TRACKER

セラム

文字の大きさ
上 下
172 / 172
あとがき

第一部『TRACKER』完結に際して作者あとがき

しおりを挟む
「報告させていただきます。使用人にふんしていたのはまだ14歳の少年でした。彼は平民で、妹と平民街で買い物をしている時に貴族の女性に声をかけかられ、事情はよく知らずにここへ来たそうです」
「その女性というのは?」
「名は名乗らなかったそうです。黒いマントを羽織り、フードも深く被っていたようで、顔も分からなかったと。彼の母親は病に倒れており、父親は地方貴族の屋敷で使用人として働き、治療費を稼いでいるそうです。事情を知った女性にある人物に飲み物を手渡すだけで、母親の治療費を全額負担するからと雇われたようでして」

 おそらくメアリーかルーシーでしょうけど、確認する方法がなさそうね。

「メアリー様には、気分が悪そうな人は3階にある客室へ案内するようにと指示されただけのようです」
「それについてはメアリーも同じように証言しております。ただ、新しい使用人だと思ったという証言については疑念の余地がありますが」

 3階までその少年にアルフレッド様を連れてきてもらい、ルーシーと変わって部屋まで連れてくる計画だったのかしら。

「手渡す相手がアルフレッド様だとはいつ指示があったのですか?」
「はい。どうやら自宅に手紙が届いたようで、そこには指示された飲み物を金髪金目の青年にリリーナからだと言って飲ませること。全て飲み切るのを見届けること。数分してその青年の気分が悪くなったら客室へ連れてくること。と記載されていたようです」

 その他にも、公爵邸への行き方や着替えは着いてから手渡すこと、この手紙は読んだら焼き捨てるように、と書かれていたそうで。

「公爵邸内にはメイドが入れてくれたそうなのですが、初めて見た公爵家本邸に圧倒されメイドの容姿は覚えていないようです。また、飲ませる相手が殿下であるとは知らなかったようで、知った時は怯えていました」

 その少年も何かおかしいと思ったけれど、治療費が必要だから指示通りに動いたみたい。

 証拠が何も残っていないから誰も罪に問えないわね。薬草の入ったグラスにはどちらかの指紋が付いているでしょうけど、指紋を取る技術がないし、仮に取れたとしても照合できないし証拠物としてなりたたないのよね…。

 私もルーシーから得た情報を共有しておきましょう。

「ホワイトさんですが、メアリーが王都で雇ったメイドとして邸内に入ったと思われます。彼女を同じ馬車に乗せるため、メアリーは私と共に乗るのを拒否したのでしょう。また、彼女が私のドレスを着ていた理由ですが、アルフレッド様が私と間違えるから、だそうです」
「なんだって?」

 まぁ…驚くわよね。

「何も分かってないのね、とも言われました。もしかすると二人が協力関係だと思っているのはメアリーだけかもしれません」
「その可能性は高いと私も思います。メアリーはホワイト嬢がリリーナのドレスを着て会場内にいることには気付いていなかったようなので。彼女を公爵邸内に入れたのは脅されたからだと言っていましたが、恐らくその少年を入れるために連れてきたのでしょう」

 お兄様も私と同じ考えのようね。やっぱりメアリーの計画を知った上でルーシーはメアリーを裏切るつもりでいるんだわ。それにしても、メアリーはルーシーを信用し過ぎじゃない?

「必ずまた仕掛けてくるだろうな」

 早急に薬草の成分を調べ、分かり次第今後の動きを話し合おうと約束し、今日は解散となった。




「お兄様。メアリーは利用されていることに気付いていないようですが、教えてさしあげないのですか?」
「教えたらメアリーはホワイト嬢を切るだろうな。動きにくくなった彼女は必ず他に使える人間を見つけるだろう。でもそれはメアリーにも言える話だ。このまま二人で動いてもらった方が一番被害が少なく済む」

 メアリーが心を入れ替えてくれるといいんだがと言ったお兄様は、どこか寂しそうな顔をしていた。正直私はどっちでもいいけれど、確かに家族を壊したいわけじゃないなと思いながら自室に戻り眠りについた。



------------------
※余談※
 利用された少年の母親の治療費はレオニールが利息無しで貸し出し、少年の家族を公爵家の下級使用人として雇った。返済が終わるまで給料は減額支払いになるけど、公爵家の使用人宿舎に食事付きで部屋を与えられ、また家族みんなで住めるので、少年の家族はレオニールに大変感謝しているそう。
 レオニールは、この件で恨まれ行動を起こされてから消すよりも、先回りして動いたほうが処理が楽だからそうしただけ。リリーナは兄だけは敵に回したくないと改めて思ったらしい。


しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

儀仗空論・紙一重

能力の設定や制限などが細かくて、個人的にこういうのとても好きです。陰ながら応援してます!

2022.08.24 セラム

コメント、ありがとうございます!
返信が遅くなってしまって申し訳ございません。

ありがとうございます。インフレを抑えることと心理戦や推理パートに重きを置こうと条件を課しているのですが、それがアダとなって時々苦しんでおります(笑)
温かいお言葉、励みになります、ありがとうございます!
面白い展開になるよう努めますので引き続き応援のほどよろしくお願いいたします:)


解除
スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

2021.09.26 セラム

ありがとうございます!
初めての挑戦なので力不足なところが多いと思いますがよろしくお願いします!

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。