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番外編②後編 - GOLEM / SHADOW編

番外編②-20 – 赤いミサ

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「クソがッ! これで満足か? 出て来いよ!」

 舌を根本から噛み切り、それが気道を塞いで窒息死に至るまでの間に笑みを浮かべながら藤村を見つめるSHADOWを見て藤村は咆哮する。

「("思念"は普通、対象者が死んでからだろ!? 俺から捕らえられることを避けるためにッ……! 俺を……! 俺を完全に動けなくするために自殺を開始してから絶命するまでの短時間を条件に俺のサイクスを封じた……!)」

 SHADOWは舌を噛み切る直前に藤村の影に自身の影を重ね、自身のサイクスに対して『窒息死するまでの間、藤村の動きを止めてサイクスを封じること』を命じた。
 対象者が藤村洸哉1人であったこと、そして窒息死するまでと時間が指定され、且つ短時間であったことでSHADOWのこの"思念"を可能とした。

 SHADOWは口から大量の血を吹き出しながらもその表情には笑みを浮かべながら藤村をじっと見つめている。

––––SHADOWはそのまま絶命する。

 藤村は自分の身体が動き始めたことを察したその瞬間、気味の悪いピアノの高音オスティナート (ある種の音楽的なパターンを続けて何度も繰り返すこと) がその空間を包み込み、それに呼応してSHADOWの身体が宙に浮く。
 目を見開いたまま首を下に向け、宙に浮かぶその不気味な姿はまるで糸が切れた人形のようでその身体がじわじわと赤黒く輝き始める。

––––"赤いミサロート・メス"

 藤村の目の前にMOONが姿を現す。

「(こいつは)」

 藤村は"八方美人トランスフォーマー"をMOONに向けてサイクスを込めて発砲、MOONの身体に直撃して貫く。
 しかし、弾丸が腹部を貫いてもMOONは全く動じず、貫いた部分が歪み、再び元の状態に戻る。

「無駄ダ」

 MOONの機械じみた人間味のない音声が藤村に語りかける。

「俺ハ"お目付役パロディ"。MOONノ分身ダ」

 "仮宿ホスチア"を取り込んだ者には"お目付け役パロディ"が取り憑く。MOONの任意のタイミングで"お目付け役パロディ"は対象者の身体を乗っ取り姿を現す。しかし、この超能力の主軸はこれではない。
 
 この超能力に宿る楽曲は"赤いミサロート・メス"。

 ピアノの音色によって奏でられるこの楽曲は、"仮宿ホスチア"を食した者が死に至った場合に自動的にMOONの姿に扮した"お目付け役パロディ"が出現、その死体を回収する。
 "お目付け役パロディ"に対する全ての攻撃は意味をなさない。その代わりに"お目付け役パロディ"も一切の攻撃を許されていない。

「お前だろ。ずっと俺たちの戦闘を監視していたのは。もう1度聞くぞ。満足か? 仲間が死んで自分たちのことが暴かれることが無いってな」

 藤村のサイクスからは明らかに怒気が見て取れる。

「ヤハリ先ホドノ言葉ハ私ニ向ケテダッタノカ。流石ダナ。SHADOWノ中ニ存在スル僅カナ私ニ気付クトハ」

 変わらず抑揚のない機械音で喋るMOONではあるものの、藤村の言葉に少し驚いた様子で答える。

「SHADOWハ役割ヲ果タシタ。オ前カラ少シデモ力ヲ引キ出シタノダカラ」

 藤村は「ペッ」と唾を吐き捨てた後にMOONに告げる。

「暇潰しだなんだと言う割には意外と戦略的じゃねーか。面と向かってかかって来いよ。いくらでも俺の超能力ちからを見せてやるよ。嫌になるほどな」

 藤村の身体から膨大な量のサイクスが溢れ出す。

「ソモソモ我々ノ目的自体ガ暇潰シダ。コノ退屈シタ世界ヲ打破スル。ソノ過程ヲ楽シンデイル。ソノ過程ニオ前ガイル。SHADOWモ楽シンダサ」

 SHADOWの死体が首を下に向けたまま独りでに両手が動き、衣服ごと胸を引き裂く。血が滴る心臓を取り出し、そのまま両手ですり潰す。
 零れ落ちた血が地面には触れずにSHADOWの足先から身体全体を包み込み、そのままSHADOWの死体が姿を消す。

 役割を終えた"お目付け役パロディ"の身体が透明になり徐々に消えていく。その間に"お目付け役パロディ"は藤村に告げる。

「藤村洸哉。貴様ノ相手ハイズレコノ第1音・MOONガ相手スル。ソノ時ガ貴様ノ最期ダ」

 MOONの言葉に対して藤村が返答する。

「上等じゃねーか。何ならこれからでも良いんだぜ?」

 "お目付け役パロディ"は藤村の言葉に反応を示さずそのまま身体が透き通っていき、やがて完全に姿を消した。

「("次元開通弾ディメンション・ドア"を6発以上使っちまったからD–1、D–2ビルに繋げてた分が無くなっちまったな。ここからだとD–2ビルまで少し距離があるな。まぁ瀧なら大丈夫か)」

 藤村は新たに煙草に火を点けてD–2ビルへと向かう。

#####

––––"俺の血となり肉となれマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン"!!

––––"血と汗の結晶レッド・ドラゴン"!!

 GOLEMと瀧が圧倒的なサイクスを纏って互いの肉体がうねりを上げながら衝突する。

「(床がたないな……!)」

 2人を中心にD–2ビルの床が凹み、クレーターを作り出していた。

「(徳田は上で連絡を取り合ってるな。上階を中心に突然現れた数名の連中はDEEDの残党か……? 実力的には大したことねー。SHADOWから匿われていた連中が何らかの理由で弾き出された。十中八九、課長が原因……!)」

 瀧は一瞬ニヤリと笑う。

 瀧はGOLEMとの戦闘中に"第六感シックス"を使用して建物全体の状況をある程度把握していた。

「シッ……!」

 瀧は若干サイクスの出力を上げてGOLEMの下顎に右拳を直撃させてぐらつかせることに成功する。

「今のは効いたぞ」

––––ヒュオッ 

 GOLEMはそう言うと瀧の腹部を殴り付けて瀧は吹き飛ばされる。

「丈夫だな」

 吹き飛ばされた先で何なく立ち上がる瀧を見てGOLEMは瀧に告げる。

「それが取り柄なもんでね」

 瀧はそう言うと拳を構える。

「(これ以上、出力上げると建物自体が壊れかねんな。さてとどうしたものか……)」

 瀧はそう思考しながら再び"血と汗の結晶レッド・ドラゴン"でGOLEMに応戦し始めた。



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