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番外編②後編 - GOLEM / SHADOW編

番外編②-10 – 刃

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「葉山委員長」

 合同捜査会議を終えて参加していた捜査官たちが次々と退室していく中、杉本が葉山順也に話しかける。

「お久しぶりです、杉本さん!」

 葉山は自身に声をかけた相手が杉本だと気付くとにこやかな表情で杉本に返答する。2人は以前から知り合いで時折、食事を共にしたり、チェスや将棋、囲碁を打ったりしながら雑談する仲である。

「お久しぶりです。ご挨拶をと思いまして」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます」

 葉山は杉本に対して丁寧に礼を言った後に会釈する。

「葉山委員長は今回の件、どうお考えになられますか?」

 杉本は葉山に対して今回の合同捜査会議、そしてそこで定められた捜査方針についての意見を求める。

「まず、新興組織でありながらなかなかその所在を掴めていなかったDEEDによる麻薬オークションの制圧、素晴らしかったですね。これも組織犯罪対策部の皆さんの日々の努力の賜物ですね。残党の確保も時間の問題でしょう」

 葉山はまず組織犯罪対策部の功績を称える。その後、杉本が聞きたいであろう十二音がDEEDに関連していたことについての私見を述べ始める。

「今回、十二音が絡んでいることが明らかとなったことは大きいですね。十二音も神出鬼没な危険集団。彼らが絡んでいたとなるとDEEDの尻尾を掴みきれていなかったことに納得いきます。それを明らかにした杉本さん、流石の一言です」
「どうもありがとう」

 葉山の称賛に対して杉本は感謝の意を表明する。

「さて、SHADOW、GOLEMという2人の超能力、特にSHADOWの超能力は特殊ですので概要が分かったのは大きいですね。GOLEMに関しては4年前の資料で大体予想できていましたが、それに血液が必要なのではないのかというアプローチは面白いと思います。実際僕も同じ考えですから」

 葉山はここで1度言葉を切って先ほどまで藤村が着席していた机の方に目をやりながら話を再開する。

「さて、藤村課長のお考え……GOLEMは教育関係、子供たちに関連する職に就いているのではないかという推測、これは非常に興味深いものです。この考え方は今回だけでなくこれからの十二音の捜査における指針になるでしょう」
「僕も考えが浅はかでした。JOKERやJESTERの動きにばかり着目していて彼らが日常に潜り込んででいる可能性を排除していました」
「確かにGOLEM含めて数名は4年前以来、姿を現していない者もいますからね」

 葉山はここで「フム」と口を覆いながら考え込む。

「しかし、不思議なものですね」
「どうされました?」

 杉本は葉山が疑問に思っている様子を見て素直に尋ねる。

「いえ、4年前の襲撃といい、違う者とはいえ同じメンバーのJOKERとJESTERの好戦的な性格や簡単に素顔を晒すところからあまり考えがないものとばかり思っていました。血も涙もない集団だとばかり……」
「僕もそれは感じましたね」
「闇雲に捜索してもこれまで変わらないということでこの線で1度洗ってみるというのは僕も賛成です。僕が今言ったように彼らの残虐性と合致しないという考えの方々の意向も考慮して期間を限定するという判断も冷静で素晴らしいですね、藤村課長」
「僕も同感です」

 杉本は葉山に同意した後に何かを考え込む素振りを見せて彼が抱く違和感を話し始める。

「しかし、僕は他に何かあるのではないかと思うのです」

 葉山は興味深そうに杉本に「と言うと?」と尋ねる。

「何かが引っ掛かるのです。先ほど藤村課長からお話があったと思いますが、血液を採取するなら一般人からで良かったと思うのです」
「それでは目立ってしまうからでは?」
「確かに。しかし、血の採取くらいならば殺す必要がないのですよ。気絶させて採取するで良いはず。まぁ、仮面を着けた者たち、すなわち十二音の関与を証言されるのを避けるために殺すのであらば……SHADOWの存在があるのですよ」

