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【第5章(最終章)】
■第112話 : 土屋の所業の真実
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聞き覚えのある声が背後から聞こえ、咄嗟に振り向く優司。
「あ……。
み、御子神留依……さん……?」
「いちいち確認しなくてもわかるでしょ。あなたは、1ヶ月くらい会わないだけですぐ忘れちゃう人なの?」
突然の御子神の登場で、優司はこの上なく面食らった。
御子神を指差しながら、口をポカンと開けながら固まっている。
ここ1ヶ月は、土屋のグループの人間数人としか喋っておらず、しかも彼らとは心の通った会話など一切ない。
そんな状態で、決して親しいとは言えないが、少し前までまともに会話をしていた相手である御子神が突然現れたことにより、喜びと驚きとが入り混じり、つい固まってしまったのだ。
しかし、すぐに気を取り直し、急いで服の裾で目を拭った。
自分が涙目になっていることに気付いたからだ。
そんな優司の様子を見ながら、御子神が話しだした。
「だいぶ参ってるみたいね。
……少し話でもする? そこの喫茶店にでも入って」
「え……?」
「あなたが一人でフラフラしてることなんてあんまりないみたいだからね。いつもは付きまとってくるんでしょ? ボディガードみたいなのが」
「う、うん。まあ……。
でも、どうしてそれを?」
「そんなことはどうでもいいでしょ。
それより、今しかないんだから早く入りましょうよ」
そう言って、御子神は近くにある喫茶店の方へスタスタと歩いていった。
吸い寄せられるように、優司もそれに従った。
◇◇◇◇◇◇
店の奥の方にある二人掛けの席に座った御子神と優司。
御子神の前にはホットミルクティー、優司の前にはホットコーヒーが置かれている。
座ってからしばらくは、二人とも無言だった。
二人とも、飲み物から出る湯気をボーっと眺めていた。
しばらく経ってから御子神が顔を上げ、おもむろに喋りだした。
「なんで彼らのグループに入ったの?」
突然の質問に、ビクっと顔を上げる優司。
何も考えず、思わず素直に返答した。
「え? いや……。
彼らに手を貸せば、神崎とのパチスロ勝負ができるってことになって……それで……」
「はぁ?」
「ち、違うんだよ。もう俺一人じゃ神崎との勝負なんて無理そうだったから、やむなく……」
「バッカじゃないの? 本当にそんなことのために?」
「そ、そんなことってなんだよっ!
大体アンタは、前からそうやって何も知らないで俺のやってることを否定――」
優司の言葉を遮るようにして、御子神が声を荒げて喋りだす。
「今この街で、君がどういうふうに言われてるか知ってるっ?」
不意に大きな声を出した御子神に気圧される優司。
「ど、どういうふうに……って?」
「そもそも、土屋君がどういう人か知ってて一緒にいるの?」
「土屋……君?」
「ああ、そっか。そういえば言ってなかったわね。
地元が同じなの。私と和弥と土屋君はね。小・中学校がずっと一緒だったのよ」
「えっ?」
ぼそぼそと元気なく喋っていた優司だったが、ここへきて急に頓狂な声をあげてしまった。
それほどの驚きが優司を襲った。
「さ、3人とも……同級生……?」
「そうよ」
「…………」
「そんなことは今はどうでもいいわ。
それより、土屋君が1年前にどういうことをしたか知ってて彼らと一緒にいるの?」
「ど、どういうことって……。
あれでしょ? 神崎を自分達の仲間に加えようとして誘ったけど断わられて、その腹いせで地元から腕の立つスロッターをたくさん呼んで、この街で一緒に立ち回ってたんでしょ?
