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クラスマッチ編
第40話 - 不協の十二音
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阿部翔子 28歳
日本政府は超能力者による国内犯罪の活性化により1947年より廃止されていた内務省を3100年4月より復活。翔子は3116年より22歳の若さで所属し、その超能力故に26歳までの4年間、数多くの要人の護衛を歴任した。
––––そして約2年前
「阿部くん、君にはこれまで多くの重要人物の護衛に入ってもらっていた」
内務大臣、木村 栄治 が翔子に言う。
「はい」
木村が続ける。
「君の働きを見込んでこれからは1人、いや実質2人か。そこの護衛兼家政婦として常駐してもらいたいと思う」
少し驚きながら翔子が答える。
「護衛は良いとして家政婦ですか? それに常駐とは。政界の重要人物ですか?」
間を空けて木村が答える。
「いーや、中学生と20歳手前の姉妹だ」
「子どもじゃないですか。一体……」
「2年前の月島夫婦の事件は知っているだろう?」
「勿論です」
月島夫婦惨殺事件。サイクス研究の第一人者として重視されてきた夫婦が残酷な方法で殺害された事件だ。
「そこの娘だ。姉はその時にサイクスが発現し、後天性超能力者となった。そしてその超能力で既に警視庁捜査一課であらゆる事件解決に貢献している。ただその代償として車椅子生活を余儀なくされている。彼女の超能力は貴重だ。彼女の護衛に常についていてもらいたい。ついでにお手伝いでもしてあげなさい」
「はい、お任せ下さい」
「因みに妹は過去でもなかなか無い程の膨大なサイクス量を誇る才能豊かな娘だ。それなのにまだ固有の超能力を発現していない。我々はその点について少しばかり懸念している。彼女の監視も頼むよ。あー、でも護衛の優先は姉の方だ、よろしく頼むよ」
「承知致しました」
––––そして翔子は姉妹と出会い、生活するうちに2人を護衛の対象としてではなく家族として接するようになった。
翔子自体の超能力は戦闘に特化した超能力ではない。
「お願い……!」
翔子はMOONの作り出した幻想世界、"月の染み"に閉じ込められる直前、彼女が具現化したリング、"信頼の証"をバスケットコートのセンターサークル付近に投げ込んだ。
––––"信頼の証"
翔子の持つリングは他にあと3つ存在する。翔子が信頼し、同意を得た者のみがこのリングを腕につけることが出来る。現在これを持つ3人は徳田花、瀧慎也、警視庁捜査一課長の藤村洸哉の3人。
護衛対象 (最大2人) に対して攻撃を仕掛けられたことを翔子が認識すると翔子はリングを外すことが可能となる。
投げたリングの位置にリングを持つ3人のうちの1人と同じ超能力を持つ人型のサイクスが出現する。
そして危険が迫っていることをリングを持つ3人ともに感知し、超能力を発動した場所を知ることが出来る。
ただし、翔子がサイクスによって作られた異空間にいる場合、人型のサイクスを出現させることは出来ない。
「(本来、護衛対象は愛香ちゃんのみにして枠は1つ空けておくように命じられている。けど、瑞希ちゃんも愛香ちゃんも私にとってもう家族。守るべき大切な存在……! ここはサイクスの別世界だから人型サイクスは発動しない。だけど3人にSOSは伝わっているはず……!)」
翔子は"月の染み"内で宙に浮きながらこちらを見るMOONに視線を向ける。
「(私はあの男の超能力の情報をなるべく多く集めてこの世界を抜け出し、味方に共有すること。あわよくばあの男を撃破する!)」
MOONが視界から消え、翔子の目の前に現れる。
「お前はこの世界から抜け出すことは出来ない」
静かな声でMOONは話し始めた。
「ここは俺のサイクスで作り出した"月の染み"という現実には存在しない幻想世界。時間も空間も俺が全てを支配する」
「(現実世界に残された身体の無事は? うかうかしていられない……!)」
翔子の心を読んでいるかのようにMOONが話す。
