ゴーストスロッター

クランキー

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【第2章】

■第18話 : 日高と真鍋、その過去①

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約1年前。
とある飲み屋にて。

「いやあ! 今日もガッツリ出したな!
 まあ、俺ら全員ほとんどが設定6に座ってんだから当然か」

嬉しそうに喋る真鍋。
それに呼応するように調子をあわせる日高。

「当たり前だ!
 あのクソぬるい『エース』で5人でノリ打ちしてんだから、負ける方が難しいっつー話だろ」

今日のノリ打ちに参加した5人全員で、一緒に飲んでいた。
そして5人とも、満面の笑みで楽しそうにしている。

会話からわかる通り、今日も5人とも勝利を収めているゆえ、当然全員機嫌も良かった。

「でも、今日は俺の読みが全的中だったな!
 感謝しろよ~光平!」

「バ~カ! あんなの読めて当然だっての。調子にのんな!」

「そりゃそっか! ハッハッハッ!」

浮かれた口調で盛り上がる二人。

ビールを呷りながら、日高が口を開く。

「それにしてもラッキーだよな。
 こんなヌルいホールを掴めるなんて」

「ほんとだよ! よく見つけてくれたな光平。
 まだ通い始めて間もないけど、今月は俺たち5人のトータルで400万は抜いてんじゃねぇか?
 別にフル稼働してるってわけじゃねぇのに」

「それくらいはいってるだろうな。
 でも、今後は少し気をつけようぜ。
 あんまし抜きすぎると、さすがにホール側に警戒されるだろうからな」

「まあな。そりゃ言えてる。
 もうちょっと打つホールのローテーションをちゃんと考えるべきだな」

「へぇ、遼介がそんなまともな意見を言うとは思わなかったぜ。
 お前のことだから、『関係ねぇ! 抜きまくるぜ!』なんて言うかと思ったけどな」

「バ、バカにすんなよ!
 俺だって一応霊長類の端くれだぜ?
 そんくらいはわかるっての!」

日高と真鍋のやりとりを、他の3人は楽しそうに聞いていた。

勝ちやすいホールを掴み、しっかりと結果も出ている今の状況に5人とも大満足で、まさに『この世の春』という様子だった。

しかしその時、仲間の内の一人がこんなことを言い出した。

「ちなみに、日高君と真鍋君って、どっちの方がスロッターとして上なんですか?」

このグループのツートップとして存在している日高と真鍋。
他の3人にとっては、当然気になる疑問であった。

この質問を受け、真鍋が流暢に答える。

「そりゃまあ、ほとんど互角だよ。
 機種情報も台読みも、お互い勝ってもいないし負けてもいないからな」

日高も応じる。

「確かにな。
 俺と遼介は、ほとんど互角の腕だからこそこうやって組んでやっていられるんだ。
 そうじゃなきゃ、負けず嫌いの俺らがこんなにうまくやってけるはずないからな」

「へぇ~! やっぱそうなんですね。
 確かに俺らの中でも、日高君と真鍋君、どっちが上だっていう結論は出なかったんですよ。
 それだけに、なんとなく知りたくなっちゃって」

「変な疑問を持つなっての。なあ、遼介?」

「おう! そんなことは関係ねぇよ。
 ……まあ、目押しの腕は、光平よりも若干俺に分があるかもしれないけどな」

酔った勢いもあってか、なんとなくそんなことを口走ってしまった真鍋。

「おお~! そうなんですか? 目押しもほぼ互角かと思ってたのに」

真鍋の答えに対して喰い付く他の3人。
しかしその瞬間、日高が声を荒げた。

「おいおい! ちょっと待てよ!
 そんなわけねぇだろ? 酔った勢いで調子乗ってるだけだよ。なあ遼介?」

「……いや、別に調子に乗って言ったわけじゃねぇよ。目押しは、俺の方が上手いだろ」

「あ……? どういうことだよ」

「どういうことって……言葉通りの意味だよ。
 正直、光平だって目押しだけは俺に劣ってると思うだろ?」

「はぁっ? 何言ってんだお前! むしろ俺の方が上だろうがよ。
 今までは、言うとウルせぇからと思って黙ってたけどよ」 

「あんっ? お前、そんなふうに思ってたのかよッ?
 ふざけんじゃねぇぞ! どう考えても目押し力は俺の方が上だろ?」

「何が『どう考えても』だよ。何を根拠に言ってんだ?」

「光平よぉ、お前昔、『ドン2』の複合役狙いで2回連続でミスったことあったよな? あん時はノリ打ちだったから、今でもよぉく覚えてるぜ」

「そ、そういうお前こそ、オオハナのビタをありえねぇとこでミスってやがったじゃねぇか! 小役ゲームが23Gも残ってたのに最後のジャックインをさせちまってよ!」

だんだんとヒートアップする二人。

この後も、二人はお互いの目押しミスについて、重箱の隅をつつくように責め合った。

互いに酒の勢いでつい熱くなってしまい、やめようやめようと思いつつもつい悪い方向へエンジンがかかってしまった。

そんな二人の様子を見て、他の3人は「しまった」という表情を浮かべている。

「ま、まあまあ、落ち着いてくださいよ二人とも。
 誰だって、目押しミスすることくらいあるじゃないですか。
 その日の調子とかもあるし」

止めに入られて、少し落ち着く日高。

だが、おさまらない真鍋は、日高に向かってこう口走った。

「わかったよ。
 ここまできたら白黒つけようぜ。前々から、はっきりさせておきたいと思ってたんだ」

「は……? 何をだよ」

「互いの目押し力に決まってんだろ? 俺の方が上だってのをちゃんと証明してやるんだよ」

「何だよそれ。もういいだろ。まだそんなくだらねぇこと言ってんのか?」

「うるせぇよ! 今更、オオハナでミスった話までいちいち持ち出してきやがったのは光平の方だろうが」

「あぁ? お前が最初に古い話を持ち出したんだろッ!」

「とにかく! こうなったら引くに引けねぇ。
 明日勝負しようぜ。
 勝負はオオハナでいいよ。はっきりと決着を着けようぜ」

「……わかったよ遼介。そこまで言うならやってやる。
 ただし、ここまでオオゴトにしてんだから、何か大事なモン賭けてもらうぜ。
 それでもいいのか?」

日高としては、こんなバカげた勝負はなんとか避けたかった。

とはいえ、単に「やりたくない」などとは言えない。
ここでそんなことを言えば、ただ逃げただけと思われるのがオチだからだ。

何か大事なモノを賭けるまでのことになれば、真鍋も冷静になって勝負などやめてくれるかもしれない、という淡い期待を持ったのだ。
今は、お互い酔っ払っていることもあり、無駄に熱くなっているだけのことなのだから。

しかし、そんな日高の思いは届かなかった。

「……ああ、いいぜ。
 じゃあ『エース』を賭けよう。この勝負に負けた方はグループから抜けて、今後一切『エース』にも近づかない。これで充分だよな?」

「りょ、遼介……お前、そこまですんのかよ……」

真鍋は、耳を貸さない。

「よし、決まりだな。
 じゃあ明日は『テキサス』に集合ってことにしようぜ。
 あそこには、まだオオハナが置いてあるからな」

ついさっきまでの楽しい雰囲気が嘘のようだった。

もはや、日高と真鍋以外の3人に口をはさむ余地はなく、ただ黙っているしかなかった。

「じゃあ、そういうことで。
 光平、明日遅れるなよ」

言うと同時に立ち上がり、真鍋はそのまま店を出ていった。

残されたのは、言葉をなくしたままの4人と、気まずい空気だけだった。 
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