「(へぇ……)」

 杉本の一言を聞いて葉山は表情を崩さないまま脳内で杉本に対する警戒心を高める。

「SHADOWは自身の影を利用して別の空間へと移動させることができる。ということは死体を隠せば良い」
「しかし、彼の超能力は部屋を移動させるものなのでは?」

 葉山は疑問を呈した後に「あっ」と何かに気付いたように付け加える。

「そうか、人を別空間に飛ばせる可能性もあるのですね」
「その通りです。しかし、その力が無くても可能なのですよ、僕の考えでは」
「杉本さんのお考えをお聞きしても?」
「勿論です。これまでDEEDの建設した『D–3』の地下4階のオークション会場、建設されてからの今の今まで数年間、存在を知られていなかったのです。このことからSHADOWは一度飛ばす部屋を指定してしまえば時間の制約は無いと考えています」
「ですが、飛ばせる部屋の数に制限があることは考慮しないといけませんよね」

 杉本は「確かに」と葉山の意見に頷く。

「そしてこれは更に僕の推測……いや妄想となってしまうのですが……。やりようはいくらでもあるはずなのにDEEDをわざわざ利用するなどあまりにも警戒している気がするのです」

 杉本は少し声を潜めて話を続ける。

「残留サイクスの警戒から来ているのではないかと」

 葉山は笑いながら杉本に告げる。

「しかし、今の科学捜査の技術では超能力のタイプを判別するのに最低でも1ヶ月以上を要します。その期間でどうとでもできますよ。そのサイクスを個人まで特定できるのならまだしも」

 葉山の意見に対しても杉本は険しい表情を浮かべたままである。

「そのどちらも可能な方がいるんですよ」
「……」

 杉本は葉山が黙っているのを見てその名を告げる。

「月島愛香さんの妹、月島瑞希さんです。彼女はサイクスの型を判別できるだけでなく、個人の特定まで可能とするそうです」
「しかし、そんな偶然有り得ます?」
「えぇ、普通は有り得ません。しかし、それが有り得る環境にGOLEMがいるのだとしたら?」

 2人の間に沈黙が流れる。

「すみません、僕の妄想に付き合わせてしまって」
「……いえ。少し飛躍しているように僕には感じますが、面白い考察だと思います。様々な可能性を考慮することは大事ですから」

 葉山は時計を見て少し焦ったように杉本に別れを告げる。

「申し訳ありません。明日のTRACKERS設立に関する打ち合わせ準備や貯まった事務作業があるのでそろそろおいとまさせて頂きます」
「これはこれはお忙しいところ時間を取ってしまって申し訳ございません。それにもう夜遅いですからね」
「いえいえ、杉本さんとのお喋りはいつも楽しくてついつい時間を忘れてしまいますね。また時間を作ってお話したいです」
「そう言って頂くとありがたいものです。こんな偏屈者を相手して下さる方はなかなかいないもので…….。是非またお話しましょう」
「えぇ。それでは失礼します」

 葉山は丁寧に会釈した後にその場を離れる。

「(面倒な存在か…… ?)」

 葉山は歩きながら杉本の話を脳内で繰り返す。

「(下手すれば内部への疑いに辿り着くかもしれないな……使うか……?)」

 葉山の身体から若干のサイクスが滲み出る。その後、フッと笑った後にサイクスを引っ込ませる。

「(非超能力者の刃に警戒することになるとは……。面白い人材はまだまだいますね。8月からある管理委員会で探してみるのも良いかもしれません)」

 その後、葉山は口元に手を当てて思考する。

「(GOLEMさんの行動は予想の範囲内ですが少し警戒心に欠ける浅はかなものでしたね。良い機会です。警察組織の捜査能力とその戦力……特に藤村課長の実力を見極められるかもしれません。面白くなりそうですね)」

 葉山はいつもの和かな笑みを浮かべながら車へと乗り込んだ。



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