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Book 1 – 第1巻
Op.1-14 – Fashion and Music
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自室に戻ってドアを閉めた光は軽く欠伸をした後にフリースを脱いでベッドの上に投げる。
時刻は13時少し前。レッスンは14時からで家から歩いて15分しない程度のため、まだ少し時間に余裕はある。しかし、光のマイペースさを見越して舞が早めに声をかけたのだ。
起きて既に3時間ほどは経過しているものの、部屋の暖かさと先ほどまで換気のために開けられていた窓から入ってきた空気の冷たさとのギャップ、レースカーテンから溢れる冬の日差し、これらが光の中にアンバランスさを生み出して眠気を誘う。
光はもう一度欠伸をした後にタンスを開けて着ていく服を選んだ後にベッドの上に置き、面倒くさそうにトップスに手をかけて脱ぐと水色ドット柄のブラジャーが露わになり、そのままベッドの方を向いて先ほど置いた黒のヒートテックを着る。
その後更に上から黒いタートルネックを着用した後にボトムスを脱いで白いニットパンツを履き、ベージュキャミワンピースを合わせる。
「あら可愛い」
部屋から出てきた光を見て舞が褒める。
「どうも~」
光はそう言って再び練習部屋の方へと足を向かわせる。
「(変わったな……)」
舞は光の姿を見て彼女の変化を感じ取る。
光は前まで言うほどファッションに興味はなかった。しかし、成長していくにつれて、また、明里を始めとして舞や同級生女子、テレビで時々見かけるタレント、お気に入りMeTuberのコーデなどを見て少しずつ興味を持ち始めたのか、舞に話題を持ちかけるようになった。
––––何か音楽っぽいよね
以前、光が舞に発した言葉だ。
唐突に告げた言葉であったことと、これ以上は光が言及しなかったことで彼女の正確な意図まで把握できていないが、舞の中で自分なりに解釈している。
春夏秋冬、季節による環境の違いやその日の天気のコンディションによって選ぶ最適解、色の組み合わせやその時の流行り、自分の体型への合わせ方など様々な選択肢があり、それが作曲や即興演奏に繋がるようで、光の芸術家ないしクリエイターとしての探究心をくすぐっているのではないだろうか。
わざわざ聞くほどのことでもないのかなと思って光に直接聞いていないが、舞はこれが最も近い答えだと感じている。
「光、髪、髪!」
我に返った舞は練習部屋に入ろうとする光を呼び止める。
「え~もう少し後でも良いじゃん」
「あんたそう言っていっつもギリギリになるじゃない。手伝ってあげるから」
光はしぶしぶ頷いて舞に付いていく。
「(あいつ、将来苦労しそうだなー)」
母娘の様子を横目に見ながら和真は娘の将来を案じる。
「(変なところで拘りあるしなー)」
光は潔癖症というわけではないが、少々細かいところを気にする性分である。身近な例だと『3路スイッチ』 (2箇所のスイッチで、照明器具のON/OFFを操作するスイッチ) がある。彼女の中では上または右にスイッチが入れば点灯、下または左の場合は消灯でなければ落ち着かないらしい。
スイッチを操作するタイミングや人によって逆になったりするので光はわざわざ操作して合うように調節している。
感覚的には分からなくもないが、気付いたら毎回それをやっているらしく彼女が変人と言われる理由の1つである。
洗面所の方で舞と光が騒いでいるのを聞いて1人でに溜め息をついてWaffle製品のタブレット、uPad proを起動してパズルゲームを始めた。
#####
「行ってきまーす」
光はそう言うと家を出てハヤマ中井センターへと向かう。住宅街を通っていつもの曲がり角を右に曲がるとレンタルビデオ店『TAMAYA』が現れる。そこには見慣れた光景が広がる。
休日、昼過ぎということもあって活気付いたその様子は外の冷え切った空気を忘れさせる。
「ッ!」
光は明からさまに不愉快な表情を浮かべる。
歩いている途中、前を通ったゲームセンターとパチンコ店が開いて中に流れる大音量のBGMが光の耳を襲った。光はWaffle Musicで音楽を聴いていたものの選択した曲がメタル系ではなくバラード系のジャズだったこともあって聴いていた音楽を通り越してしまったのだ。
