ゴーストスロッター

クランキー

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【第1章】

■第5話 : 砂上の楼閣

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14:00を過ぎた頃。
藤田の様子を見るために、ホールへと足を運ぶ優司。

店へ入り、早速、藤田に確保するよう指示した北斗へと向かってみると……

そこには、予想を上回る光景が鎮座していた。

藤田は、優司が指定した台をしっかりと確保した上で、まだ昼下がりだというのにあっさりとドル箱2箱カチ盛りを築いていた。

下皿と合わせれば、どう少なく見積もっても3000枚はある。
この店は等価交換なので、すでに6万円分以上のコインを得ていることになる。

しかも、今もBB(バトルボーナス)の真っ最中。

「よお! 調子いいね!」

思わず満面の笑みで藤田に話しかける優司。

藤田に好感など持ってはいないが、期待通りの働きをしてくれていることに対してついつい嬉しくなってしまい、笑顔を振りまいてしまった。

「おお! 夏目君!
 見てよ、今BB15連目なんだけど!
 これ『昇天』いけるかもよ!? さっき、レイ来たしさ!
 俺、継続率79%以上が確定すれば常に昇天できそうな気がしちゃう男なんだよねぇ!
 これ、絶対イケるって!」

『昇天』とは、パチスロ北斗の拳において20連以上のBB(バトルボーナス)の継続を指す。
昇天すれば、最低でも3000枚のコインがほぼ保証される。

興奮気味の藤田を見て、まるで自分のことのように嬉しくなってくる優司。
それもそのはず、この出玉の半分は自分のものになるのだから。

「あ、やべぇ~よ夏目君! 剛掌波きちゃったよ……。調子に乗ったからかな」

「大丈夫だって! リンが助けてくれるよ!」

「ええ~!? そうそう都合よくいかねぇだろ……
 でも頼むぜ! ここまできたら出て来いよリン! おりゃッ!」

藤田が力強くMAX BETボタンを押すと同時に、華麗に出現するリン。
リンが登場すれば、BBは継続する。

「おお~! すげぇ! やるじゃん藤田君!」

「マジびっくりだな! さすがに終わったと思ったのに!」

二人ではしゃぐ姿は、周りから見れば、俗に言う「ウザ」そのものだった。

本来、こういう輩を嫌う優司であったが、この時ばかりはそんなことを忘れて盛り上がってしまった。

惜しくもこのBBは18連で終わったが、BB終了後に速攻でLED矛盾が発生し、これにて高確以上に滞在していることが確定。
しかも、その直後に2チェを引き、あっさりと再びBBをゲット。
そしてこれが8連。

(すごいなこの男……。やっぱヒキのあるヤツは違う……)

嬉しさと同時に、今までの自分の不甲斐ないヒキに虚しさを感じた。
最高継続がたったの「6連」の優司にとっては、この藤田のヒキは驚異的だった。

(まあいい。今までのことは忘れよう。ヒキだけはどうにもならないものなんだから。
 俺はこれからも、こうやっていけばいいんだ。
 ヒキの強いやつと組んで、そいつに高設定を掴ませる。
 このスタイルを貫けば、金は貯まっていくんだ。
 俺は、設定読みなら誰にも負けないんだからな!)

藤田にこの後もブン回すように伝え、そのままホールから出て行った。

ただただ、藤田のこの調子が続くように願って。 



◇◇◇◇◇◇



14:00過ぎにホールへ様子を見に行った後、あえて優司はこの時間まで一度もホールへは行かなかった。

あの状態から出玉が飲まれるようなことはないだろうという考えと、どれだけ出玉を増やしたのかを楽しみにしておきたいという感情が入り混じり、閉店前まではホールへ行かないようにしていたのだ。

時刻は22:30。
ホールに入り、真っ直ぐ藤田のところまで歩いていく。

しかし、ここで予想外の事態が目に飛び込んできた。
なんと、藤田の頭上にはわずか1箱のドル箱しかないのである。

「え? マジで……?」

思わず声に出してしまった。

小走りで藤田に駆け寄り、慌てて声をかける優司。

「ね、ねぇ! もしかしてノマれたの? 嘘だろっ?」

焦る優司に、落ち着いた口調で返す藤田。

「焦るなって。ほら、これ」

そう言って、頭上の札を指差した。
そこには、輝かしい「設定6確定」の札が。

「やっぱ6だったよ。さすがだな、夏目君。
 ドル箱は別積みにしてあるだけだ。ほら、あっちにあるだろ?」

指差された方向を見ると、9箱ほど積まれたドル箱が目にうつった。

「え? あれって、この台のコイン……?」

「もちろん。
 あの後昇天かましてさ。40連もしちゃったよ!
 多分、全部合わせて15000枚近くあるんじゃないかな」

優司は、驚きのあまり声も出なかった。

確かに、昼過ぎに一度様子見に来た時のペースから考えると、このくらいのコインが出る可能性はあるかも、という淡い期待はあった。

しかし、実際ここまでうまくいくとは思ってもみなかった。

「す、すげぇよ藤田君……! まさか、本当にここまで出すとは……」

「なっ? 俺もびっくりだよ」

互いにふわふわとした笑みを浮かべながらの会話が続いた後、もう間もなく閉店ということで、コールボタンを押して店員を呼ぶ藤田。

ジェットカウンターにコインを流し、レシートを受け取る。
そこには、「15362枚」の文字が印刷されていた。
この枚数は、優司にとって未知の数字だった。
等価交換なので、換金すれば30万円以上だ。

