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【第3章】
■第34話 : パチスロ勝負、次の相手は……②
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「まあ、まずはこれを見ろよ。」
そう言って日高は、自分の持ってきた地図をテーブルの上に広げた。
優司が、広げられた地図に目をやる。
その地図が何を示すものなのかは瞬時にわかった。
「これって、このへんの地図、だよね?」
「ああ、俺らが普段打ってる、このS町T駅周辺の地図だ。赤い丸をつけてあるところがホールの場所だよ」
地図には、いくつもの赤丸が記されていた。
「へぇ、こりゃわかりやすいなぁ」
「だろ?
で、見て分かるとおり、このT駅から徒歩とか原付で移動できる範囲に、ざっと20個以上のホールがある。
こんなにホールが密集してるところは他にないだろう?
この街は日本で最大のスロ激戦区なんて言われてるけど、これがその由縁だよ」
「改めて見るとすごいね。
俺もノートにまとめてるから、大体のホールの数はわかってたつもりだけど、地図上でこうやって見ると圧巻だね。こんなに多けりゃ、そりゃいろんな人間が集まってくるわけだ」
ここで真鍋が口をはさむ。
「腕に自信のあるヤツは、とりあえずこの街に来ようとするからなぁ。
ライターデビューするヤツも多いし。
スロッターとしてはやりがいのある街だぜ、ほんと」
「なるほどね。
――じゃあ日高、悪いけど説明をお願いしてもいいかな?
そのためにこの地図を持ってきてくれたんでしょ?」
「ああ、いいぜ」
日高は、自分の肩掛けバッグからボールペンを取り出し、地図を指しながら話し出した。
「まず、前も説明したと思うけど、この街では注意しなきゃいけないデカいパチスログループってのがいくつかあるんだ。
その筆頭は、神崎のグループだな」
「神崎……?」
「そうだ。彼は今や、この街のカリスマみたいなもんだからな。
勝負したところで勝ちづらい相手ってのもあるけど、下手に仕掛けると後々面倒なことにもなりそうだしよ。
あとは、『マルサン』の広瀬、『パーラー桜』の北条、ホールを問わずイベント狙いで立ち回ってる緒方、こいつらのグループもそこそこデカい。揉めると厄介だな。
……こんな感じだよな遼介?」
「まあ、俺は揉めてもかまわねぇけどな!」
日高がため息をつく。
「……聞いた俺がバカだった。
ま、コイツの言うことは気にすんなよ夏目。
下手に揉めたらマズいのは確かだから」
「な、なんでだよ!
俺、そんな間違ったこと言ったかっ?」
「うっせぇよ! お前の基準で判断すんな!」
また始まった、と思い、呆れ顔で二人の様子を見ている優司。
この二人は、一事が万事この調子だ。
仲が良いほどケンカする、それを地でいく二人の関係であった。
「まあまあ、落ち着いてよ二人とも。
要は、今挙がったグループの人間とかに下手に勝負を仕掛けるなってことでしょ?」
優司の方に向き直り、返事をする日高。
「ああ、そういうことだよ」
「オッケー、わかったよ。
俺としても、この街で長くやっていきたいからトラブルは御免だし。
今名前が挙がったような人たちは避けていくことにするよ」
「よし。わかってくれりゃいいや。
あと、ピンで打ってるヤツでも要注意なのはいるぜ。
前も軽く言ったけど、特に乾って男には間違ってもカラむなよ?
最近じゃほとんどこの街で打ってないみたいだけど、とにかくピンで打ってるヤツの中じゃ腕はピカイチだ」
「ふーん……」
「仲条、大石ってのもいる。
こいつら二人もなるべく避けた方がいい」
淡々と説明していく日高。
説明に素直に聞き入りつつ、優司は自分のノートにメモしていった。
「そっか、ありがとう!
