ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第38話 : 神崎真佐雄

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「すいません伊達さん! 遅くなっちゃって!」

息を切らせながら、若い二人の男が走り寄ってきた。

「おう! ノブ、安井! やっと来たか。
 最近タルんでんじゃないのか?」

「違うんですよッ!
 安井のヤツが寝坊して……」

言われた安井は、舌を出しながら照れたような笑いを浮かべている。

「違ってないじゃんよ……。要はタルんでんじゃねぇか。
 ったく、しょうがねぇなぁ。
 まあいいや、ほらコレ、いつもの紙な」

ノブがその紙を受け取った。

「どうも! 助かります伊達さん!
 いやぁ、神崎さんにはいつも助けられっぱなしで……
 神崎さんからのこの設定予想メモがないと、今頃俺たち路頭に迷ってますよ。
 早く頑張って一人で喰っていけるようにならないと」

「おいおい……。
 真佐雄まさおは、お前らにスロ生活にどっぷりハマって欲しいなんて思ってないんだぜ。
 逆に、早く一般社会に巣立っていって欲しいと思ってんだからさ」

「え~? 俺も安井もまだ19だし、あと2年くらいは大丈夫ですよ~!」

「……まあ、俺もスロ生活にどっぷりな人間だから、偉そうなこと言えた義理じゃないんだけどな」

そう言って伊達は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

「ところで、神崎さんって今日は様子見に来てくれるんですか?」

「いや、あいつは今日も夜だけだ。昼はいろいろ用事があるらしい」

「そうなんですか……。
 わかりました! とりあえず、このホールは俺たちに任せてください!」

「ああ。
 それじゃ俺は、他のヤツらんとこも回ってくるから。それじゃあな」

ノブと安井にそう告げ伊達は、足早にその場を立ち去った。

伊達を見送った後、ノブが受け取ったメモを開きながら呟く。

「それにしても、やっぱ凄いよなあ神崎さんは。
 実際に自分で打つことはほとんどないのに、朝と夜の軽いデータ取りだけでこうやって的確に出る台がわかるんだからさ」

「……まあ、ね」

安井は、やや不満げな面持ちで答えた。
その様子に気付いたノブがすぐさま問う。

「なんだよ安井。神崎さんに文句でもあるのか」

すると安井は、重々しく口を開いた。

「……いや、確かに凄いとは思うけどさぁ、なんだかうまいこと利用されてるような気もすんだよなぁ」

「利用?」

「ああ。
 今ノブも言ってたけど、神崎さんって自分ではほとんど打たないじゃん。
 俺たちみたいな人間をいっぱい集めて、打つ台をそれぞれ指示して、勝った場合は勝ち金の20%を納めさせるわけだろ?
 要は、俺たちは都合良く打ち子として利用されてんじゃないかなぁ、って思ってさ」

すぐさまノブが語気を荒めて返す。

「安井よぉ、それ本気で言ってんのか?」

「え……?」

「神崎さんが指示してくれるからこそ、俺たちはなんの苦労もなく高設定台掴めるんじゃねぇかよッ!
 おかげで、立ち回りのコツも分かってくるし。
 その授業料と思えば、20%くらい屁でもないだろ?
 神崎さんだって、霞を食って生きてるわけじゃない。無償で、何十人っている俺たちみたいな人間のために時間を使うわけにもいかないだろうが」

「そ、そりゃまあ……」

たじたじの安井。
さらにノブが畳みかける。

「しかも俺らは、無理矢理神崎さんの指示に従わされてるんじゃない。
 ついさっき伊達さんも言ってたけど、むしろ早く自立しろって言われてるよな?」

「……」

「でも俺たちには、スロで一人で立ち回って勝つほどの腕がないし、将来何がやりたいかもまだ見つかってないから、仕方なく神崎さんが面倒みてくれてんだろ?
 そんな立場の俺やお前が、神崎さんに対して不満を持つなんておこがましすぎるんだよ!」

烈火のごとく怒るノブの勢いに押され、すっかりしょげ返ってしまった安井。

「わ、悪かったよ……
 そういうつもりじゃないって……
 もちろん俺だって、神崎さんのことは尊敬してるし、感謝もしてるんだからさ……」

「じゃあ、そういうふざけたことは二度と言うな。たとえ冗談でも」

「わかったよ……」

痛いところをズバリと突かれてしまい、安井は恥ずかしそうに目を伏せた。
ノブはその様子を見て、ようやく溜飲を下げた。

と同時に、ノブの頭に一つの疑問が頭をよぎる。

(でも、確かに不思議な感じはする。
 神崎さん、なんで自分では打たないのかな?
 あのランクの人になると、もう実働するのは面倒なのかな。
 ……まあ、それでも俺たちには何にも言う権利はない。助けてもらってるのはこっちだし)

よし、と自分に気合を入れるように声を出したノブは、伊達から渡された設定予想メモを握りしめながら、今日稼働する予定のホールへと歩き出した。
安井も、慌ててノブの後を追った。
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