そしたら、神崎のグループの人間が喰えなくなってきたから、土屋たちを地元に追い返そうとして神崎がパチスロ勝負を挑んだんだよね?」
「…………」
「確かに土屋は、性格も悪いし憎たらしい奴だから嫌いだけど、1年前のこと自体は別にそれほど問題はないじゃん。人がどこで立ち回ろうが自由だし、それで高設定が取れなくなったんなら取れなくなった人たちの腕が足りないだけだよ。
まあ、腹いせで地元からたくさん人呼ぶ、ってのはなんかスマートじゃないけどさ」
「……なるほどね。1年前のこと、土屋君からはそう聞いてるんだ」
「え……? そう聞いてるって……?」
「全然違うよ。彼らがやったのは、そんな生易しいことじゃないの」
「は?」
「土屋君がこの街に来て、神崎君に協力を依頼した。で、断わられた。ここまではその通りよ。
でも、土屋君が次に取った行動は、『ケンカの』腕がある仲間や後輩を地元からたくさん呼んだの。パチスロの腕なんかじゃなくてね」
「……?」
「で、彼らはこの街でスロット打ってる人たちを手当たり次第的にかけていったの。打ち終わった人を複数人で囲んで裏道に連れて行って、そこで殴る蹴るの暴力を振るう。捨てゼリフで『恨むなら神崎を恨め』と言い残していく。もちろん、警察に駆け込んだりしないように充分脅してね。
この街でスロット打つ人を無差別で狙ってたみたいだから、かなりの人数がやられたみたいよ。中には大怪我した人もいたって」
「う……嘘だ……。そんなこと一言も……」
「1ヶ月くらい彼らといるんでしょ? 1ヶ月付き合ってみてどうだった? 彼らは嘘をついたりとかしなさそうなの?」
御子神のこのセリフに、下唇を噛みながら下を向いてしまう優司。
「そんな様子を見るに見かねて、神崎君が仕方なく勝負を挑んだのよ。自分が勝ったらこの街から出て行ってくれって」
「そ、そんな……。俺の聞いてた話と……全然違う……」
「その様子だと、日高君も的にされた、ってことも知らなさそうね」
「はっ? ひ、日高も……やられた……?」
「そうよ」
「ほ、本当に……?」
「ええ、本当よ。
私はスロットなんて打たないし、本来私には全然関係ない騒動だったんだけど、この騒動を起こしてるのが同級生だった土屋君たちだってわかって、当時私なりにいろいろ調べたのよ。
自分の同級生がやってることだし、万が一和弥に何かあったらイヤだったしね。
で、お客さんとかに聞いたりしながら結構調べたの。だから、あの頃のことについては詳しいつもり。日高君も確かにこっぴどくやられてたわ」
「……そ、それで、日高たちはやり返さなかったの?」
「無理よ。人数が違うもの。
土屋君たちは40人くらいいたのよ。それも、ケンカばっかりしてるような人ばかり」
「40人っ?」
「そう。どうやら、お金で釣って地元からいっぱい人を呼んでたみたいね。
吉田君って知らない?」
「吉田……?
あの無口でおとなしい……?」
「そう。彼も私達と同級生なんだけど、彼がスポンサーになって人を集めてたみたい。吉田君の家はお金持ちだから」
(そういうことか……。だから、あんな無口でノリも悪いのに幹部扱いされてるんだ、吉田は)
優司の中でさりげなく不思議に思っていたことが解決した。
しかし、今はそんなことはどうでもよかった。
「そ、それより……日高たちはその後どうしたのっ?」
「だから、どうしたもこうしたもないわ。泣き寝入りよ」
「泣き寝入り……?」
「だって、どうしようもないでしょ? どうやったって力じゃ勝てないんだから。諦めるしかなかったのよ。
だから、今でも土屋君のことは相当憎んでるんじゃない?
そんな相手がまたのうのうとこの街に来てるんだから、穏やかじゃないと思うわよ」
「そ、そんな……」
優司は絶句してしまった。
今御子神から聞いたどの真実よりも、日高の一件が何よりショックだった。
「あ……。
み、御子神留依……さん……?」
「いちいち確認しなくてもわかるでしょ。あなたは、1ヶ月くらい会わないだけですぐ忘れちゃう人なの?」
突然の御子神の登場で、優司はこの上なく面食らった。
御子神を指差しながら、口をポカンと開けながら固まっている。
ここ1ヶ月は、土屋のグループの人間数人としか喋っておらず、しかも彼らとは心の通った会話など一切ない。
そんな状態で、決して親しいとは言えないが、少し前までまともに会話をしていた相手である御子神が突然現れたことにより、喜びと驚きとが入り混じり、つい固まってしまったのだ。
しかし、すぐに気を取り直し、急いで服の裾で目を拭った。
自分が涙目になっていることに気付いたからだ。
そんな優司の様子を見ながら、御子神が話しだした。
「だいぶ参ってるみたいね。
……少し話でもする? そこの喫茶店にでも入って」
「え……?」
「あなたが一人でフラフラしてることなんてあんまりないみたいだからね。いつもは付きまとってくるんでしょ? ボディガードみたいなのが」
「う、うん。まあ……。
でも、どうしてそれを?」
「そんなことはどうでもいいでしょ。
それより、今しかないんだから早く入りましょうよ」
そう言って、御子神は近くにある喫茶店の方へスタスタと歩いていった。
吸い寄せられるように、優司もそれに従った。
◇◇◇◇◇◇
店の奥の方にある二人掛けの席に座った御子神と優司。
御子神の前にはホットミルクティー、優司の前にはホットコーヒーが置かれている。
座ってからしばらくは、二人とも無言だった。
二人とも、飲み物から出る湯気をボーっと眺めていた。
しばらく経ってから御子神が顔を上げ、おもむろに喋りだした。
「なんで彼らのグループに入ったの?」
突然の質問に、ビクっと顔を上げる優司。
何も考えず、思わず素直に返答した。
「え? いや……。
彼らに手を貸せば、神崎とのパチスロ勝負ができるってことになって……それで……」
「はぁ?」
「ち、違うんだよ。もう俺一人じゃ神崎との勝負なんて無理そうだったから、やむなく……」
「バッカじゃないの? 本当にそんなことのために?」
「そ、そんなことってなんだよっ!
