ゴーストスロッター

クランキー

文字の大きさ
上 下
94 / 138
【第4章】

■第94話 : 御子神の追随

しおりを挟む
「おはよう。遅かったのね」

「え……?」

「何を驚いてるの? 付いていく、って言ったでしょ?」

再び乾探しの放浪を始めようとマンガ喫茶の入り口から外へ出ると、そこには御子神留衣が立っていた。

「なんでこのマンガ喫茶にいるって知ってんの……?」

「そんなの簡単よ。ちょっと調べればわかるわ」

(そっか……。この人、異常に人脈が広いんだっけ)

無言のまま納得してしまう優司。

「本当に俺に付いてくる気なの?」

「そう言ったでしょ」

「……あのさぁ、昨日も言ったけど、御子神さんほどの人がなんでこんな面倒なことするの?
 いつ出てくるともわからない俺を、朝早くからマンガ喫茶の前で待ち伏せするなんてさ。
 本当に俺に乾探しをやめさせたいんなら、わざわざこんなことする必要ないでしょ?
 鴻上の時みたいに、その筋の人に依頼するとかなんとか言って脅す、って感じでできるはずなのに。狙いは何?」

御子神は、露骨なまでに焦りの色を滲ませた。

「べ……別に狙いなんて……。
 ただ、二人の無駄な勝負を止めたいだけよ!」

「だからさ、それならわざわざこんなことしなくても、御子神さんならいろいろ方法があるでしょ、って言ってんの」

「……別にいいでしょ。私がどういう行動を取ろうと」

うつむき、複雑な顔をしている御子神を見て、優司の妄想がひた走る。

(この人……もしかしたら、俺に好意が……?
 スロに興味なさそうにしてるけど、実はバリバリ興味があって、そんなスロでの勝負で勝ちまくってる俺に惹かれてる、みたいなっ?)

しかし、すぐに冷静になる。

(……いや、それはないか。今までの流れじゃ、惚れられる要素なんてどこにもないし。
 でも……もしかして……)

感情が行ったり来たりしつつ、自然と軽くニヤけてしまう優司。
それを必死で誤魔化す。

優司ももちろん一人の男。
御子神のような美人に好かれたとなれば、嬉しくないはずがない。

しかし、御子神は全く別のことを考えていた。

(意外としつこく聞いてくるのね。
 でも、本当のことなんて恥ずかしくて言えるわけない。私が体を張って夏目優司君を止めれば、そのことが和弥にも伝わって、結果的に和弥が私に振り向いてくれるかもしれないから、なんていう子供っぽいことを……。
 和弥との勝負をやめないなら付きまとう、なんて勢いで言っちゃったけど、言っちゃった手前、やるしかないもんね。さすがにここまでする気はなかったけど……。
 こんなに頑張ってるんだから、いい加減少しは私のことを意識してくれないかな、和弥。下手に幼馴染になんかなっちゃったから、上手く進まないのかな)

お互い、悲しいまでにかけ離れたことを考えていた。



◇◇◇◇◇◇



(うわぁ……本当に付いてきてるよ……。きっちり3mくらい後ろを。
 この調子で、変な距離を保たれたままずっと付いてくる気か?
 どうせなら、隣りに来るとかしてくれればなぁ。
 こんな扱いってことは、やっぱり俺に好意なんてないんだろうなぁ……)

きっちりと一定の距離を取り、話しかけてくるでもなく、視線を送ってくるでもなく、ただただ優司の後を付いてくる御子神。

一瞬抱きかけた優司の淡い期待は、あっさりと打ち砕かれてしまった。

(まあいいや。ハナから期待なんてしてなかったし。
 それより何より、乾のことだ。
 俺は乾の顔を知らない。それ以前に、昨日の御子神の話だと、ここ最近は全く打ってないみたいだし。
 それじゃ探しようがないよな……。どうしよう……)

