ゴーストスロッター

クランキー

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【第4章】

■第98話 : 土屋のビジネスプラン

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(え……? だ、誰だ……?)」

ベンチで俯いている優司の前に、いきなり現れた3人組の男。
優司は、瞬時に「昨日来た乾の連れの一味か?」と疑った。

不安そうな顔で3人組を見上げていると、真ん中にいた金髪の男が喋りかけてきた。

「よぉ、初めまして……だな」

「……誰?」

「俺は土屋ってんだ。よろしくな。
 で、このいかつい顔してる坊主頭が丸島。こっちのおとなしそうなのが吉田だ。
 あ、ちなみにそっちの自己紹介はいらねぇから。夏目優司だろ?」

「……」

「いきなり押しかけてきて済まないんだけどよ、まずは単刀直入に用件を言わせてもらうよ。
 俺らの仲間に入ってくんねぇかな? どうしてもお前が必要なんだよ」

「え……?」

この時点で、「乾関連ではない」と薄々わかりだし、少し安心した優司。
あれだけ脅されたため、まだ恐怖心が残っていたのだ。

しかし、安心すると同時に新たな不安感も生まれてきた。

(とすると、こいつらは誰なんだ?
 いきなり仲間に入れって……どういうことなんだ?)

困惑した表情を浮かべていると、土屋がさらに説明を加えてきた。

「難しく考えなくていいよ。ただ、俺達に協力してくれればいいだけだ。何も危険なことをやらせようってんじゃないしな」

「……」

「もちろん、ただ協力してくれ、なんて言わない。かなりの報酬を出すし、それだけじゃなく、今お前が一番叶えて欲しいことについても叶えてやる」

「俺が今一番叶えて欲しいこと……?」

「わかってんだろ? 神崎のことだよ。
 お前のやってるスロ勝負、最後は神崎に挑もうとしてんだろ?
 だけどな、お前なんかがいきなり『勝負しよう』なんて願い出たって、門前払い喰らうのがオチだぜ。お前もわかってるよな」

「ちょ、ちょっと待ってよ。
 いきなり協力してくれとか言われても、なんのことやら全くわからないし……。
 しかも、なんで急に神崎の話が出てくんの?」

「とぼけなくていい。だいぶ前から何人か後輩をこの街に来させて、いろいろ調べさせてもらったからよ。
 お前は、この街でスロ勝負で名を挙げた男だろ?
 で、最後はやっぱりこの街のトップと言われている神崎と勝負したい。でも、一筋縄では勝負が成立しそうにない。この部分で悩んでる。そうだろ?」

「……」

まさにそのことで悩んでいる矢先での、土屋からのこの言葉。

図星をつかれ、思わず表情が引きつる優司。
土屋はその反応を敏感に感じ取り、すかさず話を続ける。

「だけどな、俺ならそれを叶えてやれる。お前と神崎との勝負をな」

「えっ?」

「適当に言ってるんじゃない。マジな話だ」

「な、なんでそんなふうに断言できんの? いきなりそんなこと言われても、俺に何かを協力させたいからって適当なことを言ってるようにしか聞こえないって。具体的に説明してくれないと……」

これまで余裕たっぷりで喋ってきた土屋だが、ここで始めて軽い動揺を見せた。

「それは……いろいろ理由があるんだよ!
 とにかく、俺は絶対にお前と神崎の勝負を成立させることができるんだ! これは間違いない。
 だから、俺の計画に協力しろ! いいだろっ?」

「……」

明らかに様子が変わった土屋。
優司もそれをすぐに感じ取ったが、とりあえずは土屋の言う『計画』とやらを聞くことにした。

「……神崎の件についてはわかったよ。
 じゃあ、まずはどんな計画なのか聞かせてよ。それを聞かないとなんとも言えないし。なんなの、その計画って?」

話が変わり、優司が『計画』について興味を持ちだしたことに気を良くする土屋。

「おう! よくぞ聞いてくれた。興味はあるってことだな?
 計画ってのはだな、簡単に言っちまうと『打ち子を集めて高設定を打たせまくる』っつー単純なもんでな」

土屋は一呼吸置いた後、捲し立てるように喋る。

「具体的に言うと、まずは50人くらい打ち子を集める。で、集めたこの50人に各ホールで設定6を打たせる。で、この打ち子たちに打たせる6を、夏目に予想して欲しいわけだ。単純な話だろ?」

「……」

「50人全員を6に座らせるのはさすがのお前でも無理だろうけど、まあ……30人から40人は座らせることができるだろ? 驚異的な確率で設定6を当てられるんだもんなぁ、お前は。
 今の機種構成でそんくらいの割合で6をツモれれば、6に座れなかった奴の収支を含めて考えても、一人あたりの平均でプラス3万くらいはいけるはずだ。ここまではわかるよな?」

