ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第32話 : かけがえのないもの

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いつもの生活に戻って3日が過ぎた。

優司のいつもの生活とは、近辺の各ホールを巡って情報を集めること。
ある程度の蓄えもできたため、さすがにコイン拾いまではやらなくなっていたが。

(今後、設定読みの勝負をしていく上で、ホール情報は絶対に必要だ。
 今まで以上にこのノートを充実させていかないとな)

今となっては財産とも言える存在となった、優司のポケットサイズのスロノート。
日高や真鍋も一目置くこのノートには、近隣のホールについての詳細な情報が書き込まれている。

例えば、今優司が立ち寄っていた、駅の近くにある『クリーム』という店の場合。

===============

《クリーム》 駅から徒歩2分

■交換率
6枚

■客付き
平日は平均で6割程度。
駅から近いためか、夜7時くらいから稼働率が上がってくる。
土日は堂々とボッタくる為、あまり稼動はよくない。

■客層
大体、年配3割・若者7割。
若者の比率が高い上、上級者も多いため立ち回りにくい。

■朝一の台の状態
全台7揃え。
リールガックンなどの判別は使えない。
設定変更も夜に行なっていそう。
これにより、朝一デモ画面のズレによる設定変更判別も利用不可。

■イベント内容
基本的にガセはない。
しかし、サラリーマンの一般的な給料日である25日を過ぎた後のイベントは要注意。
ほとんどが単なる回収イベント。
毎月7日に行われる「ラッキー7祭り」はかなりの信頼度がある。
このイベントでは、ほとんどのシマに複数6を置いていることが確認できた。

■設定変更パターン
読みやすくはない。
だが、前日大ヘコミの台・大爆発台には高設定を入れてこない傾向あり。
あと、高設定据え置きはほとんどない。

■喰える度
3点(10段階)

■総評
上級者が多い+6枚交換ということもあり、ハイエナにも不向き。
毎月7日のイベント以外は積極的に狙うべきホールではない。

===============

以上のような感じだった。

ここに記されている内容以外でも、このホールに対して日々感じたことなどが、ノートの備考欄にびっしりと書き込まれていた。

そして、この情報はホール状況が変わるたびに細かく更新されていく。

さらに、期間を区切っての各シマの平均設定や出玉状況などについても、別ページにまとめられていた。

他にやることがなく、時間がたっぷりと余っているからこそ、ここまで徹底的にできる。
これが優司の最大の強みであった。



◇◇◇◇◇◇



「ブルルルル……」

昼過ぎ。
『クリーム』での調査を終え、近くにある公園で一休みしていると、不意にポケットに入れておいた携帯が振動を始めた。

携帯を持って以来初めてのコールだったので、少し動揺してしまう。

「も、もしもし?」

たどたどしく電話に出る優司。

「おう! 俺だよ! 日高。
 今日みんなで集まるから、お前も来いよな!
 とりあえず夜8時に『串丸』集合だから!」

「う、うん、わかったよ。
 それにしても、また串丸なんだ?」

「あそこは安いしうまいしで最高なんだよ!
 じゃあ8時に来いよ! 遅れんなよ!」

「了解!」

日高からの3日ぶりの連絡。
もしやスロ勝負の相手が見つかったのか?と、声色には出さなかったもののやや興奮していた。

興奮すると同時に、緊張感も襲ってくる。

(仮に相手が決まったのなら……絶対に負けられないぞ。初戦から負けるなんてありえない。
 いや、そもそも俺は負けたら終わりなんだ)



◇◇◇◇◇◇



「そうそう! そういえば言うの忘れてたッ!
 ちっと聞いてくださいよッ!」

ホール調査が長引き、待ち合わせ時間から30分ほど遅れて『串丸』へ到着した優司。

入店すると、途端に聞こえてくる騒がしい小島の声。
声のトーンから、大分出来上がっていることがうかがえる。

「遅れてごめん。
 ってか、相変わらずうるさいなー、小島」

「お? やっと来たか夏目! 先に始めてたぜ!」

真鍋が大声で反応した。

今日のメンバーは日高・真鍋・小島、そして優司の4人。

4人掛けテーブル席の奥に日高と真鍋が向かい合って座り、小島は真鍋の隣りに座っている。
優司は、空いていた日高の隣りに座った。

「わるい!
 そこの『マーメイド』のぞいてたら遅くなっちゃったよ。
 あそこ、なんかやけに刺激的なイベントやってない?」

間髪を入れずに真鍋が返答する。

「そう! そうなんだよ!
 BIG回数とREG回数がゾロ目になったら『水着ギャルが肩揉んでくれる』っつーサービスだろ?
 夏らしくていいよなぁ~!
 俺、ついさっきまでチャレンジしてたんだよ!
 いやぁ~、なかなかうまいことゾロ目にならねぇもんだな~」

「チャ、チャレンジしてたんだ……」

真剣に悔しがる真鍋、苦笑いを浮かべる優司……。

「ちょ、ちょっとちょっとぉ~!
 そんなくだらないことで俺の話を中断しないでくださいよ」

軽くふくれっ面をしながら、優司と真鍋の会話に小島が割って入る。

「あ? てめぇ、くだらないとは何事だっ?
 そのイベントの為だけに、俺がいくらブッ込んだと思ってんだよ!
 ボーナス回数がゾロ目に近いからって理由だけで、あのクソつまんねー『目指せ!ドキドキ島』なんぞを打ってた俺の気持ちがお前にわかんのか?」

「あ、あれはあれで面白いじゃないッスか!
 パンファン激アツッスよ!」

「そういう話をしてんじゃねぇ!」

「ま、まあ落ち着けよ……」

日高が呆れ顔で止めに入る。

その様子を見ながら、優司は横で声を出して笑っていた。
いつの間にやら、先ほどまでの「勝負相手が決まったのかどうか」という緊張感はなくなっていた。

(仲間ってのはいいものなんだな。知らなかった。
 ……この関係は大事にしないと。ほかの何よりも……) 
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