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追う者、追われる者編
第129話 - 退屈しのぎ
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「さて、話題を松下さんの方へと移しましょうか」
葉山は今しがた内倉に対して行った残虐な行為を何事も無かったかのように流し、次の話題へと移す。他の面々も元仲間である内倉に対して何の感情も無い様子で葉山の方を注目する。
「奴の居場所が分かったのか?」
SHUFFLEが葉山の方を見て微かに上ずった声で尋ねる。
「いえ、正確な居場所は分かっていません。ただ手掛かりがあったようです。順を追って説明してもらいましょうか。BOOKER、お願いできますか?」
BOOKERは軽く頷いた後に話を始める。
「僕は頼まれたように入学以降、MAESTROとの"接続"を使いながら月島瑞希と上野菜々美の監視に入りました。上野曰く、視線には気付いていたようですが、僕とMAESTROの視線が混ざり合ったためか特定までは至らなかった模様です」
「ほう、視線に気付いていたのか」
SHUFFLEが少し感心したように呟く。
「はい、そのようです。因みに前に説明しましたが、上野さんを監視対象に入れたのは月島瑞希さんを覚醒させるために利用しようと考えていたからです。瞳教授は僅か7歳で覚醒維持を引き起こしていましたが、彼女は固有の超能力すら発現していませんでしたので」
「月島瞳ほど強力な超能力者では無いということか」
葉山が説明している途中でJACKが口を挟む。
「BOOKERが日常的に見ていた感想やGOLEMさんからの報告、そして超能力が発現した後だったとはいえ僕がこの間ご自宅へ伺った際にお会いしましたが、あの年齢であのサイクス量は異常です。同じ年齢の時の瞳教授を知らないので何とも言えませんが……。僕は何かに堰き止められている印象を受けました。この辺りの考察はまた機会がある時にでも」
葉山は笑顔でJACKに応対する。葉山はBOOKERの方に合図し、BOOKERは頷いた後に再び話し始める。
「"推測と結果の狭間で"を使用して上野菜々美の標的をGOLEMこと内倉祥一郎から徳田花へと変更。上野が裏で行っていた行為や彼女の月島への感情、徳田へ迫る危機などの要素から月島瑞希に覚醒維持が発現。結果的に当初の目的は達しました」
BOOKERの説明の後、少し間を置いてからSHUFFLEが尋ねる。
「その辺りの話は大体把握している。その話が松下と何の関係があるんだ」
葉山はSHUFFLEの方を向いて話を始める。
「上野さんが自身の超能力の実験と称して一般人を襲っていたのはご存知ですよね? その中でただ1つ、東京第三地区高等学校で発生した3名の遺体への関与を一貫して否認していました」
「だが警察が上野の仕業だって確定していたくらいだ、証拠はあったんだろう?」
JACKが少し馬鹿にしたような声色で尋ねる。
「えぇ。首筋に注射の跡がありました」
「それなら嘘じゃあないの? あの超能力を使えるのってあとは月島って子だけでしょ? 時系列的におかしいじゃん」
DOCが口を挟む。
「そこで先日あったTUPREOでの話になるんですよ」
葉山がチラッとMOONの方を向き、察したMOONは静かに話し始める。
「"お目付け役"ヲ上野ト月島姉ノ面会ニ紛レ込マセテオイタ。彼女ハ松下隆志ハ東京ニイル。ソシテ意外ニ近クニイルト発言シタ」
葉山は「ありがとうございます」と軽く礼を言った後に話を続ける。
「僕は上野さんが関与していないという3つの遺体に彼が関連しているのではないかと考えています」
部屋の中でしばしの沈黙が流れる。
「それこそ証拠が無いんじゃないの?」
QUEENが1分ほどの静寂を破り、葉山に対して意見をぶつける。その後にJACKが別の情報を付け加える。
「それに奴の超能力は他人に超能力を付与するというものとして判断していただろう。何故奴が上野の超能力を使用できる?」
月島夫婦殺害において実行犯として逮捕された男は川田洋。彼は愛香の超能力である"2人でお茶を"によってその痕跡を辿られ、藤村洸哉によって捕らえられている。
川田は非超能力者であったにも関わらず、超能力を使って残虐非道な方法で月島夫婦を殺害している。彼は取り調べにおいて"松下隆志"と名乗る男に教えを受けてサイクスを得たと供述した。
––––その後、獄中にて川田は謎の死を遂げる。
「皆さん、川田さんがどのようにして亡くなったかご存知ですか?」
PUPPETEERは「知ーらない」と答える。
「表向きは自殺ということになってはいますが、川田さん、月島ご夫婦と全く同じ死に方をしたんですよ。つまり手足をもがれてそれらを謎の図形の上に並べられていたんですよ」
「つまりはその川田って人と全く同じ超能力で死んだってことかい?」
JOKERは興味深げに顎をさすりながら葉山に尋ねる。
