ゴーストスロッター

クランキー

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【第2章】

■第22話 : 突破口

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絶望しながら、行く当てもなく歩きまわる優司。
気づくと、無意識に『シルバー』の前に立っていた。

吸い寄せられるように、ホールの正面にあるベンチに腰掛け、何度も繰り返してきた思考をまた繰り返す。

(どうすればいいんだ……どうすれば……)

生気なく、道行く人々の表情を眺める。
皆、無表情に歩を進めている。

(この中で、俺ほど苦しんでる人間がどれだけいるんだろう。
 俺より不幸な人間がどれだけいるんだろう。
 数日後に無理矢理パチスロ勝負をさせられて、負ければ30万円を奪われてホームレス、なんていう過酷な状況にいるような人間が……)

だんだんと何も考えられなくなり、勝負とは全く関係のないことに気が向いていく。

すでに、「なんとか勝たないと」という思いは優司の中から消えかけていた。



◇◇◇◇◇◇



茫然とすること数十分。

スロとは全く関係のない、現実逃避的なことを考え続ける優司。
ひたすら、自分の置かれた境遇を哀れみ続けていた。
そんなことをしてもどうにもならないと知りながら。

焦点の合わない視線を、辺り構わずに這わせる。

すると、ふと一枚の張り紙が目についた。

(……ホール店員のバイト募集の張り紙か。
 この際、『シルバー』の店員にでもなって設定を直接覗いてやろうか。
 でも、パチ屋って早番だと開店よりも1時間くらい早く来なくちゃいけないし、遅番でも閉店した後1時間くらい閉店作業で残らなきゃいけないんだよなぁ。
 よく考えてみると、結構面倒くさいバイトだよなぁ。)

当然、『シルバー』で働こうかどうか本気で悩んでいるわけではない。

勝負の日まであと4日。
今からバイトの応募をしたところでどうにもならない。
あまりにテンパっているがゆえ、どうでもいいことに思考が飛んでいるのだ。

その時だった。

目の前にあるバイト募集の張り紙の「ある記述」が優司の目に飛び込んできた。

(ん? ここって遅番の勤務時間が23:30までなのか。
 こんなにデカいホールなのに、たった30分で閉店作業が終わるのか?
 普通のホールでも、閉店作業として1時間はやるってのに)

『シルバー』は4階建てのスロ専門店。
1フロアに100台近く入っている巨大なホールである。

(別に、そんなに店員が多い店でもないよな。
 ……ってことは、閉店後にコイン抜いたり台拭いたりとかはしてないのか?
 まあ、コインは自動補給になってたからなんとかなるんだろうけど。
 そういえば、台とかコインとか汚かったよな)

ふと気になり、早番の勤務時間もチェックしてみた。

(9:30から? 10時開店なら、普通は早番の出勤が9時だよな。早番も、通常より30分遅いのか。
 30分とはいえ、これで随分人件費が浮くんだろうな。
 その分、出玉に還元するのかな。確かに、そこそこ出してるホールだし)

ここで、優司にある閃きが走る。

(待てよっ?
 早番も遅番も、開店作業や閉店作業が短くなるってことは……)

みるみるうちに生気が戻っていく。

(……待て待て、慌てるな俺。
 まずはいろいろと確認することがある。俺の主観だけで判断しちゃダメだ)

なんとか自分を落ち着かせ、おもむろに立ち上がり近くの公衆電話へと向かった。



◇◇◇◇◇◇



「本当に間違いない?」

確認したかったことを聞き、相手に再度確かめる優司。

「ああ。俺の経験から判断するに、ほぼ確実に夏目の予想通りだと思うよ」

電話の相手は、日高のグループの一人であるヒデ。
元ホール店員である。

優司の『シルバー』への読みが、元店員から見てどうなのかを確認したかったのだ。

「そっか。わかった! ありがとう!」

「いや、全然いいよ。
 日高からも、できるだけ協力してやってくれって頼まれてるし」

「そっか、助かるよ。
 ホントありがとう。それじゃあ」

そう言って電話を切った。

(よし……なんとか突破口を見つけた。
 でも、これで解決できたわけじゃない。まだ、あくまで糸口を見つけただけだ。
 これから、いろいろと検証していかないと。
 残りあと4日か。もしかしたらなんとかなるかも……
 いや、なんとかなるかも、じゃ駄目だ! 絶対になんとかしないと! 俺は絶対に負けられないんだっ!)
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