ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第53話 : 「何でもアリ」の意味

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「だ、大成功ですね八尾さん!」

「ああ、だから言っただろ? 安心しろってさ」

「いやあ、でも何にも聞いてなかったんで、最初は焦りましたよ。
 だってベガスって、ゴールドXで変則押ししたら、即、出玉没収じゃないですか?
 それなのに、あんなに落ち着いてるから……」

「バーカ。何の為にわざわざこの『ベガス』を選んだと思ってんだよ。
 まだ攻略法の通じるゴールドXが残ってるからこそ、あえてこの店にしたんだ。
 『変則押しをしたら出玉没収』なんていうあんな張り紙、いずれあいつらだって気付くだろうと思ってたから、わざわざこの店を選んだんだぜ」

「で、でも、まさか主任さんと組んでるなんて想像もしないから」

「そこがミソなんだよ。普通はそこまでしないもんなぁ。さすがの俺でも、卑怯だと思うくらいだからさ。
 でも、それも認めさせちまえば反則じゃなくなるんだよ。
 夏目だって、不正かもと思いつつも、自分なりに無理やりな理屈をこじつけてゴールドXの変則押しに走ったはずだ。『故意にコインを減らすのは反則』的なルールがあるんだからな。
 でも、あいつはその手段を選択した。そして、俺はそれを黙認した。
 となれば、今更俺のグレーな行為をとやかく言う資格は夏目にはないんだよ」

「な、なるほど……
 あえて夏目にグレーな行為をさせるために、この『ベガス』を勝負ホールに……。そこまで計算して……」

信次の言葉に気を良くしながら、勝ち誇った笑顔を浮かべる八尾。

「でもよ、ここまで綺麗に決まりすぎると逆に夏目がかわいそうに思えてくるぜ。へへへ。
 ……さてと、後はゆっくりと勝負させてもらうか」

余裕綽々でそう宣った八尾は、悠々と自分の台へ戻っていった。



優司が「起死回生」だと思っていた、出玉没収を狙ったゴールドXへの台移動。
しかしそれは、すべて八尾の計算通りの行動だった。



◇◇◇◇◇◇



「夏目、お前さ。ゴールドXの変則押しを始めた時にどう思った?」

日高の問いかけに、やや戸惑う優司。

「どうって……」

「ルール上、不正になるかも、とか考えなかったか?」

「そ、そりゃもちろん考えたよ!
 でも、あれはギリギリでセーフでしょ?
 だってさ、機種情報不足による出玉の減少は失格ってなってるけど、ホール情報不足は失格なんて記述はない。
 だから、俺があの張り紙に気付かなかったってことにすればOKなんだからさ!
 俺らの間で取り交わした、ルールが書いてある紙に、はっきりと『駄目』って書いてなきゃなんでもアリじゃん!
今回の勝負はそういうルールだったよね? 」

「ああ、そうだ。俺もそう思ってた。
 『なんでもアリ』ってなってる以上、そうだよな」

「…………あっ」

優司が素っ頓狂な声を上げた。

「気付いたか?」

一呼吸あけて、日高が言いにくい言葉を絞りだす。

「そうだよ……。『なんでもアリ』ってのはそういうことだ。
 あのルールを記した紙には、『店員と組んではいけない』とは書かれてないんだよ。
 こういう予想外な事態が起こるのを恐れたから、俺はあの時に『ルールをもっと吟味すべきだ』ってしつこく言ったんだ」

ドクンッと大きく優司の心臓が跳ねる。
一瞬、目の前が真っ暗になってしまった。

「だ……だって…………
 じょ、常識ってもんが…………
 店側と組むなんて…………それじゃ、勝負でもなんでもないじゃん…………」

人はこれほどまでに動揺できるのか、というほどに、ひどく取り乱してしまう優司。

「俺に言い訳してもしょうがないぜ」

日高は、残念そうにポツリと呟いた。

「うっ……うっ……おぇ……」

カラ嗚咽まで出始める優司。
苦しさからか、自然と涙目になっていく。

同情に溢れる目で優司を見つめる日高。

だが、日高は冷静に現況を分析する。

「まあ、いくらガラガラのシマとはいえ、多少は他の客の目もあるだろうから、やりようによっては出玉没収くらいまではなんとかなるかもしれない。
 でも、そこから後が続かない。
 店の主任と組まれている以上、何をやっても勝ち目はない。その気になればなんだってできる」

「……」

「しかも、八尾はそういう奴だろ? 勝つためなら何でもやるって。お前も自分で言ってたよな」

声のトーンは優しいが、内容は極めて酷なもの。
事実上の敗北宣告に等しい。

もちろん、日高も好きで言ってるのではない。

しかし、二人とも冷静さを失ってはそこでジ・エンド。
辛い状況だろうと、それをしっかりと把握し、伝える人間がいなければ進展はない。
日高はそう考えていた。

優司もそれはわかっている。
自分のためにも、冷酷な現実をはっきり告げてくれているのだ、と。

しばらく重苦しい空気が二人を支配する。



5分ほど沈黙が続いた。
優司はもちろん、日高も言葉を失っていた。

しかし、その沈黙を破り、優司が口を開く。

「……とりあえず、日高は先に戻っててくれ。あいつを長い間野放しにしておくのは危険だしね。
 あ、俺はもう大丈夫だから。なんとか立ち直れる。
 いつまでもこうやっててもしょうがないしね。とりあえずいろいろ足掻いてみるよ」

先ほどまでと比べ、表情はだいぶ落ち着いていた。

その様子に、日高は一抹の安心感を得た。

「……本当に大丈夫なんだな? 信じるぞ?」

「ああ、大丈夫だよ。だいぶ頭の中が整理できた」

「わかった。じゃあ先に戻ってる。
 ……なんて言っていいかわかんないけど、まだ負けが確定したわけじゃない。薄いとはいえ可能性はある。
 できるだけ頑張ろうぜ。
 俺も、いろいろ考えてみるよ」

「ああ、ありがとう」

優司の礼に軽く微笑み、そのまま日高は八尾のところへと戻っていった。

それを見送り、優司は日高とは逆方向へと歩いていった。

そのまま戻ってもしょうがない。
気持ちを落ち着けつつ、冷静になって何か策を考えようと決めたのだ。

(さて、と……どうするかな。
 ちゃんと働けよ俺の脳みそ! もっともっとリラックスしろ……。
 負けたって殺されるわけじゃないんだ。
 気楽に、気楽に……。
 俺は落ち着いている……気持ちが落ち着いている…………)

そばにあったベンチに腰を下ろし、自らの体をリラックスさせていった。

そして目を閉じ、体中の力を抜き、リラックスするための言葉を頭の中で繰り返す。

(気持ちが落ち着いている……。
 俺はとても気持ちが落ち着いている……)

そのまま数分ほど、リラックスするための作業に没頭した。

おかげで、先ほどまでと比べればある程度の余裕は取り戻しつつあった。

(よし。自律訓練法を身に付けておいて本当によかった。
 いつでも気持ちを落ち着けて、集中力を高められるってのは便利だ。
 ……あんな父親だけど、これについては感謝だな)
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