大体アンタは、前からそうやって何も知らないで俺のやってることを否定――」
優司の言葉を遮るようにして、御子神が声を荒げて喋りだす。
「今この街で、君がどういうふうに言われてるか知ってるっ?」
不意に大きな声を出した御子神に気圧される優司。
「ど、どういうふうに……って?」
「そもそも、土屋君がどういう人か知ってて一緒にいるの?」
「土屋……君?」
「ああ、そっか。そういえば言ってなかったわね。
地元が同じなの。私と和弥と土屋君はね。小・中学校がずっと一緒だったのよ」
「えっ?」
ぼそぼそと元気なく喋っていた優司だったが、ここへきて急に頓狂な声をあげてしまった。
それほどの驚きが優司を襲った。
「さ、3人とも……同級生……?」
「そうよ」
「…………」
「そんなことは今はどうでもいいわ。
それより、土屋君が1年前にどういうことをしたか知ってて彼らと一緒にいるの?」
「ど、どういうことって……。
あれでしょ? 神崎を自分達の仲間に加えようとして誘ったけど断わられて、その腹いせで地元から腕の立つスロッターをたくさん呼んで、この街で一緒に立ち回ってたんでしょ?
そしたら、神崎のグループの人間が喰えなくなってきたから、土屋たちを地元に追い返そうとして神崎がパチスロ勝負を挑んだんだよね?」
「…………」
「確かに土屋は、性格も悪いし憎たらしい奴だから嫌いだけど、1年前のこと自体は別にそれほど問題はないじゃん。人がどこで立ち回ろうが自由だし、それで高設定が取れなくなったんなら取れなくなった人たちの腕が足りないだけだよ。
まあ、腹いせで地元からたくさん人呼ぶ、ってのはなんかスマートじゃないけどさ」
「……なるほどね。1年前のこと、土屋君からはそう聞いてるんだ」
「え……? そう聞いてるって……?」
「全然違うよ。彼らがやったのは、そんな生易しいことじゃないの」
「は?」
「土屋君がこの街に来て、神崎君に協力を依頼した。で、断わられた。ここまではその通りよ。
でも、土屋君が次に取った行動は、『ケンカの』腕がある仲間や後輩を地元からたくさん呼んだの。パチスロの腕なんかじゃなくてね」
「……?」
「で、彼らはこの街でスロット打ってる人たちを手当たり次第的にかけていったの。打ち終わった人を複数人で囲んで裏道に連れて行って、そこで殴る蹴るの暴力を振るう。捨てゼリフで『恨むなら神崎を恨め』と言い残していく。もちろん、警察に駆け込んだりしないように充分脅してね。
この街でスロット打つ人を無差別で狙ってたみたいだから、かなりの人数がやられたみたいよ。中には大怪我した人もいたって」
「う……嘘だ……。そんなこと一言も……」
「1ヶ月くらい彼らといるんでしょ? 1ヶ月付き合ってみてどうだった? 彼らは嘘をついたりとかしなさそうなの?」
御子神のこのセリフに、下唇を噛みながら下を向いてしまう優司。
「そんな様子を見るに見かねて、神崎君が仕方なく勝負を挑んだのよ。自分が勝ったらこの街から出て行ってくれって」
「そ、そんな……。俺の聞いてた話と……全然違う……」
「その様子だと、日高君も的にされた、ってことも知らなさそうね」
「はっ? ひ、日高も……やられた……?」
「そうよ」
「ほ、本当に……?」
「ええ、本当よ。
私はスロットなんて打たないし、本来私には全然関係ない騒動だったんだけど、この騒動を起こしてるのが同級生だった土屋君たちだってわかって、当時私なりにいろいろ調べたのよ。
自分の同級生がやってることだし、万が一和弥に何かあったらイヤだったしね。
で、お客さんとかに聞いたりしながら結構調べたの。だから、あの頃のことについては詳しいつもり。日高君も確かにこっぴどくやられてたわ」
「……そ、それで、日高たちはやり返さなかったの?」
「無理よ。人数が違うもの。
土屋君たちは40人くらいいたのよ。それも、ケンカばっかりしてるような人ばかり」
「40人っ?」
「そう。どうやら、お金で釣って地元からいっぱい人を呼んでたみたいね。
吉田君って知らない?」
「吉田……?
あの無口でおとなしい……?」
「そう。彼も私達と同級生なんだけど、彼がスポンサーになって人を集めてたみたい。吉田君の家はお金持ちだから」
(そういうことか……。だから、あんな無口でノリも悪いのに幹部扱いされてるんだ、吉田は)
優司の中でさりげなく不思議に思っていたことが解決した。
しかし、今はそんなことはどうでもよかった。
「そ、それより……日高たちはその後どうしたのっ?」
「だから、どうしたもこうしたもないわ。泣き寝入りよ」
「泣き寝入り……?」
「だって、どうしようもないでしょ? どうやったって力じゃ勝てないんだから。諦めるしかなかったのよ。
だから、今でも土屋君のことは相当憎んでるんじゃない?
そんな相手がまたのうのうとこの街に来てるんだから、穏やかじゃないと思うわよ」
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