55 / 172
夏休み前編 (超能力者管理委員会編)
第54話 - 石野亮太
しおりを挟む
「さぁ~陣取り合戦はどうなりますかねぇ~」
葉山は楽しそうに呟く。
「お前が言ってることは……」
江藤が口を開く。
「日本国内で超能力者を利用して政党同士で紛争、いや下手したら党内でも争いが起こるぞ……」
葉山は持っている紅茶のペットボトルを眺めながら答える。
「んー、それを止めるために僕たちがいるんじゃあないですか」
その様子を江藤は見ながら葉山に尋ねる。
「お前は……一体何を考えているんだ? 何を最終地点に置いてこの委員会を見ているんだ?」
葉山は持っていたペットボトルを置き、江藤を真っ直ぐに見据える。
その目を見た江藤は一瞬怯む。それまで葉山は余裕の笑みを見せていた。それは今でも変わらない。が、これまでと違いその瞳には光がなく、より一層この男の得体の知れなさに拍車がかかる。
「僕は日本国民の皆さんが安心して暮らせるように尽力することを考えているだけですよ? 江藤さんもそうでしょ?」
依然として目は笑っていない。
「まぁ……な」
そう答えざるを得ない。
「(こいつ……何か考えてやがるな……サイクスを発していないのに何つープレッシャーだ)」
葉山順也の評価は所属する日月党でも分かれている。冷静な判断力、狡猾さ、求心力……政治家に必要な能力を備えており若者を始め世論からの支持も高い。
しかし、余りにも彼の戦略通りに物事が進むために何か超能力を使っているのではないかとか、暗躍しているのではないか、と言った憶測が党内外で流れている。
「さて、僕ももう行きますかね」
葉山がおもむろに立ち上がる。
「どこへ行くんだ?」
江藤はそう尋ね、葉山はにこやかに答えた。
「んー、色々と問題が山積みで。その処理です」
そう言い残し、葉山は出口へと去って行った。
#####
「それで石野くんはどう考える?」
日本光明党代表野村 快斗が石野亮太に尋ねる。
「まず日本を各地区に分けそれぞれ"TRACKERS"を設置、さらにその地域ごとに管理委員会を設置しコントロールするといった話になりました。ただ……」
「ただ?」
「東京を含む地域には日陽党の白井議員、日月党の葉山委員長が残って業務をこなすことになりそうです」
「他の党は?」
「とりあえずこれに賛同しましたが各党にこれを持ち帰り、政党のパワーバランスについての思惑が飛び交うでしょう」
野村はため息をつく。
日光党は近年超能力者の数が増加し、それに伴う犯罪の凶悪化を重く受け止めており、"TRACKERS"について政党の垣根を超えて協力すべきだという立場を取っている。
日陽党政権が崩れた今、明らかに各政党は超能力者が関わる案件について少しでも有利な立場になろうと躍起になっている。その状況をこの組織に持ち込んでは本来の目的が損なわれてしまうと野村代表を初めとして党全体で懸念しているのだ。
「これはあくまで私の推測ですが……」
石野が続ける。
「葉山委員長が白井議員の要望を簡単に飲んだのはこのことを敢えて各党に持ち帰らせて東京を含む地区の管理には各政党から少なくとも1名を派遣させるという提案をさせるためではないかと」
「ほう……」
「それで勢力を均衡させる狙いでしょう。そしてそれを受け入れれば日月党は他の政党の意見も積極的に取り入れるという世論へのアピールにもなります」
「(凄いな……)」
石野と同じく日光党から管理委員として派遣されている曽ヶ端 莉子が隣で素直に感心する。
日光党は超能力者と非超能力者の真の共生をマニフェストとして掲げており、超能力者と非超能力者の割合はほぼ同数である。管理委員会にも超能力者 (曽ヶ端)と非超能力者 (石野)をそれぞれ派遣している。
「(石野くんは周りに超能力者が多い中でも冷静に状況を分析している。葉山委員長といい、最近の若い議員は肝が据わってるわね)」
野村が石野に尋ねる。
「石野くん、君から見て葉山委員長はどう映る?」