「はい。実はこの殺害方法、警察内部、政府関係者でも知っている人は限られているんですよ。白井さんが中心となってこの事実を握り潰したので。『人に超能力を与える』。この神にも等しい行為を利用したいんでしょうね。彼は狙ってますよ、松下さんのことを」
ここで葉山は一呼吸入れて話を続ける。
「これらの事から僕は、『彼は他人に超能力を付与し、且つその与えた超能力を利用できる』と推測しています」
「そうなると上野は事前に松下と接触したということになるわね」
それまで黙っていたJESTERが呟く。葉山は「その通り」とJESTERに告げる。
「上野さん、また別件……4年前の件で月島さんたちに自分の日記を見るように告げていたようです。MOONさん、彼女、"お目付け役"さんのこと気付いていたんですよね?」
「アァ。気付イテイタ」
葉山の問いかけに対してMOONは即答する。
「恐らく日記の中にそれに関する情報があるのでしょう。僕らにそれを悟られないように彼女らに日記のことを教えた。そして自ら松下隆志の名を挙げることで僕らが彼女に注目するよう仕向けた。因みに彼女とは"お目付け役"さんを通じて以前から接触をしており、松下隆志の足取りを最優先にしていることを彼女はご存知です」
QUEENが1つの疑問を呈する。
「もしそうだとして上野は警察に協力しようと考えているってこと?」
葉山は少し考えた後に返答する。
「ん~、僕らのように気紛れなのか、"お目付け役"さんに告げたように仕返しなのか……」
葉山は間を空けた後に言葉を続ける。
「瑞希さんへの愛なのか」
その答えに「あら」とQUEENはわざとらしくリアクションする。
「それじゃあ」
DOCが携帯から目を離して突っ伏していた姿勢を戻して話す。
「その日記を奪いに行くってことかな?」
「別に放っといても良いんじゃないですか?」
葉山は即答する。PUPPETEERは少し驚いた様子で「違うの?」と尋ねている。
「僕らも『人々を超能力者にしたい』という目的があります。それで松下さんの足取りを追っていますよね。サイクス遺伝学からのアプローチを考えていますが、それと彼の超能力を組み合わせれば更なる効率性が増しますし」
そして葉山はニッコリと笑って全員に告げる。
「それに月島さんたちと競争するのも楽しいじゃないですか。そんなに急いでる訳でもないので暇潰しになって退屈しなくなりますよ」
それを聞いてJOKERも上機嫌に答える。
「一方的にこちらが有利でも面白くないからねぇ~。それにTRACKERSってのも近く出来るんだろう? 退屈しのぎにはなりそうだ」
葉山は頷いた後に上機嫌に笑った。
#####
––––東京都第3地区
4番駅地下街にて1人の男が人混みの中を歩く。
葉山は今しがた内倉に対して行った残虐な行為を何事も無かったかのように流し、次の話題へと移す。他の面々も元仲間である内倉に対して何の感情も無い様子で葉山の方を注目する。
「奴の居場所が分かったのか?」
SHUFFLEが葉山の方を見て微かに上ずった声で尋ねる。
「いえ、正確な居場所は分かっていません。ただ手掛かりがあったようです。順を追って説明してもらいましょうか。BOOKER、お願いできますか?」
BOOKERは軽く頷いた後に話を始める。
「僕は頼まれたように入学以降、MAESTROとの"接続"を使いながら月島瑞希と上野菜々美の監視に入りました。上野曰く、視線には気付いていたようですが、僕とMAESTROの視線が混ざり合ったためか特定までは至らなかった模様です」
「ほう、視線に気付いていたのか」
SHUFFLEが少し感心したように呟く。
「はい、そのようです。因みに前に説明しましたが、上野さんを監視対象に入れたのは月島瑞希さんを覚醒させるために利用しようと考えていたからです。瞳教授は僅か7歳で覚醒維持を引き起こしていましたが、彼女は固有の超能力すら発現していませんでしたので」
「月島瞳ほど強力な超能力者では無いということか」
葉山が説明している途中でJACKが口を挟む。
「BOOKERが日常的に見ていた感想やGOLEMさんからの報告、そして超能力が発現した後だったとはいえ僕がこの間ご自宅へ伺った際にお会いしましたが、あの年齢であのサイクス量は異常です。同じ年齢の時の瞳教授を知らないので何とも言えませんが……。僕は何かに堰き止められている印象を受けました。この辺りの考察はまた機会がある時にでも」
葉山は笑顔でJACKに応対する。葉山はBOOKERの方に合図し、BOOKERは頷いた後に再び話し始める。
「"推測と結果の狭間で"を使用して上野菜々美の標的をGOLEMこと内倉祥一郎から徳田花へと変更。上野が裏で行っていた行為や彼女の月島への感情、徳田へ迫る危機などの要素から月島瑞希に覚醒維持が発現。結果的に当初の目的は達しました」
BOOKERの説明の後、少し間を置いてからSHUFFLEが尋ねる。
「その辺りの話は大体把握している。その話が松下と何の関係があるんだ」
葉山はSHUFFLEの方を向いて話を始める。
