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第二部

お買い物

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 バスケットボールのように弾む愛に手を引かれ子供服売り場へ直行。

「手が取れちゃうよ」

「はやくはやく~」

 躾(しつけ)のできていない犬を散歩させている飼い主は、いつもこんな感じなのだろうか……。

 しかし子供服も変わったよなあ。子供服ブランドがこのフロアにいくつもある。愛はあちこち回り気にいった服にマーキングしていく。

「ママ着替えさせて~」

 やっと決まったようだ。私はやれやれとため息をこぼし一緒に試着室に入った。 親バカかもしれないけど可愛い。似合ってるじゃん、と私が言うと、愛はませた発言をした。

「いくと先生どう思うかなあ?」

「いや、普通に可愛いと思うでしょ……」

 すると愛は強い口調で、子供っぽいって思われたくないの! とほっぺを膨らませた。

 大丈夫、十分あんたは子供だからさ……とは言えるわけがない。

「大人っぽいよ! 女優さんみたい!」

「じゃあ、これにする!」

 上機嫌になった愛。どういう育て方したら、こんな風に育つんだ? 親の顔が見てみたい……って私か。
 
 そして愛に捕われていた視線が、ふと鏡の中の自分に移る。マジかあ……私って、こんなんだっけ……。華やかに着飾った愛にくらべ、私はいつも通りTシャツとデニム。

 中学以来スカートなんて穿いたことはなかったし、金がなかった私はお洒落をしたこともない。私って小汚いスウェット姿がお似合いだったよな。

 今だって仕事の時は素っ裸になっちゃうし、世間で言うアフター5もないし、通勤だけなら洗濯しやすいラフなシャツやTシャツとデニムで十分……うん十分だ。
  
 いざ会計へ……。値札をチェックする。……ぐえっ! 全部で二万オーバー! 目玉が跳び出そうだ。どうりで可愛いわけだよ。

「ねえ、愛。よく見たらこっちのが良くない?」

 お手頃な値段の服をさりげなく愛に薦めるが、ママはセンスないな~、と呆れた様子で返された。ああ……わかったわかった、買ったるわい! どうせ来年は身体が大きくなって、すぐ着れなくなっちゃうけど買ったるわい。くうううう!

「ママ、ありがとう」

 愛の反則スマイル。……可愛いから許すっ!  

 小さな身体で大事そうに紙袋を抱え、てくてく前を歩く愛が振り返った。

「次はママのお洋服だね」

 不意をつく愛の言葉に私は驚いた。

「えっ! ママはいらないよ!」

「ダメッ、たまにはオシャレしなきゃ」

 痛いトコつくなあ……。少しだけヘコんだ私を、マダムが着そうな婦人服売り場へ誘導する愛。これでも私はまだ23歳なんですけど……。愛ちゃん、いくらなんでもその婦人服はまだ早いって……。まだまだ女子高生で通用するっしょ……って、それは無理か。
 
 あちこち見てまわるが、私に買う気はまったくない。

「ママ、これどお~」

 愛が指差したのは、真っ白で、いかにも清楚なお嬢様が着そうなワンピースだ。

「カワイイと思うけど、ママには似合わないかなあ」

 どっからどう見ても私には似合いっこない。

「そんなことございませんよ。試着だけでもいかがですか?」

 店員さんが来ちゃったよ。正直、苦手……。

「失礼ですけど、ご姉妹でいらっしゃっいますか?」

「いえ親子です」

 見え見えなお世辞だけど、悪い気はしねえな! ワンピースを持って試着室へレッツゴー!

 鏡の中の真っ白なワンピースを着たら女性が驚きを隠せない様子で髪を整えた。……これが私? 私は恥じらいなが試着室のカーテンを開けた。

 愛は興奮した様子で目を爛々とさせて言った。

「わ~! ママ、すっごくキレイ!」

 愛はいつも嘘をつかない。

「お似合い過ぎて、まるで別人でございますね」

「……じゃあこれください」

 勢いで言っちまった。

「ではこのワンピースにピッタリのミュールはいかがですか?」

 いらない、と言いたいけど、私はスニーカーしか持っていない……。ワンピにスニーカーはありえないよな。ワンピとミュール二点お買い上げ……。無駄使いしちゃったよ。みえみえの店員さんのお世話にのせられてしまったああああ。くそお! 何で買っちゃったかなあ……と大層な紙袋を受け取った瞬間に思った。ああ疲れた。

「帰ろっか?」

「何いってるの、ママ、こっちこっち」

 愛はそう言って、ちょこまかと走っていく。次は何よ。買うもん買ったぞ。

「ちょっと待ってよお」

 私は疲れた体にムチを打ち愛を追いかけた。
  
「ママー、はやくはやく~」

 えっ……マジ!

「ママ、はやくえらぼうよ」

「ねえ、愛どういうこと?」

「あそこの遊園地、プールあるでしょ」

「そ、そうだけど……」

 連れて来られたのは水着売り場だった。愛と二人ならまだしも郁人先生もいるんだよな。

 仕事で金貰って素っ裸にはなれても、そうじゃない男性に……というか、郁人先生に水着姿を見せるのは、なんかあれだな。その前に身近な男の人に水着姿なんて見せたことないよ。理不尽なようだけど、やっぱ恥かしいな。でも愛の誕生日だしプールぐらいは仕方ないか。

「ママー、これにする」

 決めんの早えーな。それにしてもカワイイの選んだな。今度は値札チェック忘れねえぞ。
 うん、今度は適正価格。私も一応水着は持っているが、親同伴のスイミングスクールで着たやつだ。まさかそんな場所でビキニなんて着れるわけもなく、ダサいスポーツ水着を着るわけ。明日そのダサい水着を着てるところを想像するんだけど……マジありえないし! 郁人先生どうこうより、遊園地のプールで、そんなの着てたら逆に目立つ。買うしかないな。

 私は愛に訊いてみることにした。

「ママに似合いそうなのあるかな?」

「さがしてくるから待ってて!」

 愛は得意げにそう言うと店内を駆け回った。

「ママ―ッ!」

 おっ! もう見つけた。私は期待して愛の方へ向うと白い水着を手に取って待っていた。

「やっぱりママには白が似合うよ」

 真っ白いビキニに同色の少し長めでキラキラしたパレオが巻かれている。服の上からその水着をあててみた。

 まったく汚れのない真っ白な水着が私の躰に似合うのだろうか。

「試着させてもらうから待っててね」

 試着室に入り、服を脱ぎ捨て白い水着を纏って鏡に映す。どうなんだろう……初めてこういうの着るから、よくわからないや……。

「ママ見せて!」

 愛の弾んだ声から期待してるのがわかる。

「……ちょっと、待ってね」

 そう言って、しばらくしてからカーテンを開けた。
 
「どうして水着きてないの?」

 私は水着を脱ぎ捨て服に着替えていたのだ。明日のお楽しみだよ、と言ってはぐらかした。

 愛は首を傾げながら声を上げて残念がった。本音を言うと、なんか愛に見せる気になれなかったんだ。

 私の裸をに涎と精液を垂らして興奮する男達。それらの欲求を満たし、その金で愛の洋服や、この水着を買う私……。

 愛は似合いそうなものを私に選んでくれている。きっと水着を着ただけの裸に近い私のを褒めてくれるだろうけど、それを受け入れる気持ちを作れなかった。

 せっかく愛が選んでくれたんだから、もちろん買うよ。でも今日はゴメンね。急にどうかしてるよね……。
 
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