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【第1章】
■第10話 : 勝負の行方
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「いらっしゃいませぇ!」
午前10時。
不意に聞こえてくる店員の大きな声。
それすなわち、開店の合図である。
入り口の自動ドアが開くと同時に、優司は猛然と狙い台に向かって走る。
それに追随する日高。
偶然にも、二人の走っていく方向は一緒だった。
そして、辿り着いた先は二人とも「北斗の拳」。
言わずと知れた、超人気機種である。
「なるほどね。夏目君もこの機種か」
「……」
「でも、今日は休日だから同一のシマには設定6は1台しかないぜ。
このホールは、休日は同一のシマに2台以上6を置くことはないからな。
さすがに俺ら二人ともハズレってこともないだろうから、これで引き分けはなくなったな」
「……みたいだね。また仕切り直し、なんてことにならなくて助かるよ」
奇しくも二人とも同機種。
16台が1列に並ぶ北斗のシマ。
優司は一番右のハジ台、日高は右から3番目の台。
日高と優司の間は、わずかに1台を隔てるだけである。
たっぷりと余裕を浮かべながら、悠々と優司に話しかける日高。
「各自、今座った台が6だったら勝ちなんだよな。
もう台移動はナシだぜ」
「ああ、わかってるよ」
軽く言葉をかわした後、二人とも黙々と自分の台を回し始めた。
◇◇◇◇◇◇
勝負開始から3時間が経過した午後1時。
現在の出玉状況は、日高が2000円投資で約2000枚持ち、優司は17000円投資で約400枚持ち。
出玉だけ見れば、圧倒的に優司が負けている状態である。
日高が席を立ち、優司の耳元でささやく。
「ふふ、悪いな。大幅にリードしちまってて。
BB後の高確移行も、チャンス目、スイカからの移行率、ヒット率も俺の方が上だしな」
もはや勝ちを確信したかのような口調で優司に話しかける日高。
しかし、優司に焦りは見えなかった。
「確かに俺の台は出玉で負けてるし、高確移行も今んとこよくないよ。
でもね、北斗ってのは短時間じゃ何もわからない。
勝った気になるのは早いんじゃないの?」
「よく言うぜ。
短時間だろうとある程度目安にはなるだろ?
そんな負け惜しみはよせって」
「……」
「まあ、それも8時間後の夜9時にははっきりすることだけどな。
あんまし負け惜しみが過ぎると後で恥ずかしい思いをすることになるぜ」
「ああ、覚えておくよ」
日高の挑発的な言葉にも反応せず、優司は淡々と返答した。
その時だった。
「日高さん、調子はどうっすか?」
聞き覚えのあるイヤな声。
そう、藤田である。
優司にとって、今回の勝負の一番の目的ともいっていい藤田が、ついに現れたのだ。
「藤田ッ……」
思わず藤田を睨みつける優司。
それを気にする様子もなく、日高の出玉を見て藤田はにやついた。
「やっぱ楽勝っすね! さすが日高さんだ。
まあ、別に心配してなかったけど。
日高さんが勝つことはわかってたし」
憎らしい軽口を叩きながら、優司を完全に無視する藤田。
優司もあえて苦々しい思いを一旦抑え込み、そのままプレイを続けた。
(今に見てろ……。お前の居場所なんて失くしてやるからな……)
◇◇◇◇◇◇
午後6時。
運命の設定発表の時間まであと3時間。
あれから、お互い追加投資はなく、持ちコインでのプレイが続いている。
しかし、出玉の差は圧倒的だった。
日高は約5000枚、優司は約900枚。
相変わらず出玉の差は広がる一方。
それなのに、先ほどまで余裕だった日高の表情が若干歪んできていた。
実は、日高の5000枚という持ちコインは、単にBBの継続に恵まれてのものだった。
BBの継続には一切の設定差がないため、今の日高の大量出玉は『単なる運』ということになる。
さらに、順調だったBB後の高確移行や、レア小役率やチャンス目・スイカからのヒット率はみるみる下がっている状態で、初当たり回数ではなんと優司に負けているのである。
先ほどとは逆に、今度は優司が席を立ち、日高の耳元でささやく。
「日高君、なんだか随分焦ったような表情をしてるね。
さっきまではあんなに余裕だったのに」
「う、うるせぇよ!
確かにそっちの方が初当たりが良いけど、6かどうかなんてわからねぇだろ?
4とか5だったら勝ちにはならないんだからな!」
そばに立っていた藤田が、横から口をはさむ。
「そ、そうだぞ! いい気になってんじゃねえ!
