ゴーストスロッター

クランキー

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【第5章(最終章)】

■第123話 : 最終戦、ここに開戦

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2005年1月10日、月曜日。
ついに、優司と神崎との勝負の日を迎えた。

ほとんど並びができることなどないホールである『ミラクル』。
このホールの前で、優司・土屋・丸島・吉田・柿崎の5人が既に待機していた。

集合時間は9:45の予定。
現在、9:35。

「もうそろそろだな。夏目、緊張はしてねぇか?」

土屋が優司に問いかけた。

「……してないって言ったら嘘になるね。待ちに待った時だし」

「ふーん……そうか」

土屋の返事が素っ気無かった。

しかしこの素っ気なさは、何か含みを持たせているわけでもなんでもなく、ただ緊張していたことが原因だった。

土屋にとっても因縁のある勝負。
やはり、ある程度の緊張は避けられなかった。

そして丸島も吉田も柿崎も、いつもと違いやや表情が固い。

土屋が言う。

「とにかく……勝てよ夏目。丸島と柿崎が必死で動いて、なんとかこの勝負を取り付けたんだからな。無様に負けたりすんじゃねぇぞ」

「わかってるよ。それについては心配ご無用だ。昨日も言った通り、俺は絶対に負けない。奇特なホールでの勝負とはいえ、設定読み勝負である以上俺が負けるわけにはいかないし、負けるはずないんだ」

「おお、心強いねぇ。そうこなくちゃな。頼りにしてるぜ?」

優司は、無言のまま小さく頷いた。

二人のやりとりが一区切りついたところで、丸島が話を変えた。

「それにしてもこのホール、本当に客がこねぇんだな? もう9時40分だってのにまだ俺達だけじゃん。
 さすがの夏目も、このホールは読めねぇって言って一度も打ち子に来させたことないもんな」

優司が答える。

「ああ。しっかり立ち回れる腕を持ってて、それでもなおこのホールに打ちに来る人間なんて、ほとんど
いないんじゃないかな。
 このホールの客は、たまにパチから流れてくる近所のおじちゃんおばちゃんとか、サボリーマンとか、その他フラっと寄った一見客くらいでしょ」



ここ『ミラクル』は、パチンコとパチスロの併設店。
1階フロアがパチンコで設置台数は全108台、2階フロアがパチスロで設置台数は全54台となっている。

2階のパチスロフロアは9台シマが6つあり、機種構成は以下の通り。

●吉宗 : 18台
●回胴黙示録カイジ : 9台
●北斗の拳 : 9台
●夢夢ワールドDX : 9台
●主役は銭形 : 9台

ちなみに、以下がホール内のおおまかな見取り図。(数字は台番)



どちらかというとパチンコメインの店だが、普段の客付きはパチンコもパチスロもあまりよくはない。

しかし、イベントでは確実に設定6が投入され、しっかり発表も行なわれるので、イベントの日に
限っては多少パチスロフロアの稼動が上がる。

とはいえ、それでもある程度腕のある人間たちからすると全然物足りないレベルで、中級者以上の
打ち手はなかなか寄り付こうとしなかった。

各台についているデータ機器については、前日・前々日のものまでがチェックできる仕様。
当日のデータに関しては、何ゲームで当たったかの履歴も追える。



「まあ、こういうホールの方が今日に限ってはいいけどな。やたらと人がいる中で、やれ勝負だなんてやってられないからな。おかげで邪魔されずにスムーズに事が進みそうだ」

丸島が喋り終わった途端、吉田が何かに気付き口を開いた。

「あ……来たみたいだよ」

皆、その声に反応し、吉田が見据える方向へ首を向けた。

すると、50mほど先から4人の若い男が『ミラクル』を目指して歩いてくるのがわかった。



◇◇◇◇◇◇



「お前らのことだから、時間ギリギリか、少し遅れてくるぐらいかと思ってたら。まさか俺らの方が後になるとはね」

到着するなり、神崎は土屋に向かって話しかけた。

「おう神崎、久しぶりだな。
 珍しく早く来てるだろ俺ら? まあ、俺はもっとゆっくりでいいって言ったんだけどよ、夏目の奴が20分前には着きたいって言うからな。慎重な奴だろ、こいつ。この慎重さで、今日もきっちり勝ってもらうからよ」

約1年ぶりとなる再会。
決して良好とは言えない、というより険悪な関係の二人だが、大事の前の小事と言わんばかりに様々な感情を抑えつつ普通に会話をする二人。

だが、感情を抑えられずに思いきり表情が変化してしまっている人間がいる。

優司だった。

(この男が……神崎……?
 そんな……。あの時の、パニック障害の人じゃないか……。
 本当に……この男が……神崎……?)

駅へ続く遊歩道にて、神崎が倒れこんでしまったのを助けた時以来の再会。
優司は、助けた男が神崎だということを今初めて知ったのだった。

一人大きく動揺している優司の様子に気付いた神崎は、「無理もない」といった落ち着いた感じで優司に話しかけた。

「よっ。元気だったかい?
 あの時は世話かけちゃって悪かったね」

「やっぱり……あの時の……?
 き、君が……神崎……君……だったの?」

「そう。ごめんな、あの時名乗らなくて。俺は途中で君が夏目優司君だってことに気付いたんだけどさ、つい名乗りそびれちゃって」

「…………」

「いろいろ言いたいことがあるかもしれないけどさ、それはまあ後でってことで。とりあえず、今日は勝負だしね。
何がどうなるかわからないけど、お互い全力でやろうよ」

大丈夫なの?という言葉を思わず口にしそうになったが、なんとか小さく頷くだけに留まった。

今ここでパニック障害のことについて触れてもややこしくなるだけだし、そもそも触れられたくないかもしれない。
そう配慮し、余計なことを言うのは控えたのだった。

「なんだ夏目、どこかで会ってたのか?」

二人のやりとりを聞いていた土屋が、意外そうに優司に質問をした。

「いや、まあ……。ほんの少しだけね。ちょっといろいろあって」

「……」

「でも、それが今日の勝負に何か関係してくるわけでもないし、別に問題はないよ」

少し間を置いた後に答える土屋。

「ふーん……そうか。まあ、今日の勝負に問題がないってんなら別にいいんだけどな」

と、土屋が喋り終わったその時だった。

「お? もう来てるね。どっちも遅刻なし、か。さすが気合入ってるね!
 って、気合うんぬんじゃなくて、遅刻しないのが当たり前か」

いつの間にか、広瀬たちも到着していた。 
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