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白銀の死神編

第108話 - 挑発

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「失敬だなぁ。盛大に、派手にお出迎えしたのに」

 JOKERは両手を広げながら仁に話しかける。
 
 那由他ビルの屋上は鹿鳴那由他の死体を初め、鹿鳴組59名の死体が横たわっており、その血が整備されたコンクリートを赤黒く染め上げる。足場はほぼ血で埋めつくされて、白色のコンクリートは所どころ剥き出しになっているだけである。そのため、歩を進めるとその度にネチャッと気持ちの悪い音が響く。

 JOKERはその音を楽しそうに鳴らし、愉快に遊ぶ。それとは対照的に仁は不愉快そうにその様子を眺め、鈴村は革靴に血が付くことを不快そうにしながらじっとJOKERとPUPPETEERを睨み、柳は腕を組んで直立して微動だにしない。

「そこらに転がっとるのは社会のクズ共に間違いはないが……。少々やり過ぎじゃな。不愉快極まりない」

 その言葉を聞いてJOKERはクククと声に出して笑い、PUPPETEERは頷きながら話す。

「そうだよ、JOKER。身体のパーツバラバラにしちゃってさーぁ」
「え~、キミあっち側なの? キミの場合、ありがたいでしょう? 使える玩具増えてるんだからさぁ」
「JESTERは良いさ。俺の場合は欠陥品だと扱い難いんだよ。出来れば何人か生かしてて欲しかったんだけど」
「アハハ。確かに」

 JOKERとPUPPETEERまるで2人しかその場にいないかのように楽しそうに会話を繰り広げる。
 その隙に鈴村は地面に手を触れて"点検者インスペクター"を発動し、那由他ビルの構造を読み取りつつ、ビル内の状況を把握する。

「(……このビル内の生き残りはゼロか。女、子供も全員を殺している……。血も涙も無い奴らめ)」

 鈴村は頭の中でJOKERとPUPPETEERを毒づく。

「そろそろワシらの相手もしてくれんかのぉ」

 仁はゆっくりと2人に声をかける。

「あぁ~、ゴメン、ゴメン。お爺ちゃんでしょ? ボクの"第六感シックス"の邪魔してたの。下手に彼女の気を引きたくなかったから引き下がってあげてたのにわざわざ来るなんて……」

 JOKERは少し間を置いて軽く息を吸い、サイクスに若干の敵意を込めて言葉を続ける。

「死にたいの?」

 JOKERがサイクスに込めた殺意は本人にとってほんの僅かなものであったが、その激しい自然科学型サイクスは鈴村と柳を一瞬にして警戒態勢に移行させるのに十分なものとなった。

「(へぇ……)」

 一方でJOKERのサイクスを目の当たりにしても顔色一つ変えずに動じない仁にPUPPETEERは感心する。

「ワシは吉塚仁という者じゃが……」

 仁は周囲の惨状を一通り見渡した後にJOKERとPUPEETEERを真っ直ぐに見据え、静かにサイクスを発する。
 そのサイクスはJOKERの激しさと禍々まがまがしさを孕んだ自然科学型サイクスとは違い、真夜中の閑散とした樹海を思わせるほどに静かで滑らかに流れ、そのまま能古島の美しい自然に溶け込んでいく。

「ワシのォ……4年前に娘夫婦を亡くしたんじゃ。そしてお主の言う"彼女"とは十中八九みずのことじゃろ? 可愛い孫まで亡くすわけにはいかんのじゃよ」

 仁のサイクスはそのまま静かに広がり、やがてJOKERのサイクスと衝突する。

 明らかに質の違う2つの自然科学型サイクスが共鳴し、お互いの力量を確かめ合う。仁は表情を崩さないまま静かにJOKERを見つめ、JOKERは興奮を隠しきれない様子でゾクゾクッと身体を震わせる。

「なるほど、なるほど。瑞希ちゃんのお祖父ちゃんか」

 その言葉を聞いて仁は腑に落ちない表情を浮かべてJOKERに尋ねる。

「コンテナターミナルにおった仮面の若い女子おなごもお主らの仲間じゃろ? 情報共有適当じゃの」

 笑いながらJOKERが返答する。

「ククク、自由行動がモットーなんだよね、ボクたち」
「その通り」

 PUPPETEERの周りに黒いサイクスのドームが広がり黒い渦の中からJESTERが現れ、会話に加わる。

「あっ! あのお爺ちゃん、瑞希ちゃんのお祖父ちゃんよ」
「知ってる」

 JESTERは自分たちを静観している仁、鈴村、柳の3人に向かって右手を挙げて「やっほー」と友人にしているかのように馴れ馴れしく挨拶をする。

「ねぇ、仁さん」

 JOKERは仁に向かって話しかける。

「ボクらがやってること、仁さんにとっても悪い話じゃあないんだよ?」

 仁が無言でいることを確認してJOKERが言葉を続ける。

「その亡くした娘さんとまた会えるかもしれないんだよ?」

 仁の眉間にしわが寄ったのを愉快に見ながらJOKERは続ける。

「キミら家族全員がサイクスをなるべく使わないようにしていたり、姉妹だけになった時に側にいてあげなかったりしたのも全部警戒していたんだろう? 彼女たちの中にあるであろうサイクスが共鳴しないように」

 仁はJOKERの言葉を聞いてゆっくりと目を閉じて何かを考え始める。

 柳と鈴村は相対あいたいするJOKER、JESTER、PUPPETEERの3人がその隙を突いて攻撃を仕掛けてくることを警戒して目を離さないようにじっと見つめる。
 その様子に気付いたJOKERは笑顔で手を振りながら自分たちにその意思が無いことを表明する。

 仁は目を開いて目線を下からゆっくりと上げ、JOKERを見る。

「その話を知っている者はごく僅かなはずなんじゃがなぁ……。まぁ良い。それよりも……」

 仁は一度言葉を切って語気を強めて尋ねる。

「その場合、みずはどうなる?」

 その問いに対して JOKERは少しだけ笑い、挑発に満ちた声色で仁に告げる。

「1度で2度美味しい的な?」
「下衆が」

 仁はそこで初めて自身のサイクスに明確な敵意を込める。その瞬間、周囲の木々がザワめき立ち、野生動物がその異様さを察知して一斉に走り出す。

 JOKERはその様子を見て興奮した様子でサイクスを放出し、歯を剥き出しにしたその不気味に満ちたマスクは緑色のサイクスと相まって怪しく輝いた。



 
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