ゴーストスロッター

クランキー

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【第4章】

■第85話 : 御子神留衣

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「ちょっと……なんですか?」

絶望に打ちひしがれ、もうどうしようもない、という感じでうなだれていた優司。
そんな中、後ろの方から、立ち去ったはずの飯島の声が聞こえてきた。

振り返ると、そこには見知らぬ女が飯島と鴻上の前に立ちはだかっていた。

(だ、誰だあれは……? もしかして、広瀬君がもう一人用意してくれてたとか?)

絶望していた優司だが、みるみるうちに目に力が戻り、すかさず横にいる広瀬に問いかけた。

「ひ、広瀬君、あの子って広瀬君が……?」

「いや、違う。で、でも……」

即答で否定。
しかし、何かを言いたそうな感じだった。

飯島が大声で怒鳴る。

「あなたも優司君たちの仲間なんですか?」

上着のポケットに手を入れたまま鴻上と飯島の進路を閉ざしているこの女に、飯島はイライラしていた。

しかし、そんな飯島の様子を意に介さず、飄々と答える女。

「ううん、違うの。
 私はユミの友達。優司君とやらには会ったこともないわ」

「じゃあなんの用ですか? 邪魔なんですけど!」

「ちょっと待ってね」

そう言い、今度はユミの方へと首を向けた。

「ユミ、ダメだったんだ?」

「る、留衣さん……。来てくれたんですかっ?」

「うん。こんなこともあるかな、と思ってね。
あ と、ちょっと別件があったから、ってのもあるんだけどね。
 で、どうだったの? 遠めで見てただけだからはっきりとはわからないんだけど、雰囲気的にダメっぽかったから
出てきちゃった」

ユミが一度頭を下げてから答える。

「あ、ありがとうございます!
 お察しの通り、ダメでした……。鴻上のやつ、相変わらず口だけは上手くて……」

「なるほどね。じゃ、あとは私がやるよ」

「ちょっと! 勝手に話を進めないでよね! 私がやるよ、って何っ? また何か健自に因縁をつけようとしてるの?」

「あなたはいいわ。ちょっと黙っててね」

「なっ……」

「さっきから黙りこくってる鴻上君。ちょっといい?」

女から話を振られ、沈黙していた鴻上が、強張った表情で訥々と言葉を吐く。

「あ、あんたは……。
 御子神……さん……だよな?」

「知っててくれたみたいね」

「…………」

留衣、または御子神と呼ばれるこの女が現れてから、全く喋ることができず一人青ざめた顔をしていた鴻上。

相手が誰だか確定したことで、表情には一層の焦りが貼り付けられていった。

「あ、あんたが俺に何の用なんだよ……」

「あら、そんな顔してるってことは、大体わかってるんじゃないの?」

「…………」

「もちろん、君の女性関係のことよ。それも、やばい方の、ね。
 刈羽早苗って子、知ってるわよね。忘れるわけないと思うけど」

「うっ……うう……」

「早苗ちゃんについては直接知らないんだけど、私、お父さんの方と知り合いでね。あの某団体幹部の。
 で、頼まれてるんだ。もし鴻上健自って男を見つけたら連絡してくれ、って。
 私なら、そういう情報も入ってきやすいんじゃないかって言われてね」

「えっ……?
 ちょ、ちょっと待ってくれよっ?
 もしかして、もうこの辺にあの団体の奴らが……?」

「ううん、まだ連絡してない。
 だって呼んだが最後、君、生きては戻って来れないじゃない?
 それだけのことをしたんだからしょうがないとは思うけど。
 でも、さすがに人殺しの手引きはしたくないから、なかなか連絡できなくてね」

「……」

「でも、あなたの態度次第では変わってくるかも」

「た、態度次第……?」

「とりあえずその飯島って子、まだ目が覚めてないみたいだから、君から真実を話してあげて。
 で、さっさとこの場から消えて」

「……」

「早くして。断るっていうならそれでもいいけど」

「わ、わかったよ! わかりましたよっ!」

そう言いながら、繋いでいた手を振りほどいた。

「……ってわけだよ由香。言うまでもなく、大体わかっただろ?」

「な、何が……?」

「つまり、夏目たちの言ってることが正しいんだよ!
 俺は、女を騙すのが仕事なの! それで生活してたんだよ!
 お前は、夏目との勝負に必要だったから利用しただけだ! わかったか?」