「安心しろ。現実世界に残されたお前たちの身体は俺のサイクスによって守護られている。お前はこの"月に憑かれたピエロ"から奏でられた4つの音に触れた。少なくとも4度は如何なる攻撃からも俺のサイクスがお前を守護する」
フルートを指しながらMOONは話を続ける。
「そしてこの世界で俺はお前たちを直接攻撃することは出来ない。現実世界の守護回数が0になるか、俺が解除するか、この世界または現実世界の俺の"月に憑かれたピエロ"を破壊することでこの世界から抜け出すことが出来る」
少し息を吐いて翔子が尋ねる。
「何が目的なの……?」
「俺の仲間があの娘と話をしたがっていた。会場を見る限りお前が厄介な存在だった。足止めの為にこうした。それだけだ。それにお前たちにとっても悪くない話だぞ」
「どういうこと?」
「この校内にいる連中は全て眠りについている。そしてそれぞれが自分の理想の世界で楽しんでいるはずだ。目が覚めた時には良い夢を見ていたと感じるだけだろう。下手に混乱が生じるより良いだろう?」
「……」
「大人しくさえしていれば危害を加えるつもりはない。ただの暇潰しだ」
少し間を空けて翔子が言う。
「その不気味な仮面に目的の感じられない奇怪な行動。あなたは"不協の十二音"ね?」
MOONが答える。
「いかにも。俺は不協の十二音 第一音・"MOON"」
––––"不協の十二音"
4年前、突如としてサイクス第一研究所に現れた不気味な仮面を被る13人の謎のS級犯罪者集団。"MAESTRO"と名乗る男が自らを指揮者と称して12人の独立した不協音を指揮して世に"不協和音をもたらす。
そう宣言して第一研究所を跡形も無く破壊した事件を皮切りに何の関連性も無く様々な事件現場に突然姿を現しては状況に混乱をもたらし、忽然と姿を消す。
13人全員が揃ったのは4年前の最初の事件のみでそれ以来姿を現していない者も数人いる一方、簡単に素顔を晒す者もおり (しかしながら本名や素性が特定出来ていない)、集団としての規律や一貫性が無く実態は謎のままである。
「お前にも外の様子を見せてやろう」
MOONは何もない空間にスクリーンの様なものを作り出し、体育館を俯瞰した映像が映し出した。
日本政府は超能力者による国内犯罪の活性化により1947年より廃止されていた内務省を3100年4月より復活。翔子は3116年より22歳の若さで所属し、その超能力故に26歳までの4年間、数多くの要人の護衛を歴任した。
––––そして約2年前
「阿部くん、君にはこれまで多くの重要人物の護衛に入ってもらっていた」
内務大臣、木村 栄治 が翔子に言う。
「はい」
木村が続ける。
「君の働きを見込んでこれからは1人、いや実質2人か。そこの護衛兼家政婦として常駐してもらいたいと思う」
少し驚きながら翔子が答える。
「護衛は良いとして家政婦ですか? それに常駐とは。政界の重要人物ですか?」
間を空けて木村が答える。
「いーや、中学生と20歳手前の姉妹だ」
「子どもじゃないですか。一体……」
「2年前の月島夫婦の事件は知っているだろう?」
「勿論です」
月島夫婦惨殺事件。サイクス研究の第一人者として重視されてきた夫婦が残酷な方法で殺害された事件だ。
「そこの娘だ。姉はその時にサイクスが発現し、後天性超能力者となった。そしてその超能力で既に警視庁捜査一課であらゆる事件解決に貢献している。ただその代償として車椅子生活を余儀なくされている。彼女の超能力は貴重だ。彼女の護衛に常についていてもらいたい。ついでにお手伝いでもしてあげなさい」
「はい、お任せ下さい」
「因みに妹は過去でもなかなか無い程の膨大なサイクス量を誇る才能豊かな娘だ。それなのにまだ固有の超能力を発現していない。我々はその点について少しばかり懸念している。彼女の監視も頼むよ。あー、でも護衛の優先は姉の方だ、よろしく頼むよ」
「承知致しました」
––––そして翔子は姉妹と出会い、生活するうちに2人を護衛の対象としてではなく家族として接するようになった。
翔子自体の超能力は戦闘に特化した超能力ではない。
「お願い……!」