少し考え込んだ後に石野が答えた。
「今のところ葉山委員長は各政党の考えを尊重しつつ落とし所を上手く見つけている印象です。これまでの日陽党の独占を抑制するためにもこの均衡を作ろうという意図も理解できます。ただ……」
「ただ?」
「得体の知れなさは感じます。私はサイクスを持たない非超能力者ですのでこの感覚はよく分からないのですが……」
「ふむ。曽ヶ端くんはどう思う?」
「私も石野議員と同意見です。今のところ彼は淡々と仕事をこなしています」
野村は2人の意見を聞いた後に微かに頷き口を開いた。
「ただの勢いだけの若手というわけではないわけだな……。うむ、2人ともしばらくは葉山委員長に従いつつ都度、我が党の方針を表明してくれ。同時に葉山委員長に感じるという得体の知れなさには気を付けたまえ。それから東京地区への派遣についてだが……」
間髪入れずに曽ヶ端が答える。
「私は石野議員を推します」
少し驚いたような表情をした石野を他所に曽ヶ端は続ける。
「彼は冷静な状況判断力があります。また、非超能力者の観点からの意見も物怖じせずに主張できるでしょう。恐らく党の特性から国民自由党が非超能力者を派遣すると思いますが、石野議員が加われば非超能力者は少なくとも2人にはなります。これは希望的観測ですが、葉山委員長と年齢が近いことからも彼の真意を探りやすいかも知れません」
「石野くん、頼めるかね?」
「承知いたしました。我が党の理念を持って務めさせて頂きます」
石野の目には強い意志が込められていた。
その様子から野村も曽ヶ端も安堵すると同時に力強く頷いた。
#####
翌週に行われた超能力者管理委員会では葉山の思惑通り"TRACKERS"は北海道地方・東北地方・関東地方・中部地方・近畿地方・中国/四国地方・九州地方の7地方に設置され、それぞれの地方に超能力管理委員会が置かれることとなった。また、関東超能力者管理委員会は統括機関としての役割も果たし各政党1名ずつで構成されることが決定された。
葉山は楽しそうに呟く。
「お前が言ってることは……」
江藤が口を開く。
「日本国内で超能力者を利用して政党同士で紛争、いや下手したら党内でも争いが起こるぞ……」
葉山は持っている紅茶のペットボトルを眺めながら答える。
「んー、それを止めるために僕たちがいるんじゃあないですか」
その様子を江藤は見ながら葉山に尋ねる。
「お前は……一体何を考えているんだ? 何を最終地点に置いてこの委員会を見ているんだ?」
葉山は持っていたペットボトルを置き、江藤を真っ直ぐに見据える。
その目を見た江藤は一瞬怯む。それまで葉山は余裕の笑みを見せていた。それは今でも変わらない。が、これまでと違いその瞳には光がなく、より一層この男の得体の知れなさに拍車がかかる。
「僕は日本国民の皆さんが安心して暮らせるように尽力することを考えているだけですよ? 江藤さんもそうでしょ?」
依然として目は笑っていない。
「まぁ……な」
そう答えざるを得ない。
「(こいつ……何か考えてやがるな……サイクスを発していないのに何つープレッシャーだ)」
葉山順也の評価は所属する日月党でも分かれている。冷静な判断力、狡猾さ、求心力……政治家に必要な能力を備えており若者を始め世論からの支持も高い。
しかし、余りにも彼の戦略通りに物事が進むために何か超能力を使っているのではないかとか、暗躍しているのではないか、と言った憶測が党内外で流れている。
「さて、僕ももう行きますかね」
葉山がおもむろに立ち上がる。
「どこへ行くんだ?」
江藤はそう尋ね、葉山はにこやかに答えた。
「んー、色々と問題が山積みで。その処理です」
そう言い残し、葉山は出口へと去って行った。
#####
「それで石野くんはどう考える?」
日本光明党代表野村 快斗が石野亮太に尋ねる。
「まず日本を各地区に分けそれぞれ"TRACKERS"を設置、さらにその地域ごとに管理委員会を設置しコントロールするといった話になりました。ただ……」