光は足早にその場を通り過ぎてそのまま中井商店街を横断する。なで肩の光はリュックの位置を直すために背負い直すとそのまま直進する。ラーメン店『八蘭』を通り過ぎてちょうど青信号だった横断歩道を渡り、鶴見高校の近くまで寄る。
いつもならそのまま高校に向かうところを横断歩道を渡り終わったところで立ち止まり、向かい側に横断するために信号を待つ。
信号待ちの間、鶴見高校の周りを部活動に来ている生徒たちが走って体力作りに励んでいる。光はチラッとその様子を見た後に前を向いて通り過ぎていく車を眺め始めた。
青信号になったのを確認すると光は横断し、ボウリング場、うどんチェーン店『イースト』を順に通り過ぎてハヤマ中井センターへと入っていく。
ハヤマ中井センターは7階建ての建物で、地下1階にはドラム関連の機材やギター、ベース、DAW製品やレコーディング機材などが揃っている。1階はCDショップ、2階には吹奏楽系の楽器や弦楽器、3階には様々な楽譜と電子ピアノやアップライトピアノ、奥には数台のグランドピアノが販売されている。
4階から7階はレッスン室となっており、多くの生徒がレッスンのためにやって来る。7階はアンサンブルルームとなっており、基本的にはグループレッスンが行われているため、光のように個人レッスンに来た生徒は4階から6階の部屋に入室する。
光はエレベーターに乗って4階で降りると、受付の野本 薫子に「こんにちは」と挨拶した後に受付を行う。
「光ちゃん、今日はいつもと違って5階よ。Fの部屋ね。時間までまだ10分くらいあるけど先に入って練習してて良いよ」
野本はそう言うと、部屋割りが書かれた後ろのホワイトボードを振り向き、『折本』と書かれた名前を指差しながら光に告げる。
「はーい、ありがとうございます」
光はそうお礼を告げると階段を上って【5–F】と書かれた部屋を目指す。少し開けたところにあるソファに座り、缶コーヒーを飲んでいる女性が光の姿を見ると笑顔で話しかける。
「こんにちは、光ちゃん。早めに着いたね」
「先生、こんにちは~。お母さんに急かされちゃって」
「アハハ。お母さんしっかりしてらっしゃるものね。光ちゃん先に入ってピアノ触ってて。すぐ行くから」
「はーい」
光は返事した後に重い防音ドアを両手で一生懸命に開けるとそのままレッスン室へと入っていった。
時刻は13時少し前。レッスンは14時からで家から歩いて15分しない程度のため、まだ少し時間に余裕はある。しかし、光のマイペースさを見越して舞が早めに声をかけたのだ。
起きて既に3時間ほどは経過しているものの、部屋の暖かさと先ほどまで換気のために開けられていた窓から入ってきた空気の冷たさとのギャップ、レースカーテンから溢れる冬の日差し、これらが光の中にアンバランスさを生み出して眠気を誘う。
光はもう一度欠伸をした後にタンスを開けて着ていく服を選んだ後にベッドの上に置き、面倒くさそうにトップスに手をかけて脱ぐと水色ドット柄のブラジャーが露わになり、そのままベッドの方を向いて先ほど置いた黒のヒートテックを着る。
その後更に上から黒いタートルネックを着用した後にボトムスを脱いで白いニットパンツを履き、ベージュキャミワンピースを合わせる。
「あら可愛い」
部屋から出てきた光を見て舞が褒める。
「どうも~」
光はそう言って再び練習部屋の方へと足を向かわせる。
「(変わったな……)」
舞は光の姿を見て彼女の変化を感じ取る。
光は前まで言うほどファッションに興味はなかった。しかし、成長していくにつれて、また、明里を始めとして舞や同級生女子、テレビで時々見かけるタレント、お気に入りMeTuberのコーデなどを見て少しずつ興味を持ち始めたのか、舞に話題を持ちかけるようになった。
––––何か音楽っぽいよね
以前、光が舞に発した言葉だ。
唐突に告げた言葉であったことと、これ以上は光が言及しなかったことで彼女の正確な意図まで把握できていないが、舞の中で自分なりに解釈している。
春夏秋冬、季節による環境の違いやその日の天気のコンディションによって選ぶ最適解、色の組み合わせやその時の流行り、自分の体型への合わせ方など様々な選択肢があり、それが作曲や即興演奏に繋がるようで、光の芸術家ないしクリエイターとしての探究心をくすぐっているのではないだろうか。
わざわざ聞くほどのことでもないのかなと思って光に直接聞いていないが、舞はこれが最も近い答えだと感じている。