翔子はMOONの作り出した幻想世界、"月の染み"に閉じ込められる直前、彼女が具現化したリング、"信頼の証"をバスケットコートのセンターサークル付近に投げ込んだ。
––––"信頼の証"
翔子の持つリングは他にあと3つ存在する。翔子が信頼し、同意を得た者のみがこのリングを腕につけることが出来る。現在これを持つ3人は徳田花、瀧慎也、警視庁捜査一課長の藤村洸哉の3人。
護衛対象 (最大2人) に対して攻撃を仕掛けられたことを翔子が認識すると翔子はリングを外すことが可能となる。
投げたリングの位置にリングを持つ3人のうちの1人と同じ超能力を持つ人型のサイクスが出現する。
そして危険が迫っていることをリングを持つ3人ともに感知し、超能力を発動した場所を知ることが出来る。
ただし、翔子がサイクスによって作られた異空間にいる場合、人型のサイクスを出現させることは出来ない。
「(本来、護衛対象は愛香ちゃんのみにして枠は1つ空けておくように命じられている。けど、瑞希ちゃんも愛香ちゃんも私にとってもう家族。守るべき大切な存在……! ここはサイクスの別世界だから人型サイクスは発動しない。だけど3人にSOSは伝わっているはず……!)」
翔子は"月の染み"内で宙に浮きながらこちらを見るMOONに視線を向ける。
「(私はあの男の超能力の情報をなるべく多く集めてこの世界を抜け出し、味方に共有すること。あわよくばあの男を撃破する!)」
MOONが視界から消え、翔子の目の前に現れる。
「お前はこの世界から抜け出すことは出来ない」
静かな声でMOONは話し始めた。
「ここは俺のサイクスで作り出した"月の染み"という現実には存在しない幻想世界。時間も空間も俺が全てを支配する」
「(現実世界に残された身体の無事は? うかうかしていられない……!)」
翔子の心を読んでいるかのようにMOONが話す。
「安心しろ。現実世界に残されたお前たちの身体は俺のサイクスによって守護られている。お前はこの"月に憑かれたピエロ"から奏でられた4つの音に触れた。少なくとも4度は如何なる攻撃からも俺のサイクスがお前を守護する」
フルートを指しながらMOONは話を続ける。
「そしてこの世界で俺はお前たちを直接攻撃することは出来ない。現実世界の守護回数が0になるか、俺が解除するか、この世界または現実世界の俺の"月に憑かれたピエロ"を破壊することでこの世界から抜け出すことが出来る」
少し息を吐いて翔子が尋ねる。
「何が目的なの……?」
「俺の仲間があの娘と話をしたがっていた。会場を見る限りお前が厄介な存在だった。足止めの為にこうした。それだけだ。それにお前たちにとっても悪くない話だぞ」
「どういうこと?」
「この校内にいる連中は全て眠りについている。そしてそれぞれが自分の理想の世界で楽しんでいるはずだ。目が覚めた時には良い夢を見ていたと感じるだけだろう。下手に混乱が生じるより良いだろう?」
「……」
「大人しくさえしていれば危害を加えるつもりはない。ただの暇潰しだ」
少し間を空けて翔子が言う。
「その不気味な仮面に目的の感じられない奇怪な行動。あなたは"不協の十二音"ね?」
MOONが答える。
「いかにも。俺は不協の十二音 第一音・"MOON"」
––––"不協の十二音"
4年前、突如としてサイクス第一研究所に現れた不気味な仮面を被る13人の謎のS級犯罪者集団。"MAESTRO"と名乗る男が自らを指揮者と称して12人の独立した不協音を指揮して世に"不協和音をもたらす。
そう宣言して第一研究所を跡形も無く破壊した事件を皮切りに何の関連性も無く様々な事件現場に突然姿を現しては状況に混乱をもたらし、忽然と姿を消す。
13人全員が揃ったのは4年前の最初の事件のみでそれ以来姿を現していない者も数人いる一方、簡単に素顔を晒す者もおり (しかしながら本名や素性が特定出来ていない)、集団としての規律や一貫性が無く実態は謎のままである。
「お前にも外の様子を見せてやろう」
MOONは何もない空間にスクリーンの様なものを作り出し、体育館を俯瞰した映像が映し出した。
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