「ただ?」
「東京を含む地域には日陽党の白井議員、日月党の葉山委員長が残って業務をこなすことになりそうです」
「他の党は?」
「とりあえずこれに賛同しましたが各党にこれを持ち帰り、政党のパワーバランスについての思惑が飛び交うでしょう」
野村はため息をつく。
日光党は近年超能力者の数が増加し、それに伴う犯罪の凶悪化を重く受け止めており、"TRACKERS"について政党の垣根を超えて協力すべきだという立場を取っている。
日陽党政権が崩れた今、明らかに各政党は超能力者が関わる案件について少しでも有利な立場になろうと躍起になっている。その状況をこの組織に持ち込んでは本来の目的が損なわれてしまうと野村代表を初めとして党全体で懸念しているのだ。
「これはあくまで私の推測ですが……」
石野が続ける。
「葉山委員長が白井議員の要望を簡単に飲んだのはこのことを敢えて各党に持ち帰らせて東京を含む地区の管理には各政党から少なくとも1名を派遣させるという提案をさせるためではないかと」
「ほう……」
「それで勢力を均衡させる狙いでしょう。そしてそれを受け入れれば日月党は他の政党の意見も積極的に取り入れるという世論へのアピールにもなります」
「(凄いな……)」
石野と同じく日光党から管理委員として派遣されている曽ヶ端 莉子が隣で素直に感心する。
日光党は超能力者と非超能力者の真の共生をマニフェストとして掲げており、超能力者と非超能力者の割合はほぼ同数である。管理委員会にも超能力者 (曽ヶ端)と非超能力者 (石野)をそれぞれ派遣している。
「(石野くんは周りに超能力者が多い中でも冷静に状況を分析している。葉山委員長といい、最近の若い議員は肝が据わってるわね)」
野村が石野に尋ねる。
「石野くん、君から見て葉山委員長はどう映る?」
少し考え込んだ後に石野が答えた。
「今のところ葉山委員長は各政党の考えを尊重しつつ落とし所を上手く見つけている印象です。これまでの日陽党の独占を抑制するためにもこの均衡を作ろうという意図も理解できます。ただ……」
「ただ?」
「得体の知れなさは感じます。私はサイクスを持たない非超能力者ですのでこの感覚はよく分からないのですが……」
「ふむ。曽ヶ端くんはどう思う?」
「私も石野議員と同意見です。今のところ彼は淡々と仕事をこなしています」
野村は2人の意見を聞いた後に微かに頷き口を開いた。
「ただの勢いだけの若手というわけではないわけだな……。うむ、2人ともしばらくは葉山委員長に従いつつ都度、我が党の方針を表明してくれ。同時に葉山委員長に感じるという得体の知れなさには気を付けたまえ。それから東京地区への派遣についてだが……」
間髪入れずに曽ヶ端が答える。
「私は石野議員を推します」
少し驚いたような表情をした石野を他所に曽ヶ端は続ける。
「彼は冷静な状況判断力があります。また、非超能力者の観点からの意見も物怖じせずに主張できるでしょう。恐らく党の特性から国民自由党が非超能力者を派遣すると思いますが、石野議員が加われば非超能力者は少なくとも2人にはなります。これは希望的観測ですが、葉山委員長と年齢が近いことからも彼の真意を探りやすいかも知れません」
「石野くん、頼めるかね?」
「承知いたしました。我が党の理念を持って務めさせて頂きます」
石野の目には強い意志が込められていた。
その様子から野村も曽ヶ端も安堵すると同時に力強く頷いた。
#####
翌週に行われた超能力者管理委員会では葉山の思惑通り"TRACKERS"は北海道地方・東北地方・関東地方・中部地方・近畿地方・中国/四国地方・九州地方の7地方に設置され、それぞれの地方に超能力管理委員会が置かれることとなった。また、関東超能力者管理委員会は統括機関としての役割も果たし各政党1名ずつで構成されることが決定された。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる