちであった。
今は州都となったアリスタリアに到着した後、
まずイズミルはグレアムと共に元大公家の居城や大公家の墓所を守ってくれている有志の数名と面会した。
ジルトニアに帰郷するにあたって事前にグレアムと相談し、ある事を告げる為に滞在しているホテルまで来て貰ったのだ。
有志の中の代表者数名が国王夫妻の前に立った。
皆、緊張した面持ちで固くなっている。
イズミルはすぐに代表者達の元へと駆け寄り、彼らの手を取った。
そして元居城を守り続けてくれた事と、
墓所を花で溢れる場所にしてくれた事を心から感謝した。
自分がどれほど嬉しかったか、どれほど有難かったかを涙を浮かべながら真摯に語った。
そして言葉では尽くせないほど感謝していると、
謝意を述べ続けたのだ。
その様子を目の当たりにした代表者数名は皆
感激し、そして幼かった公女がこれほどまでに
美しく成長を遂げた事を喜んだ。
グレアムは彼らにこれからは居城や墓所の保全や
管理に必要な費用は全て国が出す事を約束した。
必要であれば人材も出すと言うと、
敬愛する大公家のためにこれからも自分達でさせて欲しいと言ってくれた。
面会の後はレオナルドを連れて大公家の墓所へと向かった。
相変わらず墓所には色とりどりの花々が
咲き綻んでいる。
レオナルドが沢山の花を見て、
グレアムの腕の中から嬉しそうに手を伸ばす。
マルセルが花を一輪手折ってレオナルドに渡してくれた。
「レオ、良かったわね」
嬉しそうに花を触る息子にイズミルは微笑んだ。
レオナルドは近頃ますます顔立ちがしっかりしてきた。
父親譲りの黒髪に、イズミルと同じ、いやイズミルよりも少し濃いアメジストの瞳。
イズミルの侍女たちが将来美男子になるのは
間違いないと騒いでいる。
そして家族の墓の前に3人で立つ。
〈お父さま、お母さま、お兄さま……またこちらに伺う事が出来ました。今度はグレアム様と息子のレオナルドも一緒ですよ。どうかこれからも見守っていてくださいね〉
隣のグレアムを見ると、何やら熱心に祈っていた。
「グレアム様、何を祈っておられたのですか?」
「キミの父上達に、長くキミに寂しい思いをさせた事を詫びていたんだ。そしてこれからは必ず幸せにすると誓った」
「グレアム様……」
きっと父たちに届いているだろう。
そして心から祝福してくれていると思う。
愛するグレアムと結ばれて、
愛しいレオナルドを授かった事を。
イズミルが今、どれほど幸せなのか。
家族に見せる事が出来て、本当に良かった。
ジルトニアに行こうと言ってくれたグレアムに
心から感謝したい。
イズミルはそっとグレアムの頬に口付けをした。
一瞬驚いた顔をしたグレアムだが、
すぐに嬉しそうにイズミルの頬にもキスを返してくれた。
そしてもちろん、
ぷにぷにのレオナルドのほっぺにも。
王宮へ戻ると、
またいつもの愛しい日々が待っていた。
ソフィア=ローラインは変わらずイズミルの専属女性騎士として側に仕えてくれている。
この頃ではソフィアに続けと、ハイラント国内の
貴族令嬢で騎士を志す者が増えているという。
女性がやりたい仕事に就けるような社会の枠組みを
作っていかねばな、とグレアムが言っていた。
マルセルと結婚した後も、
リズルはイズミルの“側付き”として勤めてくれている。
侍女の時ほどずっとイズミルの側にいられない事を
嘆いていたが、愛する旦那さまとの家庭を守る事も
大切だとイズミルが言うと、リズルは頬を染めながら頷いていた。
マルセルとランスロットも相変わらずグレアムの側近として頑張ってくれている。
二人きりの時にグレアムがこう言っていた。
「近い将来、ランスロットには宰相職に就いて貰う。でもその前に嫁さんだな、今おばあさまがどこかに良い令嬢がいないか楽しそうに探しているよ」
リザベルの手に掛かればきっとあっという間に
良縁が繋がると思ったのだが、当のランスロットはまだ当分は結婚はしたくないと言うのだ。
今は仕事が楽しくて、考えられないと……。
「私は仕事と生涯を共にするつもりですからね、いわば私の伴侶は陛下といっても過言ではないかもしれません」
と、ランスロットがそう言った時のグレアムの
複雑な顔は見ものだったらしい。
そして「これからも政務の女房役を宜しく頼む」
と言って、ランスロットと笑い合ったそうだ。
乳兄弟として、幼馴染として、側近として、
そして友人として、ランスロットはこれからも
グレアムを支え続けてゆくのだろう。
頼もしい限りである。
リザベルとグレガリオの老獪組は相変わらず元気に
楽しくやっているようだ。
リザベルはまさに目の中に入れても痛くないという感じでレオナルドを可愛がり、「ひぃばーば」と
呼ばれ蕩けきった顔をしている。
グレガリオは今も時々気が向けば大学の教鞭を取り、学生たちを揶揄って楽しんでいるそうだ。
二人ともきっと100まで生きる事だろう。
皆こうして、かけがえのない日々を生きてゆく。
その安寧な暮らしを守るために
良き国づくりをしてゆこうと励むグレアムがいる。
そんな夫をイズミルは影に日向に支えながら、
夫婦二人三脚でハイラントという大国を治めていったのである。
その後二人の間にはレオナルドを含め
三男二女の子が生まれ、王室は賑やかなものに変わったという。
そしてその子ども達がまた子を成し、
そうやってハイラント王家とジルトニア大公家の
エンシェントブラッドが繋がれてゆくのだ。
イズミルの己の道を切り開く姿勢が、
自分だけでなくグレアムの人生も、延いては
ハイラントという国の未来をも切り開いたといえよう。
逆境にも負けず数奇な運命も乗り越えて
幸せを手にしたイズミル。
そんな彼女の人生は様々な物語として描かれ、
今の世にも語り継がれている。
そのイズミルを描いたどの物語の中でも
グレアムは生涯側妃を持たず、彼女だけを愛した甘々な夫として描かれているのを、本人は知る由もない。
「グレアム様」
「イズミル」
執務室の窓から城下を見渡すグレアムに
イズミルが声をかけた。
そして側に行き、隣に並び立つ。
「何をご覧になられていたのですか?」
「何を、という事はないんだ。ただこれからもこの国をより良くしてゆこうと思っていたのだ」
「ふふ、グレアム様らしい」
「そうか?」
「そうですわ。微力ながらもお手伝いさせていただきます。だって、わたしは生涯かけて、グレアム様に恩返しをするつもりですからね」
イズミルがそう言うと、
グレアムは眩しいものでも見るようにイズミルの頬に手を当てる。
「微力なものか。
側にいてくれるだけで百人力だぞ。それで充分だ」
「もちろん、わたしがこの世を去る日まで、あなたのお側におりますわ」
「……キミの方が長生きすると思うんだがな」
「そうですわね、父方も母方も長生きの家系ですから。ではわたくしがグレアム様をきちんと看取って差し上げますわね」
「はは、そうしてくれ」
「死が二人を分つまで?」
「死しても別れるつもりはない」
「ふふ」
イズミルは微笑んだ。
そしてそっと、最愛の夫にキスをした。
終わり
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これにて番外編も完結です。
本編に引き続き
最後までお付き合いくださった皆さま、
本当にありがとうございました。
朝早くの更新にも関わらず、沢山の方に読んで頂けてとても嬉しく思っております。
最後まで書き続ける事が出来ましたのも読者さま
皆さまのおかげでございます。
一応、物語は終わりますが、
この作品は作者としては思い入れの強い物語でございます。
もしかしたら、エピソードが思いつく度に
番外編を書き続けるかもしれません。
なので完結設定はしないでおこうと思っております。
不定期な投稿になると思いますが、
もしまた投稿した時はお読み頂けると光栄です。
イズミルとグレアムの物語、
お付き合いくださいました事を両名になり代わりお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました!
キムラましゅろう
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