「上野さんが自身の超能力の実験と称して一般人を襲っていたのはご存知ですよね? その中でただ1つ、東京第三地区高等学校で発生した3名の遺体への関与を一貫して否認していました」
「だが警察が上野の仕業だって確定していたくらいだ、証拠はあったんだろう?」
JACKが少し馬鹿にしたような声色で尋ねる。
「えぇ。首筋に注射の跡がありました」
「それなら嘘じゃあないの? あの超能力を使えるのってあとは月島って子だけでしょ? 時系列的におかしいじゃん」
DOCが口を挟む。
「そこで先日あったTUPREOでの話になるんですよ」
葉山がチラッとMOONの方を向き、察したMOONは静かに話し始める。
「"お目付け役"ヲ上野ト月島姉ノ面会ニ紛レ込マセテオイタ。彼女ハ松下隆志ハ東京ニイル。ソシテ意外ニ近クニイルト発言シタ」
葉山は「ありがとうございます」と軽く礼を言った後に話を続ける。
「僕は上野さんが関与していないという3つの遺体に彼が関連しているのではないかと考えています」
部屋の中でしばしの沈黙が流れる。
「それこそ証拠が無いんじゃないの?」
QUEENが1分ほどの静寂を破り、葉山に対して意見をぶつける。その後にJACKが別の情報を付け加える。
「それに奴の超能力は他人に超能力を付与するというものとして判断していただろう。何故奴が上野の超能力を使用できる?」
月島夫婦殺害において実行犯として逮捕された男は川田洋。彼は愛香の超能力である"2人でお茶を"によってその痕跡を辿られ、藤村洸哉によって捕らえられている。
川田は非超能力者であったにも関わらず、超能力を使って残虐非道な方法で月島夫婦を殺害している。彼は取り調べにおいて"松下隆志"と名乗る男に教えを受けてサイクスを得たと供述した。
––––その後、獄中にて川田は謎の死を遂げる。
「皆さん、川田さんがどのようにして亡くなったかご存知ですか?」
PUPPETEERは「知ーらない」と答える。
「表向きは自殺ということになってはいますが、川田さん、月島ご夫婦と全く同じ死に方をしたんですよ。つまり手足をもがれてそれらを謎の図形の上に並べられていたんですよ」
「つまりはその川田って人と全く同じ超能力で死んだってことかい?」
JOKERは興味深げに顎をさすりながら葉山に尋ねる。
「はい。実はこの殺害方法、警察内部、政府関係者でも知っている人は限られているんですよ。白井さんが中心となってこの事実を握り潰したので。『人に超能力を与える』。この神にも等しい行為を利用したいんでしょうね。彼は狙ってますよ、松下さんのことを」
ここで葉山は一呼吸入れて話を続ける。
「これらの事から僕は、『彼は他人に超能力を付与し、且つその与えた超能力を利用できる』と推測しています」
「そうなると上野は事前に松下と接触したということになるわね」
それまで黙っていたJESTERが呟く。葉山は「その通り」とJESTERに告げる。
「上野さん、また別件……4年前の件で月島さんたちに自分の日記を見るように告げていたようです。MOONさん、彼女、"お目付け役"さんのこと気付いていたんですよね?」
「アァ。気付イテイタ」
葉山の問いかけに対してMOONは即答する。
「恐らく日記の中にそれに関する情報があるのでしょう。僕らにそれを悟られないように彼女らに日記のことを教えた。そして自ら松下隆志の名を挙げることで僕らが彼女に注目するよう仕向けた。因みに彼女とは"お目付け役"さんを通じて以前から接触をしており、松下隆志の足取りを最優先にしていることを彼女はご存知です」
QUEENが1つの疑問を呈する。
「もしそうだとして上野は警察に協力しようと考えているってこと?」
葉山は少し考えた後に返答する。
「ん~、僕らのように気紛れなのか、"お目付け役"さんに告げたように仕返しなのか……」
葉山は間を空けた後に言葉を続ける。
「瑞希さんへの愛なのか」
その答えに「あら」とQUEENはわざとらしくリアクションする。
「それじゃあ」
DOCが携帯から目を離して突っ伏していた姿勢を戻して話す。
「その日記を奪いに行くってことかな?」
「別に放っといても良いんじゃないですか?」
葉山は即答する。PUPPETEERは少し驚いた様子で「違うの?」と尋ねている。
「僕らも『人々を超能力者にしたい』という目的があります。それで松下さんの足取りを追っていますよね。サイクス遺伝学からのアプローチを考えていますが、それと彼の超能力を組み合わせれば更なる効率性が増しますし」
そして葉山はニッコリと笑って全員に告げる。
「それに月島さんたちと競争するのも楽しいじゃないですか。そんなに急いでる訳でもないので暇潰しになって退屈しなくなりますよ」
それを聞いてJOKERも上機嫌に答える。
「一方的にこちらが有利でも面白くないからねぇ~。それにTRACKERSってのも近く出来るんだろう? 退屈しのぎにはなりそうだ」
葉山は頷いた後に上機嫌に笑った。
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