ゴーストスロッター

クランキー

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【第5章(最終章)】

■第125話 : 深慮遠謀

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「おい! なんでそのまま出てきちまったんだよ? ヒントを見た後、グルっと店内を回っただけじゃん? なんで店内に残らないんだ?」

ヒントを見てしばらく考え込んだ後、店内をグルリと一周し、そのまま店の外へ出た優司。

土屋たちもそれに従って外へ出たが、優司の行動に納得が行かず、外へ出るなりすぐに土屋が問い詰めた。

「店内に残ったって意味がないからだよ。まずはゆっくり考えたいんだ」

「なんでだよっ? 設定据え置きなんだろっ?
 迷うことなく、とりあえず昨日の設定6の台を押さえるべきだろ。
 ……あ! お前、さては昨日のデータを取ってないのか? どこに6が置かれてたかわからないのかっ?」

「まさか。そんなわけないよ。
 勝負が決まった日から昨日まで、欠かさずデータを取ってるよ。
 そんなことは当たり前。神崎だってやってるはずだ」

「そ、そうか……。安心したよ。
 じゃあ、昨日の設定状況はどうなってたんだ?」

「うん。
 設定6は、吉宗に2台、カイジに1台、北斗に1台、銭形に1台、夢夢に1台、だよ。
 つまり、それぞれのシマに1台ずつ6が入ってたってこと。もちろん、全部台番もわかってる」

「へぇ、各シマに必ず1台は6が入ってたのか。イベント前日だったってのに」

「今の機種ならそれくらい当たり前だよ。むしろ全然少ないって。
 どれもこれも、6だろうが平気で爆死する機種だからね」

「ふーん、そんなもんかぁ。
 ……で、ヒントで据え置きってはっきり書いてあんのに、なんで前日の6の台を押さえにいかないんだ?」

「このホールの話は土屋君も聞いてたでしょ? とにかくトリッキーなホールだって。
 このイベントにしても、いつもいつも読み解きづらい難解なヒントばっかりなんだよ。とんでもなくへそ曲がりなホールだからね。
 それを考慮すると、素直に前日の設定をそのまま据え置いてるとは思えない。
 ……でも、裏をかいてそのまま据え置き、って可能性もなくはないけどね。ったく、悩ましいよ」

「……で、なんで外へ出てきたんだ?」

「さっきも言ったでしょ? 店内に居ても意味がないから。まずはゆっくり考えつつ、状況が整うのを待つんだよ」

「状況が整うのを待つ?」

「ああ。見てたかどうかわからないけど、神崎も俺よりちょっと前に店外へ出てったのわかった?」

「ん……?
 ああ、そういえばあいつも外に出てってたな」

「でしょ。多分、神崎も同じことを考えてるんだと思う。
 朝一であのヒントを見て、他の客がダッシュで前日6だった台を押さえに行ったでしょ?
 立ち回りをわかってる人間なら、このイベントの時だけは前日の下見をするような人間も少し来るからね。で、カイジも速攻で取られて稼動されてた。それを確認して、俺も神崎も外に出たんだ。
 つまり、まずは前日6だったカイジの様子を見てから動こう、ってこと。あのラインナップでは、一番設定6がわかりやすい機種だからね、カイジは」

カイジの仕様を理解していた土屋は、すぐに納得した。

「なるほどなぁ。
 カイジって、確か設定6なら292Gを超えることがほぼないんだよな? 98.5%くらいは292G以内に当たるとか」

「即連とか小役解除を含めればもっと確率が高まるよ。俺が思うに、99%以上の確率で292G以内に収まる。
 つまり、早い段階で一度でも292Gを超えたら6じゃないと決めてOKだ。
 そりゃ、1%弱は超える可能性があるから、可能性がないわけじゃないけど、そこまで考慮してたらキリがないからね。
 で、昨日設定6だったカイジは0Gヤメされてるんだ。つまり、設定据え置きだったら292G以内に当たる可能性がめちゃくちゃ高いってわけ」

