ゴーストスロッター

クランキー

文字の大きさ
上 下
97 / 138
【第4章】

■第97話 : 厄災の序章

しおりを挟む
(マジで……怖かった……。
 なんなんだあいつら……?)

角刈りたちが去った後、一人公園に残っていた優司。
つい先ほどまでの恐怖を思い出していた。

(乾の連れってあんなのかよ……。
 そういえば、御子神が言ってたっけ。空手かなんかで全国優勝した、みたいな。そういう繋がりか?
 いや、そうとも限らないか……。もう、何がなんだか……)

必死で頭を整理しようとする。

(まさか、あいつらがこんな行動に出てくるとは……。素直に伝えてくれないかもとは思ってたけど、脅されるなんて……。
 あいつらは本気だ。ここで俺が諦めなければ、多分マジで俺を……)

絶望感が次第に募ってくる。

(嘘だろ……? じゃあ俺は、ここで諦めなきゃいけないのか?
 もしやるとすれば、あいつらに痛い目に遭わされることを覚悟しないといけない。
 いや、痛い目くらいじゃ済まないかも……)

次々と良くないシナリオが頭に浮かんでくる。

(乾を探そうとしただけでこうなるってことは、この街でトップとされてる神崎を相手にするなんて絶対に無理だ。
 もっととんでもない目に遭うはずだ……。
 ……ってことは、これで俺はもうスロ勝負を諦めるしかないってことなのか? 嘘だろ…………?)



◇◇◇◇◇◇



翌日の朝。

優司は、御子神と約束した通り朝10時に公園へ来ていた。

昨日と同じベンチに腰掛け、じっと一点を見つめながら微動だにしないでいる。
その表情は暗く虚ろで、明らかに顔色が悪い。

御子神も10時ちょっと過ぎに現れ、すぐに優司を発見して近くへ寄ってきた。

「おはよう。ちゃんと来てくれたのね? もしかしたら来ないかと思ってたら。
 優司君にとってはメリットないもんね。ここで私を待ってても」

「…………」

御子神の問いかけに対して、チラっと顔を上げて目を合わせるも、再び俯いてしまう優司。

御子神は、優司のその表情などから、明らかにいつもと違うとすぐに察した。

「ど、どうしたの……?」

「…………」

「黙ってちゃわからないじゃない。どうしたのよ?」

「……御子神さんの差し金じゃ……ないよね? それはわかってるんだけど……」

「差し金? 何が?」

「……昨日、御子神さんが帰った後、彼らがここにきてね。ほら、『大和』の前で会った五人が。
 で、随分と脅されたよ。二度と乾と勝負しようなんて考えるな、ってね。
 もしやめなかったら、その時は相当痛い目に遭うことを覚悟しろ、だとさ」

昨日の経緯について、手短に伝える優司。
言葉通り、御子神が仕向けたわけではないことはわかっていた。

「ふーん、そうだったんだ。
 まあ、確かにあの子たちならやりそうね。
 ……で、さすがにそれは私が頼んだんじゃない、ってのはわかってくれてるのよね」

「うん、それはね。こういう方法で止めるなら、最初からやってるだろうから。
 彼らの独断なのはわかるよ」

「そう。
 ……で、どうするの? 素直に諦める?」

冷淡な御子神の口調に、溜まっていたフラストレーションが一気に吹き上がってきた。

「諦めるしかないだろっ? わかりきったこと聞かないでくれよっ!」

理不尽な怒号に、眉間にしわを寄せて不快そうにする御子神。

「は……?
 ちょっと……何を急にそんなにキレてるの?」

「アンタなんかに俺の気持ちがわかってたまるかよ……。
 いろいろ犠牲にしながら続けてるパチスロ勝負が、俺にとってどれだけ大事だと思ってんだよっ!
 それを、あっさりと『諦めるの?』なんて言いやがって……。
 そりゃ、俺だって諦めたくないよ! でも……あんな脅され方したら続けようにも続けられないんだよっ!」

「……」

「もう帰ってくれよ! アンタみたいな無神経な女はさ!
 それで、二度と俺に近づかないでくれッ! 心配しなくても、もう乾探しなんてやめるからさ!」

大声を張り上げ、御子神を強く睨みつける。

この態度に、御子神もさすがに我慢ができなかった。

「ええ、わかったわよ!
 せっかくこっちはいろいろ気を遣ってたつもりなのに、なんなのよその態度? 信じらんない!
 一人で勝手にキレて……。
 もう、頼まれたって来ないから安心してよねっ!」

御子神は、言い終わると同時に踵を返し、公園の出口目指して早足で歩いていった。

優司は、その様子を目で追う事もなく、生気のない表情で俯いているだけだった。



◇◇◇◇◇◇



(なんなのよアイツ! いきなりあんなふうに怒り出して)

公園の出口を目指して早足で歩く御子神。

(心配して損したわ。もう知らない。
 大体、パチスロ勝負を諦めたっていうなら私の当初の目的はもう達成してるわけだし、これ以上優司君なんかに関わる必要なんてないのよ!)

怒り心頭のまま出口付近まで辿り着き、何の躊躇いもなく公園を後にしようとする。

その瞬間、正面から3人の男がこの公園へ向かってきているのがわかった。

なんとなく3人連れの男達の方へ視線をやる御子神。
そして相手を確認した瞬間、御子神は咄嗟に目を伏せた。

(あ、あれは……土屋君……? な、なんでこんなところに……?)

3人組はヒソヒソと声を抑えて喋りながら歩いている。
表情は真剣で、御子神のことは全く見えていない様子だった。

御子神と3人組はそのまますれ違い、御子神は公園の外へ、3人組は公園の中へ入っていった。

妙な胸騒ぎを覚えた御子神は、素直にその場を立ち去ることをやめ、木陰に身を隠しながらうずくまり、公園内の様子を窺うことにした。

(土屋君……。今更この街に何か用があるの? 優司君がいる公園に入っていったのは偶然?)

しかし、偶然でないことはすぐにわかった。

土屋たちは、公園内に入るや真っ直ぐ優司が座っているベンチへと向かっていき、そのベンチの前で立ち止まった。

御子神の胸騒ぎは的中した。

しかし次の瞬間、ふと冷静になる御子神。

(でも……もう私には関係のないことよね。
 和弥が巻き込まれないようなら、これ以上私がしゃしゃり出ていくこともないわ。
 土屋君は、高校に入ってからはもう和弥と張り合うことをやめていたし、多分関係ないことよね。
 それならもう、私がいちいち関わることじゃないわ。
 優司君本人も……そう言ってたしね……)

御子神は浮かない顔のままスクっと立ち上がり、駅の方へスタスタと歩いていった。 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

風船葛の実る頃

藤本夏実
ライト文芸
野球少年の蒼太がラブレター事件によって知り合った京子と岐阜の町を探索するという、地元を紹介するという意味でも楽しい作品となっています。又、この本自体、藤本夏実作品の特選集となっています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...