「……まあ、一応」

「一人平均3万、打ち子は50人。
 ってことは、一日あたり150万の売上だ。
 打ち子には一日1万くらいの日当でも与えておけば充分だから、1万円×50人で人件費は一日50万。
 売上は150万だから、つまり一日の純利益は100万ってわけだ」

「……」

「これを一ヶ月繰り返せば、100万×30日で3000万。
 俺達は実際に稼動することなく、指示出しをしているだけで、3000万もの大金が毎月入ってくるんだぜ?
 低く見積もってもこの額だ。
 どうだ? これはなかなかおいしい計画だろう?」

「金額だけ見れば……まあ、凄いね」

「だろ?
 で、どれもこれも、土台になるのは『優秀な設定推測人』だ。
 こいつがいなきゃ、絵に描いた餅だからな」

一旦言葉を止め、横にいる丸島をチラリと見た後、少し声のトーンを落としながら再び喋り始めた。

「実は俺、この計画をだいぶ前から温めていたんだ。一年以上前からな。
 でも、この計画を実行する上で最重要となる『優秀な設定推測人』がいなかった。
 そりゃそうだよな。何店舗もの状況を完全に把握して、各ホールの高設定台をズバズバ当てていくなんて、超人の
芸当だ」

「……」

「でも一年前、ひょんなことから神崎の存在を知った。グループを組んで、自分は設定予測だけを担当して一切打たず、グループの人間に自分が高設定だと予想した台に座らせて結果を出してる、って感じでな。
 まさに俺が考えてたことを実行してたわけだ。俺が考えてることよりも規模は小さいけどよ。
 それを知った俺は、一も二もなく神崎とコンタクトを取ったよ。わざわざこのT駅周辺まで出向いて来てさ」

「神崎とコンタクトを……?」

「ああ。俺の計画を実現できる唯一無二のヤツだと思ったからな。
 ホール激戦区であるT駅周辺で結果を出してるってことは、かなりのホール情報収集力とかデータ分析力、設定予測力があるってことになるだろ?」

「……」

「でもな、あいつは……。
 こっちからわざわざ出向いてきて下手に出て頼んでんのに、あっさりと俺の依頼を断ってきやがった。
 『興味がない』とか抜かしやがってな。あいつにとっても充分にメリットのある話だってのに」

ここで丸島が口を挟む。

「ほんと、信じらんねぇよ!
 こっちも譲歩して、かなり神崎に甘い条件を提示してやってんのに、取り付く島もないって感じだからな。
 あのバカ、カッコつけすぎなんだよ!」

(そりゃそうだろ……。
 元々成功してる神崎にしてみれば、わざわざこいつらの言うこと聞いて協力する意味も義理もないんだし。
 何を言ってるんだこいつらは?
 そもそも、こんなタチの悪そうなヤツらと組みたがる人間なんてそうそういないだろうし )

明らかに理不尽なことを言っているのに、まるで自分達が絶対の正義であるかのように語るこの人間たちに、大いなる嫌悪感を覚える優司。

だが、事を荒立てたくなかったので、あえて無難な返答をしておくことにした。

「へぇ。そういう人間なんだ、神崎って男は。
 ……で、そっからどうしたの? おとなしく諦めて地元に帰ったとか?」

すかさず土屋が返す。

「いや、そう簡単には諦められねぇよ。
 もちろん、すかさず次の手を打った。地元からスロの腕のある奴を大量に呼び寄せてな。
 で、この街で立ち回らせたんだ。主に神崎のホームを中心に。
 そしたら、途端に神崎のグループの人間は勝てなくなっていった。
 俺の下の優秀な人間たちが、的確に高設定を掴んでいくもんだから、やつらが高設定からあぶれちまったんだよ」

「……」

「俺の仲間たちは、お前や神崎みたいに驚異的な確率で何台もの高設定を予測することはできないけど、自分が打つ1台くらいだったらなんとかできるレベルの人間だ。
 こういうやつらでも、寄り集まると厄介みたいでな。結局神崎は音をあげて、『このままじゃウチのグループの人間が喰えないから出て行ってくれ』と泣きついてきたのさ」

「え? 神崎が……泣きついてきた……?」

「ああ。
 後で聞いた話だと、下のモンからの突き上げが凄かったらしいな。なんとかしてくれ、ってよ」

「……」

「で、その圧力に負けて、俺に連絡を取ってきたわけだ。
 そこで俺は提案した。俺とパチスロ勝負をしろ、と」

「パチスロ勝負っ?」

優司は、この言葉を聞いた瞬間、思わず頓狂な声をあげた。 
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