大体わかったよ。当面避けるべき相手ってのが」
「さすが物分りがいいな。遼介とは違うぜ!」
「あ? なんだと? 言わせておけばテメェ!」
「お前がいつまでもガキみたいなこと言ってっからだろうが!」
「な、なんだとッ?」
再び始まる二人のケンカ的掛け合い。
やれやれ、となんとなく小島へ目を向けると、小島も同じような表情で苦笑していた。
「あ、そうだ。そろそろ俺の最初の相手について教えてくれよ、小島」
目が合った瞬間、先延ばしになっていた重要事項を思い出し、早速質問した。
真鍋とのやり合いを止めた日高が、優司の方に向き直った。
「おっと、そうだったよな。
今日はそれを伝えるために集まったんだっけ。
――じゃあ小島、頼むよ」
「うっす! じゃあいいッスか?」
身を乗り出す優司。「ああ、教えてくれ!」
ビールを一口流し込んでから、小島が口を開く。
「今回食いついてきた相手は、牧野っていうスロプーっス。
普段は3人とか4人でツルんで打ち回ってるヤツで、腕の方はまあ……初級者に毛が生えた程度ってところッスかね。
最近段々と勝てるようになってきて、調子に乗ってる真っ最中って感じッスよ!」
小島の話を聞き、優司はついキョトンとしてしまった。
「ふーん、そうなんだ。今の話からすると、随分と張り合いのなさそうな相手じゃん」
「ええ。夏目君なら楽勝なんじゃないかと。
とりあえず、本格的なスロ勝負生活としては初戦だし、まずはこのくらいの相手で丁度いいんじゃないッスか?」
横で聞いていた真鍋が喋りだす。
「小島の言うとおりだな。
いきなり初戦から苦戦してもつまんねぇだろ。
まずは勢いをつけとくためにも、その程度の相手の方が都合がいいんじゃねぇか?」
「まあ、そうだね!
よく考えたら俺は、負けないことが最重要なんだし。張り合いとか求めてる場合じゃなかったな。
じゃあ、その牧野って人でお願いするよ!」
「決まりッスね! 早速、連絡しときますよ」
「うん、よろしく頼むよ」
「よっしゃッ! これで決まったな!
とにかくめでたいぜこりゃッ!
ほら、乾杯だよ乾杯! ジョッキ持てよ光平、小島!
夏目、お前もほら! 当事者なんだからよ!」
話が決まったとみるや、大声で仕切りだす真鍋。
嬉しくて仕方がないといった様子だ。
「祭好きなヤツだな」と苦笑いする一方、まるで自分のことのように喜んでくれる真鍋の姿に心が温まった。
真鍋の号令とともに、4人はもう一度大きな乾杯をした。
そう言って日高は、自分の持ってきた地図をテーブルの上に広げた。
優司が、広げられた地図に目をやる。
その地図が何を示すものなのかは瞬時にわかった。
「これって、このへんの地図、だよね?」
「ああ、俺らが普段打ってる、このS町T駅周辺の地図だ。赤い丸をつけてあるところがホールの場所だよ」
地図には、いくつもの赤丸が記されていた。
「へぇ、こりゃわかりやすいなぁ」
「だろ?
で、見て分かるとおり、このT駅から徒歩とか原付で移動できる範囲に、ざっと20個以上のホールがある。
こんなにホールが密集してるところは他にないだろう?
この街は日本で最大のスロ激戦区なんて言われてるけど、これがその由縁だよ」
「改めて見るとすごいね。
俺もノートにまとめてるから、大体のホールの数はわかってたつもりだけど、地図上でこうやって見ると圧巻だね。こんなに多けりゃ、そりゃいろんな人間が集まってくるわけだ」
ここで真鍋が口をはさむ。
「腕に自信のあるヤツは、とりあえずこの街に来ようとするからなぁ。
ライターデビューするヤツも多いし。
スロッターとしてはやりがいのある街だぜ、ほんと」
「なるほどね。
――じゃあ日高、悪いけど説明をお願いしてもいいかな?
そのためにこの地図を持ってきてくれたんでしょ?」
「ああ、いいぜ」
日高は、自分の肩掛けバッグからボールペンを取り出し、地図を指しながら話し出した。
「まず、前も説明したと思うけど、この街では注意しなきゃいけないデカいパチスログループってのがいくつかあるんだ。
その筆頭は、神崎のグループだな」
「神崎……?」
「そうだ。彼は今や、この街のカリスマみたいなもんだからな。
勝負したところで勝ちづらい相手ってのもあるけど、下手に仕掛けると後々面倒なことにもなりそうだしよ。
あとは、『マルサン』の広瀬、『パーラー桜』の北条、ホールを問わずイベント狙いで立ち回ってる緒方、こいつらのグループもそこそこデカい。揉めると厄介だな。
……こんな感じだよな遼介?」
「まあ、俺は揉めてもかまわねぇけどな!」
日高がため息をつく。
「……聞いた俺がバカだった。
ま、コイツの言うことは気にすんなよ夏目。
下手に揉めたらマズいのは確かだから」
「な、なんでだよ!
