ゴーストスロッター

クランキー

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【第5章(最終章)】

■第107話 : 奏功する悪だくみ

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「遅れてスンマセン……」

飲みが始まって1時間ほどした頃、ようやく小島がやってきた。

「おお~、やっと来たかよ小島ァ!
 おせぇって! ほら、ここ座れ、ここ!」

既にデキ上がっている真鍋は、早速小島に絡んだ。

「はぁ、ども……」

暗い顔をしながら、真鍋の横にチョコンと座った。

「あん? どうしたんだよ?
 なんでそんなダークなんだ?」

「いや……その……」

「ん?」

小島の様子がおかしいことに、日高も気付く。

「どうした小島? 何があったんだよ?」

「……あの、さっきそこで、広瀬君のグループにいる伊藤君に偶然会って」

「……で?」

「なんていうか……また夏目君の嫌な噂を聞いちゃったんッスよね……」

「えっ?」

一同、ほぼ同時に驚嘆の声を上げた。

「何を聞いたんだ、小島?」

動揺しつつも、無理矢理気持ちを落ち着けながら冷静に問いただす日高。
皆黙って小島の方を見たまま、聞き耳を立てている。

「あの……夏目君、どうやら土屋がどういう人間なのかわかって、過去にどんなことをしてきたかを知った上でツルんでるみたいです。
 もちろん、日高さんがやられた、っていうのも知ってるみたいで……」

「な……ん……だと?」

「全部承知の上で組んでる、って話なんです。
 で、迷惑だから、日高さんたちにいろいろ動いたりもして欲しくない、とも言ってるみたいなんッスよ、夏目君……」

「……」

日高は、口をぽかんと開けたまま思わず絶句してしまった。

言葉を失っている日高に代わり、真鍋が小島に質問をする。

「お、おい小島! 伊藤の情報源は誰なんだよ?
 伊藤は誰からその話を聞いたんだ?」

「もう結構噂になってるみたいです。複数人から聞いたみたいッスよ」

「……じゃあ、マジなのか?」

「多分……」

「な、なんでだよ……? 大体、なんでそこまで俺達を嫌うんだ夏目は?」

「やっぱり、スロ勝負の一件を相当根に持ってるらしくて。
 で、土屋と組むことによって神崎との勝負が成立するみたいなんッス。
 あと、土屋と組めば毎月凄い額の金が貰えるとかで……。それも夏目君にとっては魅力的だったみたいッス……」

「金……だと……?」

真鍋の表情が、みるみるうちに怒りに満ちてきた。

「ってことは、あれか。スロ勝負と金……つまり、自分のやりたいことと欲しいものが満たされるなら、昔の仲間のことなんざどうでもいい、ってことか」

真鍋は顔を真っ赤にし、身を震わせながらそう呟いた。
日高は相変わらず絶句し俯いたまま。

日高と真鍋の様子に、一同、誰も言葉を発せずにいる。

その後、他のメンバーたちが必死で場の雰囲気を変えようと頑張ったが効果なく、終始暗い雰囲気のまま飲み会は終わった。



◇◇◇◇◇◇



東口の飲み屋、『一茶』。
ここら一帯ではそこそこ高級な部類に属する居酒屋だった。

飲んでいたのは、土屋と丸島、柿崎の3人。
彼らは、基本的にこういった高級な飲み屋にしか行かない。
稼ぎの良さが如実に表れている。

店に入り、飲み始めてすぐのこと。
土屋が、柿崎に対して質問をした。

「早速だけどよ、ちゃんと噂は流しておいたか柿崎?」

「もちろんだよ土屋君。
 言われたとおり、早速打ち子たちに広めさせておいたよ。
 夏目優司は全てを知った上で土屋君と組んだ。やたらでかい報酬を貰える上、神崎とのパチスロ勝負もできるってことで、喜んで加わった。ってね。
 もしかしたら、今日にでも日高たちの耳に入ってるかもよ?」

「よし。それでいい。
 日高たちが動き出してる以上、こっちも手を打たないといけないからな。
 この噂が広がれば、さすがに日高たちも怯むだろ」

「そうだよね。第三者からこういう噂を大量に聞けば、さすがにグラつくだろうし。
 あいつらさえしゃしゃり出てこなければ、後は完璧だよね?」

「ああ、なんとでもできる。これで夏目は自然と孤立していくだろうし。
 そうなれば……あとはやりたい放題だ」

丸島は、ニヤニヤしながら二人のやり取りを聞いていた。
計画の全てを知っている余裕からくる不敵な笑いだった。

「ちなみに、今日は吉田君は呼ばなくてよかったの? いつもこういう場には来てたのに」

柿崎の質問に、丸島が率先して答える。

「ああ、あいつはいいんだよ。そろそろスポンサーとしての役割も薄まってきたしな」

「スポンサー?」

「あいつの家は金持ちでな。それで、今までは結構金銭面で世話になってたんだ。俺も土屋もな。
 今回の計画についても、初期費用はあいつが持ったんだ」

「初期費用?」

「ああ。いきなり打ち子10人集めたりするのもやっぱり金がいるだろ? そういう費用だよ」

「へぇ、あの人ってそういうお金を出してたんだ!
 どうりで。あの人、やけに無口で、なんで幹部扱いされてるのかわからなかったんだよね。これでようやく納得がいったよ!」

「確かにあいつ、やたら無口だし、ノリ悪いし、ケンカが強いわけでもないし、存在価値がないもんな?」

「ね? 本当、土屋君とか丸島君の知り合いじゃなかったら、俺、イジめちゃってたかも!」

「そこまで言うなよお前~!」

「あははは! すんません~!」

盛り上がる丸島と柿崎。

そこに、土屋が言葉を挟んでくる。

「まあ、そこまで言うなよなお前ら。
 あいつと俺は、小学校からの幼馴染なんだからよ。親が金持ちってことでそれなりに使える奴だったけど、それだけじゃなくて結構いい奴だしな。
 腹割って喋ると結構楽しい奴だったんだぜ?」

フォローとも取れる発言をする土屋だったが、丸島たちには響かなかった模様。

「そうかぁ? 無口すぎていい奴かどうかの判断もできねぇよ!
 まあ、お前の幼馴染ってことで今後も上手く付き合ってくつもりだけどな」

「……」

「それより土屋、今後の夏目についてはどうするんだ? 勝手に一人で出歩かれたりして、その時に日高たちに捕まったらまずいだろ。夏目が騙されてたってバレちまうわけだから」

「大丈夫だ。そのへんは手を打ってある。なあ柿崎?」

「うん。夏目には、今日から一人で出歩かせないようにしたんだ。必ず3人以上の人間をつけることにしてさ。
 いずれも腕っぷしには自信のある奴らばっかりで。あいつらがぴったりと夏目のそばに居れば、なかなか近寄ってこれないよ」

「なるほどな。万全ってわけか」

土屋が満足そうに答える。

「ああ、そうだ。
 だから丸島、お前は安心して神崎との折衝に専念してくれよ。
 神崎と夏目の勝負に関しては、俺も絶対に実現したいからな」

「ああ、大丈夫だ。ちゃんと動いてるよ」

丸島はそう言って、手元にあったビールジョッキを掴んで一気に飲み干した。 
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