お前が日高さんに勝てるわけねぇだろ!」
そんな藤田へ首を向け、日高が怒鳴る。
「うるせぇ藤田! お前は口はさむんじゃねぇ!」
フォローしたつもりが怒鳴られてしまい、意外そうな顔をしながら藤田は口を噤んだ。
そんな中、優司は落ち着いた声でこう言った。
「わかってるよ。
これはあくまで設定6をツモる勝負。どっちも6をツモれなかったら引き分けさ。
たとえ俺の台が5で、日高君の台が1でもね。
でも、ついさっき『二人とも6をハズすなんてことはない』とか大見得きってなかったっけ?」
「……と、とにかく俺の台もまだ6の可能性はあるんだ。
あんまし余裕こいた態度とってんなよ」
「まあ、ね。
とにかく、泣いても笑ってもあと3時間で結果が出るんだ。お互い、頑張ろうよ」
そう言い捨て、優司は自分の席へと戻った。
出玉とは裏腹に、お互いの余裕はこの時点で逆転していた。
藤田のニヤけた表情も、この頃からなくなってきていた。
午前10時。
不意に聞こえてくる店員の大きな声。
それすなわち、開店の合図である。
入り口の自動ドアが開くと同時に、優司は猛然と狙い台に向かって走る。
それに追随する日高。
偶然にも、二人の走っていく方向は一緒だった。
そして、辿り着いた先は二人とも「北斗の拳」。
言わずと知れた、超人気機種である。
「なるほどね。夏目君もこの機種か」
「……」
「でも、今日は休日だから同一のシマには設定6は1台しかないぜ。
このホールは、休日は同一のシマに2台以上6を置くことはないからな。
さすがに俺ら二人ともハズレってこともないだろうから、これで引き分けはなくなったな」
「……みたいだね。また仕切り直し、なんてことにならなくて助かるよ」
奇しくも二人とも同機種。
16台が1列に並ぶ北斗のシマ。
優司は一番右のハジ台、日高は右から3番目の台。
日高と優司の間は、わずかに1台を隔てるだけである。
たっぷりと余裕を浮かべながら、悠々と優司に話しかける日高。
「各自、今座った台が6だったら勝ちなんだよな。
もう台移動はナシだぜ」
「ああ、わかってるよ」
軽く言葉をかわした後、二人とも黙々と自分の台を回し始めた。
◇◇◇◇◇◇
勝負開始から3時間が経過した午後1時。
現在の出玉状況は、日高が2000円投資で約2000枚持ち、優司は17000円投資で約400枚持ち。
出玉だけ見れば、圧倒的に優司が負けている状態である。
日高が席を立ち、優司の耳元でささやく。
「ふふ、悪いな。大幅にリードしちまってて。
BB後の高確移行も、チャンス目、スイカからの移行率、ヒット率も俺の方が上だしな」
もはや勝ちを確信したかのような口調で優司に話しかける日高。
しかし、優司に焦りは見えなかった。
「確かに俺の台は出玉で負けてるし、高確移行も今んとこよくないよ。
でもね、北斗ってのは短時間じゃ何もわからない。
勝った気になるのは早いんじゃないの?」
「よく言うぜ。
短時間だろうとある程度目安にはなるだろ?
そんな負け惜しみはよせって」
「……」
「まあ、それも8時間後の夜9時にははっきりすることだけどな。
あんまし負け惜しみが過ぎると後で恥ずかしい思いをすることになるぜ」
「ああ、覚えておくよ」
日高の挑発的な言葉にも反応せず、優司は淡々と返答した。
その時だった。
「日高さん、調子はどうっすか?」
聞き覚えのあるイヤな声。
そう、藤田である。
優司にとって、今回の勝負の一番の目的ともいっていい藤田が、ついに現れたのだ。
「藤田ッ……」
思わず藤田を睨みつける優司。
それを気にする様子もなく、日高の出玉を見て藤田はにやついた。
「やっぱ楽勝っすね! さすが日高さんだ。
まあ、別に心配してなかったけど。
日高さんが勝つことはわかってたし」
憎らしい軽口を叩きながら、優司を完全に無視する藤田。
優司もあえて苦々しい思いを一旦抑え込み、そのままプレイを続けた。
(今に見てろ……。お前の居場所なんて失くしてやるからな……)
◇◇◇◇◇◇
午後6時。
運命の設定発表の時間まであと3時間。
あれから、お互い追加投資はなく、持ちコインでのプレイが続いている。
しかし、出玉の差は圧倒的だった。
日高は約5000枚、優司は約900枚。
相変わらず出玉の差は広がる一方。
それなのに、先ほどまで余裕だった日高の表情が若干歪んできていた。
実は、日高の5000枚という持ちコインは、単にBBの継続に恵まれてのものだった。
BBの継続には一切の設定差がないため、今の日高の大量出玉は『単なる運』ということになる。
さらに、順調だったBB後の高確移行や、レア小役率やチャンス目・スイカからのヒット率はみるみる下がっている状態で、初当たり回数ではなんと優司に負けているのである。
先ほどとは逆に、今度は優司が席を立ち、日高の耳元でささやく。
「日高君、なんだか随分焦ったような表情をしてるね。
さっきまではあんなに余裕だったのに」
「う、うるせぇよ!
確かにそっちの方が初当たりが良いけど、6かどうかなんてわからねぇだろ?
4とか5だったら勝ちにはならないんだからな!」
そばに立っていた藤田が、横から口をはさむ。
「そ、そうだぞ! いい気になってんじゃねえ!
お前が日高さんに勝てるわけねぇだろ!」
そんな藤田へ首を向け、日高が怒鳴る。
「うるせぇ藤田! お前は口はさむんじゃねぇ!」
フォローしたつもりが怒鳴られてしまい、意外そうな顔をしながら藤田は口を噤んだ。
そんな中、優司は落ち着いた声でこう言った。
「わかってるよ。
これはあくまで設定6をツモる勝負。どっちも6をツモれなかったら引き分けさ。
たとえ俺の台が5で、日高君の台が1でもね。
でも、ついさっき『二人とも6をハズすなんてことはない』とか大見得きってなかったっけ?」
「……と、とにかく俺の台もまだ6の可能性はあるんだ。
あんまし余裕こいた態度とってんなよ」
「まあ、ね。
とにかく、泣いても笑ってもあと3時間で結果が出るんだ。お互い、頑張ろうよ」
そう言い捨て、優司は自分の席へと戻った。
出玉とは裏腹に、お互いの余裕はこの時点で逆転していた。
藤田のニヤけた表情も、この頃からなくなってきていた。
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