「へぇ~、凄いな。お前ら二人ともが一瞬で同じ作戦を思い描いて、それであんなに落ち着いてたのか。お前も神崎も、ゆっくりと外に出てったもんな」

「うん。とりあえず今稼動されてる前日6だったカイジが、292G回るまでは一旦見(ケン)に回る。これが正解でしょ。一度台を決めたらもう移動はできない、っていうこの勝負のルールならね。
 あの台が6なら、今日は裏をかいて素直に据え置き、っていう可能性も高まる。でも、俺も神崎も、そう単純じゃないとは思ってるよ」

「ふーん……。そっか、わかった。
 じゃあ、とりあえずここからはお前一人に任せていいか? 俺達がいてもしょうがなさそうだしな」

「ああ、いいよ。後は俺一人でやる。終わった頃に呼ぶよ」

優司としても、土屋たちにウロウロされることは望まなかったため、この申し出を素直に歓迎した。

「わかった。じゃあ、俺らはそこらへんで時間潰してるからよ。終わったら携帯で呼んでくれよ」

土屋がそう言って、その場を離れようとした時だった。
吉田が不意に言葉を発した。

「あ、俺はちょっと用事があるから、ここで一旦抜けるよ。また勝負が終わる頃には来るからさ。とりあえず、俺抜きで時間潰しててよ」

全く予期していなかったのか、少し怪訝そうな顔をする土屋。
しかし、すぐに気を取り直して答えた。

「……わかった。じゃあ、俺と丸島と柿崎で時間潰しとくよ」

「ああ、悪いね。じゃ、また後で」

そう言って、吉田はその場を離れていった。

「いいのか土屋? 勝手に行かせて」

丸島が心配そうに土屋に聞いた。

「別にいいだろ。そろそろ要らなくなる奴だし。勝手に行動させとけよ」

「まあ、そうか。その通りだな」

(要らなくなる奴、か……。吉田が自分で言ってた通りだな。もう金づるは要らないって感じか。
 俺の前で堂々とこんな話をするくらいだから、吉田が切られる日は近いんだろうな)

土屋たちの会話を聞きながら、優司は密かにそう思った。



◇◇◇◇◇◇



開店から20分後。
土屋たちは皆どこかへ散っていき、神崎側の人間たちも一旦離れた。

そして優司と神崎は、店内にてカイジの158番台が見える位置に陣取ってシマを注視していた。

広瀬と伊藤は、少し離れた位置から二人を観察している。

このカイジの158番台は、前日に設定6だった台。
もちろん、優司も神崎もそのことはわかっている。

設定6を見抜きやすいカイジにて、設定据え置きというヒントが万に一つ本当かもしれないという疑念を晴らそうとしているのだ。

カイジは154番台から162番台までの9台設置。
このホールでは最も新しい台。

しかし、このホールの客層は「勝つための立ち回りをあまり知らない・意識しない」という人間が多く、北斗や吉宗に比べあまり爆裂することがないカイジは、『ミラクル』においては普段から人気がなかった。

『ミラクル』の客の多くは、ガラガラの店で気ままに爆裂台を打ちたい、という客層がほとんど。

そのためカイジのシマは、今現在も前日6だった台以外は全く稼動されずに放置されていた。
リセットゾーンすら狙われず。

回っているのは、前日6だった158番台のみ。
シマの中央に位置する台だ。

優司が思考を巡らせる。

(カイジの158番台、今227Gか……。あと65G。それで、据え置きというヒントが本当かどうかわかる。
 ストックを飛ばされてたら話は別だけど、以前チェックしてた時はそういう傾向は見られなかったし、勝負が決まってからのチェックでもストック飛ばしはなかった。断言はできないけど、とりあえず大丈夫だと判断していい。292Gを超えたら、設定6の可能性は限りなく低いと思ってOKだ。
 逆に、超えずに濃いゾーンで当たったら素直に据え置きかも……。まあ、多分それはないと思うけど。
 で、違うなら、『昨日の設定6がそのまま』ってのはどういうヒントなのかってのを考えなくちゃならない)

さらに深く考え込む。

(それにしても……吉宗以外は全台、前日と前々日の履歴が消えてるのも気になる……。
 設定据え置きかどうかをわからせないようにするため、データ表示機を全部リセットしたってのか?
 相変わらず不気味なホールだ……)

158番台を凝視しながら、そんなことを考えていた。 
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