「光、髪、髪!」
我に返った舞は練習部屋に入ろうとする光を呼び止める。
「え~もう少し後でも良いじゃん」
「あんたそう言っていっつもギリギリになるじゃない。手伝ってあげるから」
光はしぶしぶ頷いて舞に付いていく。
「(あいつ、将来苦労しそうだなー)」
母娘の様子を横目に見ながら和真は娘の将来を案じる。
「(変なところで拘りあるしなー)」
光は潔癖症というわけではないが、少々細かいところを気にする性分である。身近な例だと『3路スイッチ』 (2箇所のスイッチで、照明器具のON/OFFを操作するスイッチ) がある。彼女の中では上または右にスイッチが入れば点灯、下または左の場合は消灯でなければ落ち着かないらしい。
スイッチを操作するタイミングや人によって逆になったりするので光はわざわざ操作して合うように調節している。
感覚的には分からなくもないが、気付いたら毎回それをやっているらしく彼女が変人と言われる理由の1つである。
洗面所の方で舞と光が騒いでいるのを聞いて1人でに溜め息をついてWaffle製品のタブレット、uPad proを起動してパズルゲームを始めた。
#####
「行ってきまーす」
光はそう言うと家を出てハヤマ中井センターへと向かう。住宅街を通っていつもの曲がり角を右に曲がるとレンタルビデオ店『TAMAYA』が現れる。そこには見慣れた光景が広がる。
休日、昼過ぎということもあって活気付いたその様子は外の冷え切った空気を忘れさせる。
「ッ!」
光は明からさまに不愉快な表情を浮かべる。
歩いている途中、前を通ったゲームセンターとパチンコ店が開いて中に流れる大音量のBGMが光の耳を襲った。光はWaffle Musicで音楽を聴いていたものの選択した曲がメタル系ではなくバラード系のジャズだったこともあって聴いていた音楽を通り越してしまったのだ。
光は足早にその場を通り過ぎてそのまま中井商店街を横断する。なで肩の光はリュックの位置を直すために背負い直すとそのまま直進する。ラーメン店『八蘭』を通り過ぎてちょうど青信号だった横断歩道を渡り、鶴見高校の近くまで寄る。
いつもならそのまま高校に向かうところを横断歩道を渡り終わったところで立ち止まり、向かい側に横断するために信号を待つ。
信号待ちの間、鶴見高校の周りを部活動に来ている生徒たちが走って体力作りに励んでいる。光はチラッとその様子を見た後に前を向いて通り過ぎていく車を眺め始めた。
青信号になったのを確認すると光は横断し、ボウリング場、うどんチェーン店『イースト』を順に通り過ぎてハヤマ中井センターへと入っていく。
ハヤマ中井センターは7階建ての建物で、地下1階にはドラム関連の機材やギター、ベース、DAW製品やレコーディング機材などが揃っている。1階はCDショップ、2階には吹奏楽系の楽器や弦楽器、3階には様々な楽譜と電子ピアノやアップライトピアノ、奥には数台のグランドピアノが販売されている。
4階から7階はレッスン室となっており、多くの生徒がレッスンのためにやって来る。7階はアンサンブルルームとなっており、基本的にはグループレッスンが行われているため、光のように個人レッスンに来た生徒は4階から6階の部屋に入室する。
光はエレベーターに乗って4階で降りると、受付の野本 薫子に「こんにちは」と挨拶した後に受付を行う。
「光ちゃん、今日はいつもと違って5階よ。Fの部屋ね。時間までまだ10分くらいあるけど先に入って練習してて良いよ」
野本はそう言うと、部屋割りが書かれた後ろのホワイトボードを振り向き、『折本』と書かれた名前を指差しながら光に告げる。
「はーい、ありがとうございます」
光はそうお礼を告げると階段を上って【5–F】と書かれた部屋を目指す。少し開けたところにあるソファに座り、缶コーヒーを飲んでいる女性が光の姿を見ると笑顔で話しかける。
「こんにちは、光ちゃん。早めに着いたね」
「先生、こんにちは~。お母さんに急かされちゃって」
「アハハ。お母さんしっかりしてらっしゃるものね。光ちゃん先に入ってピアノ触ってて。すぐ行くから」
「はーい」
光は返事した後に重い防音ドアを両手で一生懸命に開けるとそのままレッスン室へと入っていった。
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