ゴーストスロッター

クランキー

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【第4章】

■第80話 : 作戦進行中

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いよいよ迎えた、優司と鴻上との勝負の日、その当日。
優司は、開店1時間前から勝負ホールである『ジュピター』の前に並んでいた。

(ただ負けるしかないと思ってたけど……まだ運が残ってたみたいだな。
 ヒキはなくても、こういうところはツいてる、ってか……)

自嘲気味にそんなことを考えていた優司。

(……まあいいや。とにかく今は、あの鴻上の野郎にしっかり思い知らせてやることが先決だ。
 得意満面で現れるんだろうけど、見てろよッ!)

静かに闘志を燃やしつつ鴻上を待つ優司だった。



◇◇◇◇◇◇



パラパラと人が集まりだし、30人ほどの並びが出来た開店10分前。

ここで、ようやく鴻上が姿を現した。

「よう! 早いな!
 いやぁ、大したもんだ。俺ならこんなに早く来れないね。負け確定の勝負にさ」

予想通りの鴻上のふてぶてしい態度。
わかっていたとはいえ、優司は改めて腹立たしさを感じた。

「相変わらずだな。
 いいから、無駄口叩いてないでさっさと並んでろよ」

「はいはい、今日はおとなしく夏目先生に従わせていただきますよ! へへっ!」

「……」

「で、俺は何番台に座ればいいんだ?
 教えてくれるんだよな? 6の台を」

「……213番台」

「ふーん。機種はなんだ?」

「北斗」

「おお~! マジで?
 もしかして俺が無類の北斗好きだと知っての配慮? 気が利く~!」

「…………」

黙って奥歯を噛みしめながら、鴻上を鋭く睨みつける優司。

広瀬との打ち合わせがあったことにより、今日の勝負は勝ちにいくことにした優司。

よって、もちろん教えた台番は低設定濃厚台なのだが、それがわかっていても憎たらしく思えてしまうような態度だった。

だが、あえて何も言い返さず、黙って堪える。

そんな優司にはお構いなしで、話を続ける鴻上。

「で、そっちの見届け人は誰にしたんだ? 日高か? 真鍋か?」

「いや、違う。広瀬って人に頼んだ。昼過ぎには来てくれるはずだから」

その名を聞き、一瞬怯んだ表情を見せる鴻上。

が、動揺を悟られまいとするように、すぐに平静を取り戻して聞き返した。

「広瀬って、『マルサン』で打ってるあの広瀬か?」

「へぇ、やっぱ知ってんだ。有名だもんな、広瀬君」

「……」

「なんか問題でもあるのか?」

「……いや、ない。
 別に誰でも関係ないしな。
 むしろ、広瀬の方が見届け人として好都合かもしれねぇな。グループの規模もデカいし」

本心半分、強がり半分という様子だった。

グループの人数も多く知名度も高い広瀬の方が、自分が勝ったという証人にはうってつけなので喜んでいる反面もあるが、予想外の人間が来たことによる驚きと不安もあったのだ。

しかし、自分の勝利を信じて疑わない鴻上は、すぐに気持ちを立て直して話を続けた。

「お、もう開店みたいだな。
 じゃあ、俺は後ろに並ぶぜ。これぐらいの並びなら、北斗の213番がピンポイントで取られることもなさそうだし、取られたとしてもまた違う候補台を夏目先生に聞けばいいんだもんなぁ。へへ……」

「もういいから、とっとと後ろ行けよ」

「はいはい。
 あ、由香は後で来るからな。安心しろよ。
 じゃあな~!」

薄ら笑いを浮かべながらのろのろと列の最後尾へと加わる鴻上。

その様子を完全に無視し、今日のシナリオを頭の中で再確認する優司。

(この後、昼頃から広瀬君が来てくれる。
 俺はそのまま設定発表の時間まで打ち続ける。
 で、ヤツの台は低設定で俺の台が6。
 当然、設定発表後にあいつは食ってかかってくる。
 そんなあいつを外に連れ出せば、そこには広瀬君の知り合いの女の子たちがいる。
 その頃には飯島も来てるだろうから、そこであいつの悪行を暴露してもらう、と……。
 これでさすがに飯島もわかってくれるはずだ。逆に、これでわかってくれないならもう……。
 いや、大丈夫だ! 絶対そんなことにはならない!)

根拠のない「絶対」を信じつつ、いよいよ開店を迎えた。



◇◇◇◇◇◇



開店後、優司・鴻上ともに無事狙い台を抑えることに成功。

鴻上は、優司が指定した213番台の北斗。
優司も、シマは違うものの同じく北斗に座った。

開店直後こそ、無駄口を叩きに優司のもとへ来ていた鴻上だが、それ以降は黙々と自分の台を打ち続けていた。

当然優司も淡々と自分の台と向き合っていたため、朝一以外は全く二人の接触はなかった。



そして、時刻は13:00過ぎ。

ついにここで、見届け人である広瀬が姿を現した。

「よぉ、夏目。北斗打ってんだ?」

「あ、広瀬君、来てくれたんだね! ありがとう!」

「そりゃ来るでしょ~。約束してんだからさ」

その言葉に、優司は軽く笑った。

「で……鴻上ってのはどこに座ってんの? 俺は名前しか知らないからさ」

「ああ、あそこだよ、北斗の213番台。
 あの長髪でアクセサリーをジャラジャラつけてるヤツ」

そう言って、鴻上がいる方向を指差した。

「……ああ、アイツね。見るからにふてぶてしい感じだなぁ」

「そうなんだよね」

「オッケー、わかった。
 あとは、俺がこの勝負を見届ければいいんだよね。形式上。
 で、21:00頃の設定発表後に、って感じで」

「うん、そんな流れで!
 ……本当助かったよ、しつこいようだけど、ありがとう!」

「いや、いいって。俺の個人的な感情も入ってるからさ。ああいうヤツにのさばっていて欲しくない、っていうね。
 ってことでさ、適当に近くで打ちながら待ってるよ。打っててもいいんでしょ?」

「うん、全然大丈夫だよ!」

「オッケー。
 それじゃまた後で。
 俺は、とりあえず鴻上と軽くコンタクト取ってくるよ」

そう言い残し、優司の反応も待たずにつかつかと鴻上の方へ歩み寄っていく広瀬。

そんな広瀬を、やや心配そうに見送る優司。
だが、何か考えでもあるのだろうと納得し、自分の台の稼動に戻った。



広瀬は、迷いもなく鴻上の台の後ろで立ち止まり、肩を叩きながら声を掛けた。

「よぉ、鴻上君だよな?」

不意に声をかけられ、目を丸くしながら振り返る鴻上。

「……ん?」

「話、聞いてるんでしょ? 今日の勝負を見届ける広瀬だよ。よろしく」

「あぁ……広瀬君ね!
 君が広瀬君かぁ~。どうもどうも、初めまして!」

そう言いながら、鴻上は馴れ馴れしく手を差し出し握手を求めた。
しかし、そんな鴻上を無視し、話を続ける広瀬。

「隣り、空いてるんでしょ? 座らせてもらうよ」

「え……?」

「見届け人ったって、ただ黙って突っ立ってることもないでしょ? 単純に邪魔だしさ」

「ま、まぁね。
 でも、他にもこんなに空いてるのになんで俺の隣りに……」

「どこに座ろうと俺の勝手じゃん?」

(……何を企んでんだ?
 なんでいちいち俺の隣りに座りたがる……?)

不審そうにしている鴻上を無視して隣りの席に座り、広瀬は千円札をサンドへ投入する。

それから、何事もなかったかのように普通に北斗を打ち出した。 
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