「ちょっ……け、健自……? 何を言ってるの……?」

「あーもうッ! ニブいやつだな!
 とにかく、もうお前には用はないから、二度と俺に近づくなよ? じゃあな!
 これでいいだろ御子神さん? 早苗のことはもう勘弁してくれよ!」

「う……うそ…………」

いまだ信じられない、という顔で鴻上に近づこうとする飯島。

だが、鴻上は全く相手にせず、さっさとその場を後にした。



◇◇◇◇◇◇



「可哀想にね。この子……飯島由香ちゃんだっけ? 事情は聞いてるよ。君の昔の彼女なんでしょ?」

御子神ルイは、優司を見据えながらそう言った。

「夏目優司君、だっけ。君、こっち来て少しは慰めてあげたら?」

茫然とする飯島を気遣い、優司を呼び寄せようとする御子神。
しかし、何が起こったのかよく理解できていない優司は、混乱から、吐き捨てるように言う。

「……ていうか、アンタ誰なんだよ?
 いきなりやってきて、こんなことになって……
 鴻上の知り合いか?」

「バ、バカ!」

優司のこの態度に、慌てて広瀬が優司にヘッドロックをかけるような形になった。
そして、すかさず優司の耳元で、小声で忠告をした。

「お前、知らないのか……?
 あの人は、超のつく高級クラブ『クイーンズ』のナンバーワン、御子神留衣さんだよ。
 『クイーンズ』は、ここら一帯じゃダントツトップのクラブだぜ?
 そこで長々とナンバーワンをキープしてる凄い人なんだよ、あの人は」

「御子神留衣? クイーンズ?」

「ああ。
 あのクラブは、政治の世界の人間も来ることがあるような凄いとこでな。
 やったら高いし」

「……」

「つまり、そこのナンバーワンくらいになると、人脈も凄いってこと。
 鴻上も一瞬でビビってただろ?
 さっきの話の流れだと、あいつが手を出しちゃいけない業界の幹部の娘を喰い物にしたってことだろ。
 知らずにやったんだろうけど。
 で、その幹部と御子神が知り合いで、鴻上がここにいることをその幹部にチクられたら、大変なことになる、ってことだ」

「なるほど……それであいつはあんなにビビってたのか」

「まあ、そういうことでさ、あの人に向かってあんまりぶっきら棒な言い方するのはやめようぜ? そもそも、こっちは助けてもらってんだからさ」

「そっか。……うん、ごめん」

「よし、じゃあここは一旦俺に任せてくれ」

「え?」

優司の反応を気にもかけず、そのまま御子神の方へ歩いていく広瀬。

「いやぁ、どうも!
 あ、あの、俺は広瀬っていうモンで……」

「うん、知ってるわよ。
 広瀬由紀也君でしょ?
 マルサンってホールでよくパチスロを打ってるのよね?」

「えっ? ど、どうして俺なんかのこと……? しかもフルネームまで……」

「どうしても何も、以前ウチの店に来てくれた時に話してくれたじゃない」

「えーっ?
 あ、あれって、もう半年以上前のことだし、しかもその一回きりで、あまりに高くてもう行けなくなってて……」

「一回来てくれたお客さんの顔と名前は忘れないわよ。
 もちろん、話した内容もね」

「す、凄い……。さすがは天下の御子神留衣さんですね」

「あれ以来全然来てくれなかったから、嫌われちゃったかもと思って落ち込んでたんだ……」

「そ、そんなバカな!
 留衣さんを嫌う愚か者なんてこの世にいるわけないじゃないですかっ!」

「あらぁ、ありがと♪」

「いやいや、事実を言ったまでですって!」

(な、なんなんだこの雰囲気……?)

御子神と広瀬の呑気なやりとりを見て、やや気が抜けてしまった優司だった。
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