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追う者、追われる者編
第131話 - 開花
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固有の超能力はそれぞれの超能力者の性格や生まれ育った環境が大きく影響する。そしてサイクスは感情に密接に関連する。
MT–72が生まれ育った閉塞的な環境は彼の感情に彩りを失くし、変わり映えのない、刺激の少ない生活に終始した。彼の『超能力を得たい』という思いをサイクスは義務感として捉え、その期待に応えることをしなかった。
「外はなんて広いんだ……!」
研究施設以外の環境を知ったことが彼に色を与えた。
樹海エリアに生息する動物たちがMT–72の周りに集まる。ギフテッドの巨大な熊が彼に話しかける。
「お前は私の声が聞こえるのか?」
「うん、分かるよ」
「面白い奴だな」
時間が経つにつれてMT–72は他の動物たちとも話すことができるようになった。
「(僕の超能力は、動物たちと話せることなんだ……!)」
MT–72は自身が手にした超能力を『動物と話せること』であるとその時は理解した。
––––否
MT–72は東京都第10地区・樹海エリアで様々な動物たちと触れ合い、そこでの生活を楽しんだ。第10地区にある住宅街エリアにも行かず、野生動物と自然の中が今度の彼の世界となった。
––––結局、死ぬ前と同じじゃないか、MT–72
2年の歳月が経った時、MTー72の中の青いサイクスが彼に話しかける。
「(生活の中心が研究施設から樹海の中へと移っただけ……)」
MT–72は施設を抜け出してからも第10地区の一部の区域でしか生活していない自分に気付いた。彼のその時の望みは外の世界を知ること。彼はまず第10地区から出ることを目的に据え、野生動物たちに協力を求めた。
「君との生活は楽しかったのに」
小さなリスがMT–72に少し掠れた声で言った。他の動物たちも涙を堪え切れずにMT–72を引き留めようと試みた。しかし、彼の固い決意を知った動物たちは彼を快く送り出すことを決めた。
動物たちは第10地区に住む人々の民家から食べ物や衣服を盗み出し、MT–72に与え、旅立ちのための準備に協力した。
そしてMT–72は齢15にして東京都第10地区から外の世界へと足を踏み入れた。
MT–72が去った後、第10地区・樹海エリアでは多数のギフテッドの野生動物が観測され、国内のみに留まらず世界各国の研究者たちが集まるようになった。
しかし、ここに生息する動物たちは他区域よりも異常に知能が優れており、捕獲することは困難を極めた。10年以上もの間、この地域で捕獲されて研究された野生動物はごく僅かである。この謎は未だ専門家の間でも意見が分かれており結論は出ていない。
「人が沢山だ!」
MT–72は第9地区へと足を踏み入れた。そこで彼が最初に抱いた感情は第10地区とは比べものにならないほどの人の多さである。
彼はまず『動物と話す』力を使って野良猫と話そうと試みた。しかし、野良猫は全く反応を示さなかった。
「(超能力が使えなくなった……?)」
––––あぁ~怠い~
突如としてMT–72に自分のサイクスとは違う声が聞こえるようになる。その声の数は無数に存在し、彼を大きく動揺させた。
MT–72は路地裏へ行き、頭を押さえながらうずくまる。
––––心配する必要はないぞ、MT–72
例のごとく彼の中のサイクスの1つ、黒いサイクスが話しかける。それに続いて紫色のサイクスが話しかける。
––––あなたは私たちだけじゃなくて全てのサイクスの声と対話できるのよ
MT–72は閉塞された環境においてサイクスとの触れ合いが多く、研究施設という特性上、常にサイクスのことを考えていた。更に思念となって彼の中のサイクスがサイクスを媒介として肉体を生成したことによってサイクスとの対話が可能となった。
緑のサイクスがMT–72に告げる。
––––君はサイクスと対話ができる唯一の人物なんだよ
第10地区・樹海エリアにおいて動物たちと会話ができた理由はギフテッドのサイクスを通したことで成し得た。そして彼に直接触れることでサイクスを持たない者たちはサイクスが発現される。それによって第10地区の野生生物の殆どはギフテッドとなった。
黒いサイクスが力のこもった声で告げる。
––––お前はサイクスの真理に近付ける唯一無二の存在だ
数日後、彼は異変に気付く。
MT–72の背中から黒い大きな翼が生える。
––––開花したね
赤いサイクスが呟く。
「開花?」
サイクスと会話することができるMT–72の力は彼の特異体質であり、彼の超能力は別にある。
固有の超能力を発現するに当たってその超能力者の環境や性格が大きな影響を与えることは一般的に知られているが、その条件から大きく外れた固有の超能力が発現することも多々ある。
MT–72はサイクスの意思に耳を傾けることでその人物に最も適した超能力を知ることができて、まだ固有の超能力を持たない者がサイクスの意思に則した超能力を発現した場合、その超能力は自動的にMT–72も使用することが可能となる。
また、サイクスの意思とは異なる超能力を発現、または既に持っている場合、MT–72によってその固有の超能力を奪い取ることが可能となる。
MT–72が蒔いた種が次々と発芽し、彼は多くの超能力を手にした。
「(俺の名前はなんて言うんだ?)」
