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番外編②後編 - GOLEM / SHADOW編

番外編②-28 – 武とは

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「慎也、お前は何のために霧島流心武源拳を使う?」

 霧島道場の修練を終え、道場で霧島浩三と瀧がただ2人正座して向かい合う中、浩三が静かに瀧に尋ねる。
 瀧は姿勢そのままに一度視線を落として畳の一点を見つめて自身の"武"について考える。しばらくその状態が続き、浩三は穏やかな表情でそれを待つ。

「力の弱き者たちを守るためです。力の弱き者とは様々な意味を内包します。俺は自分に対して助けを求める者には等しく平等に手を差し伸べようと誓っています」

 瀧は一度言葉を切り、更に補足する。

「また、俺は敵対する相手との対話も重視したいと思っています」

 静かに聞いていた浩三がここで口を開く。

「それは何故だ?」

 その質問に対して瀧は静かに落ち着いて返答する。

「正義とはその個人によって違うものだと考えています。俺はそれぞれの正義を理解したい。その中で最終的にここで学んだ霧島流心武源拳を行使するか否かを決めようと考えています。また、場合によっては霧島流心武源拳を、武を交わす中で相手の正義を感じ取ろうと考えています」

 浩三は瀧の言葉を聞いた後に満足そうな表情を見せて瀧に告げる。

「慎也、その心を決して忘れずに持ち続けなさい。お前の良いところは力を持ちながらそれを無闇に使おうとせず、他人の立場となって考えられる、優しい心を持ち合わせていることだ」

 浩三は実の孫に向けるような優しい笑顔を向けながら告げる。

「"武"を暴力と勘違いする者たちが増えてきた中でお前のような若者がいてくれるのは私にとって喜ばしいことだ。それはお前の甘さではない。強みだ。これからも励みなさい」

#####

「ゴフッ……!」

 瀧の"闘気強大拳ビッグ・ファイト・ストレート"によるダメージで内倉は吐血する。

「ハァ……ハァ……」

 息も上がって立ち上がることもできずに壁にもたれかかり、だらっとした両手は力無く地面に放り出されている。それでも内倉の目は光を失うことなく瀧を真っ直ぐに見つめている。

「お前……さっきの拳で俺を殴る直前にどうして力を抜いた?」

 内倉は声が絶え絶えになりながらもハッキリとした口調で瀧に尋ねる。

「……気付いてたのか」
「当たり前だ。それくらいの違いは分かるさ」

 内倉は瀧の答えに即答した後、フッと笑う。その後、痛みに耐えながら自身の推測を瀧にぶつける。

「……生かして捕らえて情報を吐かせるためか? 残念ながら期待に応えられそうにないがな」

 内倉は少し挑発するような笑みを浮かべるものの、瀧はその言葉に対していかるどころか、言葉と息の上がる内倉の様子との差に哀れみの感情すらも湧き上がる。

「確かに俺はお前をぶん殴る直前、少し手加減したさ。それにお前の言う通り、生かして捕らえるためってのもあった」

 その返答を聞いて内倉は予想通りといった具合に鼻で笑う。瀧はその笑みを見ながら話を再開する。

「俺の"闘気強大拳ビッグ・ファイト・ストレート"は相手の悪意の度合いによってその威力が変わる。"闘気強大拳ビッグ・ファイト・ストレート"をお前にぶち込む直前、その威力が俺の想定を大きく下回るものだったんだよ。それでお前と対話したくなったんだ」

 その言葉を聞いて内倉は大きな声で笑い始める。

「ハハハ! お前甘い奴だな! そんなんじゃあ……」

 内倉は一度言葉を切り、それまでの力無い表情から打って変わってゾッとするような冷ややかな薄笑いを浮かべながらその後を続ける。

「死ぬぞ?」

 瀧はその言葉に対しても何も反応を示さずそのまま内倉に質問する。

「お前……採取した血液、どこにやってんだ?」

 内倉は予想だにしない質問だったのか、言葉に詰まる。その後、馬鹿にしたような笑みを浮かべた後に答える。

「俺の超能力の糧になってんだよ。知ってんだろ?」

 瀧はゆっくりと首を左右に振り、答える。

「嘘つくなよ。お前の超能力に利用してないだろ。さっきのも自分の血液に圧力をかけて血流を加速。それで運動能力を向上させたんだろ? 採取した血液をどこやった? 戦闘中にそれを使用してる素振りが全く見られなかった」

 何も答えようとしない内倉に対して瀧はそのまま続ける。

「お前、第一・第二覚醒の両方を終えてるだろ。お前の超能力を使用した時の破壊力、それは2度の覚醒を終えた後のサイクス量とバランスが取れてんだよ。DEEDの連中が言ってたみたいに頻繁に、そして大量の血を必要とするほどの力じゃない」

 瀧自身も第一・第二覚醒を終えている。その経験則から超能力の発動条件の度合いとサイクス量の噛み合わせに敏感である。
 
 固有の超能力の発動条件はその危険度、難易度が高いほど強力な力を発揮する。
 
 瀧は内倉の発動条件の厳しさと"俺の血となり肉となれマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン"が発揮する力を天秤にかけた時に、内倉の内包するサイクス量に対して破壊力が釣り合わないと判断したのである。

「それに状況が俺はお前を完全悪と判断出来ないんだ。話せよ。お前、4年前の襲撃事件でも死者を1人も出さなかった。それに生徒思いだ。潜ってるような奴が4年間もしっかりとアルバムを作るはずないだろ。お前……担任になってから月島妹に情が移ったのか?」

 内倉は瀧の話を静かに聞き、それまで真っ直ぐに瀧を見ていた目を逸らし、何事かを考え始める。

––––こいつなら理解してくれるか?
 
 これまでならば決して抱くことのなかった感情が突如、内倉の心の奥底から湧き上がる。そしてそれを客観的に見て嘲笑する自分にも気付く。

「(心身ボロボロにされて俺もヤキが回ってきたか……?)」

 そう考えた後にもう1度瀧の顔を見る。

「!」

 瀧は内倉をしっかりと見つめ、その目にはどこか強い信念を感じさせる。

「部分点といったところだ」

 内倉の口から言葉が不意に突いて出る。

「やっぱ、教師好きなんじゃねーか」

 瀧は少し笑い、内倉もそれに釣られて微笑む。

「お前みたいな出来の悪そうな生徒は何人も見てきたからな」
「放っとけ」

 軽いやり取りを終えた後に内倉は話し始める。

「お前、後天性超能力者の苦労、分かるか?」

 瀧はその言葉を聞いて身近にいる者、月島愛香が車椅子に座る姿を脳裏に浮かべる。

「あぁ。身近にいるもんでね」

 内倉は瀧が愛香を想像したのだと咄嗟に理解し、「なるほどな」と呟く。

「俺には妹がいる」

 内倉はそう言って自分の過去を語り始めた。




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