ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第56話 : 佳境

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勝負ホール『ベガス』の主任である近藤との話を終え、ホールへ戻り、早速吉宗のシマをのぞきに行く八尾。

するとそこには、近藤の言う通り、確かに吉宗のシマに優司の姿があった。
しかも、いきなりBIGを引いている。

近藤から送られてきた吉宗のシマの設定表を思い出しながら、八尾が優越感に浸る。

(ふん、他愛もねぇな。
 これで決まりだ。まんまと6の台に座ってやがる。
 ……それにしても、設定6とはいえ、引くのがはえーなぁ。
 さすがは天下のヒキ弱スロッター夏目優司だな。出しちゃいけない勝負では出しまくるってか。ククク……)

再び自分が打っている巨人の星へと戻り、携帯でインターネットへと繋ぐ。

スロの機種情報がまとめられているサイトへ飛び、巨人と吉宗の機械割を比較した。

(なるほど、巨人の設定2の機械割が97.2%で、吉宗の設定1が94.4%か。
 吉宗は一発が怖かったから避けてたけど、今俺が打ってる巨人とじゃ3%近く機械割が違うんだな。
 それなら、さすがに移動だ。連チャンして焦ってる夏目の姿も見たいしな!)

下皿にある数百枚のコインを箱に入れ、それを持って吉宗のシマへ移動する八尾。

不思議そうな顔をしながら、その後を追う日高。

時刻は15:30……。



◇◇◇◇◇◇



「おっす! 俺もこのシマでお世話になるぜ~」

吉宗のシマで台を確保し、無駄に優司に絡みにきた八尾。

「……お前も吉宗にきたんだ。あの巨人の星、せっかく順調にヘコんでたのにな」

「いやぁ、やっぱもっとガッツリとヘコまないとよ!
 最後は、吉宗で直接対決といきますか!
 まあ、とりあえず出玉没収おめでとう!」

八尾が、優司に向けて手を出す。
だが優司はその手を無視し、台に目を向けたまま冷淡に言い放つ。

「どうも。まあ、お互い頑張ろうよ」

八尾は、まったく気にしない。

「おうよ! せっかく出玉も没収してもらえたしな! よかったね~夏目君!」

「ああ。助かったよ。」

「……」

優司ももう、いい加減安っぽい挑発には乗らないようになっていた。
それを悟り、さっさと自分の席へ戻る八尾。

(ちっ、つまらねぇ……)

八尾は、早速プレイを開始し、巨人から持ってきた400~500枚ほどのコインを吉宗に投入し始めた。

(まあいいさ。今は勝手に余裕かましてりゃいい。後でたっぷりと吼え面かかせてやる)

そして思考は、自然と勝った後のことへと移行していく。

(あとは、負けが確定した時に夏目と日高がどう出てくるか、が問題だな。素直に負けを認めるか、店と繋がるのはさすがに汚いとでもほざいてくるか……。
 ま、なんて言ってこようと関係ねぇけどな。
 これはケンカなんだ。汚えも何もねぇ。最低限の法律だけ守ってりゃいい。
 この勝負は、あの紙に書いてあることこそが法律だ。あの紙に書いてなきゃ、何してもOK。こんなのは常識だ。買収がおかしいなんて言うヤツの方がズレてる。あいつらもわかってると思うけどな)

改めて、自分の正当性を頭の中で固める八尾。

(なんにせよ、後は時間が過ぎてくれるのを待つだけだ。閉店時間が待ち遠しいぜ)



◇◇◇◇◇◇



「広瀬さぁん! どこ行くんですか?」

伊藤が走り寄ってくる。

伊藤。
優司の7戦目の勝負相手で、広瀬のグループの2番手的存在の男。

この男が広瀬に泣きついたことで、広瀬はやむなく優司と勝負することになった。

「よぅ、伊藤。
 今日はちょっと用事があるからさ、先にあがるよ」

「あれ? まだ夜の10時半ですよ? 閉店まであと30分もあるのに。
 ストック機打ってるならまだしも、今日の広瀬さん、ゴージャグの6ツモってましたよね。
 ノーマルAタイプの6なら、閉店までタコ粘りが基本なんじゃないんですか?」

「うん。本来はそうなんだけど、今日は、閉店まで打ってると間に合いそうにないからさ」

「え……? どっか行くんですか……?」

「ちょっくら、『ベガス』に行ってくるよ」

「え? 『ベガス』?
 …………あッ、今日ってもしかして…………」

「まあ、いろいろ思うところあってさ。他のヤツには言うなよ、面倒だから」

「……了解っす」

ニコっと笑い、そのままスタスタと歩き去る広瀬。

歩き去る広瀬の姿を黙って見送る伊藤。

(そうか。今日って、確か八尾と夏目の……。
 でも、なんで広瀬さんが……)
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