ゴーストスロッター

クランキー

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【第1章】

■第11話 : 完全決着

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午後9時。
ついに、設定発表の時刻となった。

運命の時を前に、優司は日高のもとへ行き、余裕をたっぷりとまとった声で言う。

「いよいよ発表の時間だね」

「……ああ」

日高はすでに、ある程度結果が分かっている様子だった。

そんな日高とは逆に、まだまだ日高の勝利を盲目的に信じている藤田。

「うるせぇぞ夏目! 日高さんがお前なんかに負けるかよ」

そう宣った直後、優司が打っていた北斗の右ハジ台に、ブッスリと「設定6」の札が刺さった。

日高は、その様子を無表情のまましばらく眺めてから、軽くため息をつき、優司に向けて言葉を放った。

「……とりあえず、コインを流して一旦外に出るか。
 夏目も、6とはいえ、もうその台いいだろ? 全然出てないしよ」

「うん、俺はいいけど」

「よし。じゃあ行こうぜ。
 藤田、お前も来いよ」

藤田は、引きつった顔をしながら小さく頷いた。



◇◇◇◇◇◇



「なんでだ? なんで、最後まであんなに余裕たっぷりでいられたんだ?」

外へ出るやいなや、日高は優司に詰め寄った。
出玉的に冴えなかったのに、終始自分の台に自信を持っていた優司の態度が不思議なのは当然だろう。

「なんでって言われても、それだけ自分の読みに自信があった、としか言いようがないよ」

この言葉に日高は異様に反応し、まくしたてるように話し出した。

「こんなはずはないんだ!
 今日は土曜だよな。この店は、休日にはほぼ確実に前日一番ヘコんでた台に6を置いてくる店なんだよ。
 それがさっきまで俺が打ってた台だ。本来なら、俺の台に6が入るはずだったんだ。
 今日はたまたまイレギュラーで変なところに6が入っただけで、要はお前の勝ちは単なる運ってことだよ!」

動揺する日高に対し、優司は落ち着いた口調で返した。

「いや、運じゃないよ。
 ていうか、今の話を聞いて、余計に運じゃなかったってことを確信したね。
 ただ単に、君の読みが俺よりも劣っていただけだってことを」

「な、なんでだよっ?
 俺はもう1年くらいこの店でジグマってんだぞ!
 どう考えても俺の方がこの店について熟知してるはずだろ!」

「ジグマ期間が長けりゃいいってもんじゃないよ。
 でも、この店だったらそこまでしっかりと分析しなくても勝ち続けられるかもね。ヌルいから。
 まあ、そのヌルさのおかげで日高君が分析を怠ってくれたわけだから、今はそれに感謝してるよ」

「分析を怠った……?
 じゃあ、俺には何が足りなかったっつーんだ? お前と俺とで何が違ったんだっ?」

「先に、渡すモン渡してもらえないかな?
 前回痛い目見てるしね。そっちのバカに」

「……」

日高は、横にいる藤田を一睨みした後、おとなしく財布の中から30万円を取り出し、優司に差し出した。

藤田は、苦々しい表情を浮かべながらただただうつむいていた。

「30万円が入る財布を持ってるなんて凄いね。
 じゃあ、遠慮なくもらうよ」

受け取った30万円をポケットにしまう優司。
その姿を確認した後、日高が前のめりで質問する。

「……で? 俺とお前の立ち回り、何が違ったんだ?」

優司は、少し考え込んでからおもむろに話し出した。

「まあ、もうこの店には来るつもりもないから教えとくよ。
 まず、この店がヌルいことを知ってるってことは、設定の入れ方が決まりきってて、あんまり変則的なことはしてこないってのはわかってるよね?」

「ああ、もちろんだ。
 だからこそ、この店で打ち続けてんだから。
 そういうわかりやすいホールを見つけて、そこに居つくのもスロッターとしての腕だろ」

「まあね。
 ……で、確かにこのホールは、日高君の言うとおり、休日は、シマの中で前日に一番ヘコんでた台に必ず6を入れるクセがある。普段はね。
 でも、『サラリーマンの一般的な給料日である25日を過ぎてからの最初の休日』は、ハジ台に、しかも前日によりヘコんでいた方のハジ台に6を置くクセがあるんだ。
 今日は26日の土曜でしょ? しっかりとこの法則に当てはまる日ってわけ」

「な、なんだと……?」

日高は瞬時に青ざめた。



さすがの日高も、自分とは無縁の「サラリーマン」の給料日のことまで頭に入れていなかった。

サラリーマンの給料日やボーナス支給日の直後は、ホールにとっての回収期だということくらいは当然日高も知っていたが、それによりこの店の設定変更パターンが狂ってくることまでは読みきれていなかったのだ。

今回の勝負、優司にとっても『賭け』である部分もあった。

果たして日高が、どこまで今回の勝負ホールである『エース』に対して分析しているか。
この部分については未知だったのだから。

しかし、ヌルいホールをものにし、しかもそこでキッチリと勝ち続けているような状況ならば、いくら腕のあるスロッターとはいえ、その分析の精度も鈍るのではないか、と優司は考えていたのだ。

常勝しているような状況でもさらに分析を進め、月にたった1回程度設定変更パターンが違うということを見抜くなど神業に等しい、と。

人間、なかなかそこまでシビアになれるものではない。

好収支をキープし続けているような状況で、「もっとプラスを上乗せできるはず」と考えて、さらに調査・分析を進めるという行為はなかなかできることではないのだから。

結果的には、『エース』の極端なヌルさが、日高にとっては仇となった。



優司が口を開く。

「日高君、自分でもさっき『休日にはほぼ確実に前日一番ヘコんでた台に6を置く』って言ってたよね?
 『ほぼ確実に』ってことは、何度かハズしてることもあったんでしょ?」 

「あ……う……」

「そこんとこをもうちょっと詰めるべきだったね。
 大体、少し考えればわかることだよ? なんだかんだいって、パチ屋の一番の上客はサラリーマンなんだ。そのサラリーマンに一番重きを置くのは当然でしょ?
 そんな上客であるサラリーマンの給料日直後の休日に、なんらかのパターン変更があってもおかしくはない、って考えてみるくらいの柔軟さは必要だよ。
 俺はそういうところにも気を配ってこのホールを分析して、2ヶ月でこのパターン変更を完全に見抜いたよ。
 まあ、このホールが何でハジ台にこだわるのかは不明だけどね。知る必要もないし」

「……」

何も言い返せず、黙り込む日高と藤田。

特に藤田の表情は、この上ないほどに歪んでいた。 
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