ある時、MT–72は自身の名に興味を抱いた。それまで多くの超能力を駆使して至る所へと潜伏し、その度に名を変えた。
彼は自分の両親の行方を探った。
MT–72が生まれ育った閉塞的な環境は彼の感情に彩りを失くし、変わり映えのない、刺激の少ない生活に終始した。彼の『超能力を得たい』という思いをサイクスは義務感として捉え、その期待に応えることをしなかった。
「外はなんて広いんだ……!」
研究施設以外の環境を知ったことが彼に色を与えた。
樹海エリアに生息する動物たちがMT–72の周りに集まる。ギフテッドの巨大な熊が彼に話しかける。
「お前は私の声が聞こえるのか?」
「うん、分かるよ」
「面白い奴だな」
時間が経つにつれてMT–72は他の動物たちとも話すことができるようになった。
「(僕の超能力は、動物たちと話せることなんだ……!)」
MT–72は自身が手にした超能力を『動物と話せること』であるとその時は理解した。
––––否
MT–72は東京都第10地区・樹海エリアで様々な動物たちと触れ合い、そこでの生活を楽しんだ。第10地区にある住宅街エリアにも行かず、野生動物と自然の中が今度の彼の世界となった。
––––結局、死ぬ前と同じじゃないか、MT–72
2年の歳月が経った時、MTー72の中の青いサイクスが彼に話しかける。
「(生活の中心が研究施設から樹海の中へと移っただけ……)」
MT–72は施設を抜け出してからも第10地区の一部の区域でしか生活していない自分に気付いた。彼のその時の望みは外の世界を知ること。彼はまず第10地区から出ることを目的に据え、野生動物たちに協力を求めた。
「君との生活は楽しかったのに」
小さなリスがMT–72に少し掠れた声で言った。他の動物たちも涙を堪え切れずにMT–72を引き留めようと試みた。しかし、彼の固い決意を知った動物たちは彼を快く送り出すことを決めた。
動物たちは第10地区に住む人々の民家から食べ物や衣服を盗み出し、MT–72に与え、旅立ちのための準備に協力した。
そしてMT–72は齢15にして東京都第10地区から外の世界へと足を踏み入れた。
MT–72が去った後、第10地区・樹海エリアでは多数のギフテッドの野生動物が観測され、国内のみに留まらず世界各国の研究者たちが集まるようになった。
しかし、ここに生息する動物たちは他区域よりも異常に知能が優れており、捕獲することは困難を極めた。10年以上もの間、この地域で捕獲されて研究された野生動物はごく僅かである。この謎は未だ専門家の間でも意見が分かれており結論は出ていない。
「人が沢山だ!」
MT–72は第9地区へと足を踏み入れた。そこで彼が最初に抱いた感情は第10地区とは比べものにならないほどの人の多さである。
彼はまず『動物と話す』力を使って野良猫と話そうと試みた。しかし、野良猫は全く反応を示さなかった。
「(超能力が使えなくなった……?)」
––––あぁ~怠い~
突如としてMT–72に自分のサイクスとは違う声が聞こえるようになる。その声の数は無数に存在し、彼を大きく動揺させた。
MT–72は路地裏へ行き、頭を押さえながらうずくまる。
––––心配する必要はないぞ、MT–72
例のごとく彼の中のサイクスの1つ、黒いサイクスが話しかける。それに続いて紫色のサイクスが話しかける。
––––あなたは私たちだけじゃなくて全てのサイクスの声と対話できるのよ
MT–72は閉塞された環境においてサイクスとの触れ合いが多く、研究施設という特性上、常にサイクスのことを考えていた。更に思念となって彼の中のサイクスがサイクスを媒介として肉体を生成したことによってサイクスとの対話が可能となった。
緑のサイクスがMT–72に告げる。
––––君はサイクスと対話ができる唯一の人物なんだよ
第10地区・樹海エリアにおいて動物たちと会話ができた理由はギフテッドのサイクスを通したことで成し得た。そして彼に直接触れることでサイクスを持たない者たちはサイクスが発現される。それによって第10地区の野生生物の殆どはギフテッドとなった。
黒いサイクスが力のこもった声で告げる。
––––お前はサイクスの真理に近付ける唯一無二の存在だ
数日後、彼は異変に気付く。
MT–72の背中から黒い大きな翼が生える。
––––開花したね
赤いサイクスが呟く。
「開花?」
サイクスと会話することができるMT–72の力は彼の特異体質であり、彼の超能力は別にある。
固有の超能力を発現するに当たってその超能力者の環境や性格が大きな影響を与えることは一般的に知られているが、その条件から大きく外れた固有の超能力が発現することも多々ある。
MT–72はサイクスの意思に耳を傾けることでその人物に最も適した超能力を知ることができて、まだ固有の超能力を持たない者がサイクスの意思に則した超能力を発現した場合、その超能力は自動的にMT–72も使用することが可能となる。
また、サイクスの意思とは異なる超能力を発現、または既に持っている場合、MT–72によってその固有の超能力を奪い取ることが可能となる。
MT–72が蒔いた種が次々と発芽し、彼は多くの超能力を手にした。
「(俺の名前はなんて言うんだ?)」
ある時、MT–72は自身の名に興味を抱いた。それまで多くの超能力を駆使して至る所へと潜伏し、その度に名を変えた。
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