伏し目がちに歩きながら、考え込む優司。

(とりあえず乾の知り合いを探して、そいつに勝負のことを依頼してもらう、っていう方法しかないかな。
 でもこれをやるには、いちいち乾の知り合いかどうかをいろんな人に聞いて回らないといけないんだよなぁ。
 面倒くさいし、そもそもそう簡単にヒットするとは思えない。非効率すぎる。
 しかも、日高たちにも知られちゃう可能性が高いし。
 ……でも、なんだかんだでそれしか方法がないんだよなぁ)

悶々としながらも、T駅東口駅付近にあるホール『大和』を目指す。

まず『大和』へ行くことにした理由は、以前に乾がよく通っていたという噂を聞いたことがあるから。
あくまで噂だが。

しかし、理由はそれだけではなかった。

西口方面のホールには『エース』があるため、なるべく東口方面を中心に攻めたかったのだ。

『エース』は、日高や真鍋のホームグラウンド。
いつ遭遇するかもわからない。

ケンカをしているわけではないが、とにかく今は彼らとの接触は避けたかった。
いろいろと決着がつくまで。



御子神と一定の距離を保ったまま歩き続け、ようやく『大和』へ到着。

常宿としているマンガ喫茶からはわずか5分強という短い距離だが、ピタリと誰かに張り付かれるというのはあまり気分がよくないもの。
いつも以上に長い道のりに感じられた。

何はともあれホールへ着いたということで、ここで気合を入れなおし、早速ホールへ入って手当たり次第に乾のことを聞いてみることにした。
日高たちに知られてしまう可能性が高いし、非効率的だし、といった気の進まない手段ではあるが、現状これしか方法がないと割り切りつつ。



ホールへ入ろうとすると、男が5人ほど、入り口を塞ぐようにして溜まっていた。

男たちは優司よりも年上っぽく、いずれも高身長でガッチリとした体格の男たちだった。

(ガテン系の方々かな……? たまの休みで打ちに来てるのかなぁ。
 それにしても邪魔だな。あれじゃ、入店しようと思っても気後れしちゃうじゃんよ。
 しょうがない、一言声をかけてどいてもらうか)

そう決心し、男たちに話しかける優司。

「あの、すいません。ちょっとそこを――」

優司が喋りだした途端、5人の男は一斉に優司の方へ顔を向けた。

その視線に圧倒され、つい言葉を止めてしまう優司。

しかし次の瞬間、男達は一気に柔和な表情になり、大声を出した。

「ル、ルイさんっ!」

男達が声をかけた相手は、優司ではなく、すぐ後ろにいた御子神に対してだった。

その様子を見て、優司は反射的に振り返った。
優司の視線の先には、ニコニコしながら男達に手を振っている御子神の姿ある。

「久しぶり~! まだここでパチスロ打ってたんだ?」

御子神の問いに、この5人の中で明らかにリーダー格っぽい風体をした角刈りの男が答える。

「そうなんっすよ~! やっぱ、乾さんとの思い出のホールだし、なんとなくこのホールに溜まっちゃうんですよね~!」

(乾っ……?)

すかさず反応する優司。
しかし、まだ御子神との会話が続きそうだったので、しばらく様子を見ることにした。

「そうなんだ~。
 でも和弥、もう何ヶ月も打ちに来てないでしょ? それでもこのお店にこだわるものなの?」

「そりゃそうっすよ! ここでいろいろと乾さんから教わったし、アツいノリ打ちもしたし、とにかくここじゃなきゃダメなんっす!
 ……いや、たまにゲキアツイベントとかがあったら他も行っちゃいますけど」

「ほら~、別にこのホールじゃなくてもいいんじゃん!」

「い、いや。で、でも一番大事なのはこのホールで……」

ここで、軽く笑い合う男達と御子神。
馴れ合いムードが漂いまくっている。

そんな中、優司の顔は嬉しさでやや紅潮していた。

(こ、この男たちは乾の知り合いっ……。
 ツいてるっ! いきなり会えるなんて!
 御子神が付いてきてくれてなかったら、見過ごすところだった。本当にツいてる!
 これはもう、乾と勝負しろっていう天啓でしょ! よぉし……)

御子神たちの会話が一瞬途切れた隙をついて、優司が会話に加わろうとした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...