興奮気味に二人で換金所へと向かい、無事換金作業を済ませ、30万を超える大金を藤田が受け取る。
それを目の当たりにして、声を失う優司。

そして、金を手にしながらボソリと呟く藤田。

「す、すげぇ……。やっぱ実際に手にすると、結構迫力あるな、30万って」

「確かに……。見てるだけでも圧巻だよ。
 ……で、結局いくら投資だったの?」

「……4000円、だな」

「ってことは、30万3000円勝ちか! すごいなぁ……」

「……そうだな」

「じゃあ、俺の取り分の15万、今もらっていいかな?
 端数の3000円はあげるよ。
 丸1日ブン回して疲れただろうし、その手間賃としてさ」

「…………」

「ん? どうしたの?」

なぜか30万強の金を手にしたまま、黙りこくる藤田。
そんな姿に、優司は一抹の不安を覚えた。

「ね、ねぇ。何固まってるの……?
 とりあえず、俺の取り分の15万、渡してもらえるかなぁ」

「……あのさぁ、あの台を取って1日ブン回したのは俺だよな?」

「は?
 ……いや、そりゃそうだけど、あの台を選んだのは俺でしょ?
 ってかちょっと待ってよ……。何を言おうとしてんの……?」

「いや、なんかさぁ。ふと思ったんだよな。
 俺が苦労して稼いだこの30万を、なんでわざわざお前と折半しなきゃいけねぇんだ、ってよ」

細身の優司よりも遥かに線の太い体を持つ藤田が、威圧的に優司に近付きながら、野太い声でそう言った。

イヤな汗が一気に噴出してきた。
必死で頭の中を整理しようとする優司。

(コイツは何を言ってるんだ?
 大金を目の前にしておかしくなっちまったのか……?)

焦りながらも、段々状況が飲み込めてきた。

まさかこんなことを言い出すとは思ってもいなかったので、考えをまとめるのに手間取ってしまったのだ。

「な、なあ藤田君。よく考えようよ。
 この金は、俺がいなかったら手に出来なかったんだよ? それはわかるよね……?」

「……まあ、な」

「でしょ?
 だからさ、とりあえずその半分は俺に渡すべきじゃん。
 ていうか、元々そういう約束だったよね?」

「まあ……そうだけどよ。
 でも、その約束ってのを知ってるのは俺とお前の二人だけじゃん?
 別にここで俺がバッくれたって誰もなんとも言わねぇよな」

「ちょ……ちょっと待てよ! なんなんだよその言い方!
 それが、勝たせてもらった人間に対する態度か?
 お前みたいなロクに設定も読めないようなヘボじゃ、絶対に手に出来ない金なんだぞ!
 ふざけるのもいい加減にしろよ!」

ここで優司はキレてしまった。

無理もない。
この状況なら、10人中9人は怒りを抑えることは出来ないだろう。

しかし、そんな優司を半笑いで眺めながら、藤田はこう言った。

「へっ、そうやって一人で騒いでろよ。
 とにかく、この金は俺のモンだから。たった今、そう決めた。
 ま、今回は助かったよ。 久々の大勝ちだったからな。
 じゃ、そういうことで」

そのまま藤田は、足早にその場を立ち去ろうとした。

「ふ、ふざけるなよお前っ!
 このまま行かすとでも思ってんのかよっ!」

大声で喚きながら、藤田の胸倉に掴みかかる優司。

生まれてこの方ケンカなどしたことがない優司だったが、その日暮らしの中、練りに練った計画が当たってようやく大金が入ろうかというタイミングゆえ、必死だった。

「藤田! お前はどこまでもクズなんだな!
 スロでも勝てない、人としての仁義もない、最低野郎だよ!
 お前みたいなヤツはなぁ、さっさとくたばっ――」

怒りに任せて藤田を罵っていると、突然腹部に強烈な衝撃を感じた。
見ると、藤田の右拳が深々と優司の腹に突き刺さっていた。

「ご……ふ……おぉ……」

呻きながら前かがみになる優司を見下ろしながら、藤田は勝ち誇る。

「悪いなぁ。どっちかって言うと俺は、スロよりもケンカの方が得意でね。
 いつでも相手になってやんぜ?」

「お、お前……」

もがきながらも、一旦離してしまった胸倉をもう一度掴もうとする優司。

しかし、その手はあっさりと藤田に振り払われてしまい、さらにもう一発腹部へ拳をお見舞いされてしまった。

「頼む……待ってくれ……その金がないと俺は……」

振り絞るように懇願したが、その言葉を聞いたか聞かずか、藤田は気にする様子もなく平然と去っていった。

早く追いかけなければ。
その気持ちだけはあったが、心と体に負ったダメージにより、優司は動くことができなかった。
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