俺、そんな間違ったこと言ったかっ?」
「うっせぇよ! お前の基準で判断すんな!」
また始まった、と思い、呆れ顔で二人の様子を見ている優司。
この二人は、一事が万事この調子だ。
仲が良いほどケンカする、それを地でいく二人の関係であった。
「まあまあ、落ち着いてよ二人とも。
要は、今挙がったグループの人間とかに下手に勝負を仕掛けるなってことでしょ?」
優司の方に向き直り、返事をする日高。
「ああ、そういうことだよ」
「オッケー、わかったよ。
俺としても、この街で長くやっていきたいからトラブルは御免だし。
今名前が挙がったような人たちは避けていくことにするよ」
「よし。わかってくれりゃいいや。
あと、ピンで打ってるヤツでも要注意なのはいるぜ。
前も軽く言ったけど、特に乾って男には間違ってもカラむなよ?
最近じゃほとんどこの街で打ってないみたいだけど、とにかくピンで打ってるヤツの中じゃ腕はピカイチだ」
「ふーん……」
「仲条、大石ってのもいる。
こいつら二人もなるべく避けた方がいい」
淡々と説明していく日高。
説明に素直に聞き入りつつ、優司は自分のノートにメモしていった。
「そっか、ありがとう!
大体わかったよ。当面避けるべき相手ってのが」
「さすが物分りがいいな。遼介とは違うぜ!」
「あ? なんだと? 言わせておけばテメェ!」
「お前がいつまでもガキみたいなこと言ってっからだろうが!」
「な、なんだとッ?」
再び始まる二人のケンカ的掛け合い。
やれやれ、となんとなく小島へ目を向けると、小島も同じような表情で苦笑していた。
「あ、そうだ。そろそろ俺の最初の相手について教えてくれよ、小島」
目が合った瞬間、先延ばしになっていた重要事項を思い出し、早速質問した。
真鍋とのやり合いを止めた日高が、優司の方に向き直った。
「おっと、そうだったよな。
今日はそれを伝えるために集まったんだっけ。
――じゃあ小島、頼むよ」
「うっす! じゃあいいッスか?」
身を乗り出す優司。「ああ、教えてくれ!」
ビールを一口流し込んでから、小島が口を開く。
「今回食いついてきた相手は、牧野っていうスロプーっス。
普段は3人とか4人でツルんで打ち回ってるヤツで、腕の方はまあ……初級者に毛が生えた程度ってところッスかね。
最近段々と勝てるようになってきて、調子に乗ってる真っ最中って感じッスよ!」
小島の話を聞き、優司はついキョトンとしてしまった。
「ふーん、そうなんだ。今の話からすると、随分と張り合いのなさそうな相手じゃん」
「ええ。夏目君なら楽勝なんじゃないかと。
とりあえず、本格的なスロ勝負生活としては初戦だし、まずはこのくらいの相手で丁度いいんじゃないッスか?」
横で聞いていた真鍋が喋りだす。
「小島の言うとおりだな。
いきなり初戦から苦戦してもつまんねぇだろ。
まずは勢いをつけとくためにも、その程度の相手の方が都合がいいんじゃねぇか?」
「まあ、そうだね!
よく考えたら俺は、負けないことが最重要なんだし。張り合いとか求めてる場合じゃなかったな。
じゃあ、その牧野って人でお願いするよ!」
「決まりッスね! 早速、連絡しときますよ」
「うん、よろしく頼むよ」
「よっしゃッ! これで決まったな!
とにかくめでたいぜこりゃッ!
ほら、乾杯だよ乾杯! ジョッキ持てよ光平、小島!
夏目、お前もほら! 当事者なんだからよ!」
話が決まったとみるや、大声で仕切りだす真鍋。
嬉しくて仕方がないといった様子だ。
「祭好きなヤツだな」と苦笑いする一方、まるで自分のことのように喜んでくれる真鍋の姿に心が温まった。
真鍋の号令とともに、4人はもう一度大きな乾杯をした。
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