TRACKER

セラム

文字の大きさ
上 下
37 / 172
クラスマッチ編

第36話 - クラスマッチ⑨

しおりを挟む
 瑞希は既に樋口の残留サイクスに対して"宝探しハイライト"を発動している。

「(初めから誰の超能力か分かっているならこの"宝探しハイライト"を使って観察すれば最初の懸念点、物体が運ばれる地点は人だけでなく場所も指定できるのか分かる)」

 樋口の残留サイクスが不自然に濃く残されているのは樋口以外の4人のプレイヤー。試合前に細工をしたのかバスケットゴールにも残留サイクスがあるが4人に対する残留サイクスと明らかに質が違う。言わば触って残留サイクスを付着させただけである。

「(樋口さんは私のこの"宝探しハイライト"のことと残留サイクスの特徴を読み取れることは知らないはず。だからまだ私が超能力の考察をしていると考えるはず。そう思わせとくのも有りだけどここは敢えて相手にプレッシャーを与える!)」

 綾子の得点後、1年1組は守備陣形を組む。

「(いきなりマン・ツー・マン・ディフェンス!?)」

 樋口は相手の守備陣形を見て動揺する。

「(月島は私の超能力を完璧には分かっていないはず!? 恐らく"人"を指定できても特定の"場所"を指定することは出来ないことは知らないはず? 試合前にゴールに細工はしといたから後者の可能性を考慮してゾーンディフェンスを敷くと考えていた)」

 ––––マン・ツー・マン・ディフェンス
 「誰が誰をマークするか」を決めて守るディフェンス。このため、攻撃側の選手が動けばそれをマークするディフェンス側の選手も追いかけることになる。

 対してゾーンディフェンスとは場所を決めて守る守備陣形であり、守備側の選手がそれぞれ守るエリアを受け持つディフェンスである。

「(私の"優良配送業者プレミアム・シッパー"は正確に"ボール配達物"を届ける。人にしか指定出来ないと確定された後にマン・ツー・マンを組まれ、動きを止められることを不安視していた! これは既に私の超能力を看破したということ!? それともブラフ!?)」

 試合開始から続く1年1組の予想外のプレーの連続。これらは全て樋口に対して大きな動揺を生む。

 ––––サイクスと意思は密接に関わる。

 樋口のサイクスは不安定さを増し、"ボール配達物"を運ぶために必要なサイクス量が増え、共有した樋口のサイクスの消費が増す。

 更に瑞希は相手のパス回しを見て別の条件を確認するため"敢えて"ボールホルダーへ近づき志乃と2人で前に立ち塞がる。そしてまるでそこにパスを通してくれと言わんばかりに自身と志乃の間にスペースを作る。

 ボールを保持する今野は辻野にバウンドパスを送るがそのボールが逸れる。

「(思った通り)」

*****

「("超常現象ポルターガイスト"じゃなくて超能力だったのか!!)」

 瑞希は自チームコート内に転がったボールを拾いながら落ち着こうと試みるが動揺を隠せない。

「(落ち着け、私。ボールはこっちにある)」

 ※第32話 – 『クラスマッチ⑤』参照

*****

「(物体が地面につくと樋口さんの超能力はリセットされる! 再び誰かが物体を投げ始めると樋口さんの超能力がまた始まるんだ)」

 昨日のドッジボールで城島がアウトになった場面、そして3年4組女バスチームがボールをバウンドさせずにパス回しをしている様子を見て確認したのだ。

「(今ので恐らく"配達物"を地面に触れさせてはいけないという条件がバレた! というか今の月島の動き。明らかに確定させに来てた!)」

 樋口のサイクスの不安定さが増す。

「(サイクスの共有をしなきゃ!)」

 一瞬、目の前の瑞希から目を離す。瞬間、瑞希は萌からフリーでボールを受けシュートを放つ。

 4-0

「(しまった!)」

 自分の超能力が看破されていくことへの動揺、そこから生じるサイクスの安定感の欠如、異常な消費からくる精神的・身体的な疲労。
 これら全てが樋口の冷静な判断力や思考力を奪う。

 瑞希はサイクス第二研究所での花との訓練や昨日のドッジボールでの対戦においてサイクスと超能力者の精神的繋がりを強く感じ、サイクスを使った戦闘や競技における相手への揺さぶりの重要性を実感している。

「(サイクスの量や超能力による優位性は決着の決定事項にはなり得ない。勝つ為の戦略、そして冷静さを保つ意志の強さも大切なんだ!)」

 3年4組のパススピードは遅くなる。"優良配送業者プレミアム・シッパー"による正確さが逆に仇となる。"ボール配達物"がどこへ届くか分かっている上、パススピードも遅い。マン・ツー・マン・ディフェンスの本来の狙いがはまり始める。

 17 - 6

 1年1組のペースで試合が進み、点差が開き始めたところでハーフタイムを迎えた。

「ちょっと! ボール遅くない? ボールが正確なせいで逆に取られるんだけど!」
「てか向こうのチーム、時間めいっぱい使ってくるから共有してるサイクスなくなるの早いし、そもそも消費早くない?」

 二宮と尾上が立て続けに不満を漏らす。

「(相手のバスケ経験のない2人にボールを回してるのは月島、大木、西条の3人がパスの出し所がなくて苦し紛れのパスと思ってたけどこれも罠。皆んなに込められたサイクスを減らす為だったのか……)」

 弱気になっていた樋口の感情に別の感情が湧き上がる。

「(私が1年に負ける? あの子の方が私より優秀だって言うの!?)」
 
 その時、樋口のサイクスが爆発的に上昇した。

「(そんなの絶対に認めない!!! 私の方が優秀なのよ!!!!)」


「(覚醒!!)」

 観戦している阿部翔子が目を見開く。
 
 超能力者の中にはサイクスが爆発的に上昇する瞬間が存在する。それによって超能力に新たな力が加わったり、発動条件が緩和されたりする場合がある。

「(しかし、こういった追い込まれた場面での覚醒は諸刃の剣……! 超能力者は冷静な状況判断が出来ずに凄まじい力を得る。その代わりに無理な条件を課してしまう可能性が高い……!)」
 
 後半開始のジャンプボールでボールを取った瑞希は3ポイントシュートを放ち、早々に点差を広げる。

 樋口のサイクスがバスケットゴールに注がれ樋口以外の4人のプレイヤーのサイクスは一部を残し、樋口の元へと戻った。

 ––––"速達便エクスプレス"!!

 樋口自身を注文者、4人の選手を配送拠点、ボールを配送物、バスケットゴールを届け場所と設定。樋口が"サイクス追加料金"を支払うことで配送物は届け場所へ瞬間移動、更なる"サイクス追加料金"を支払うと樋口からバスケットゴールへと直接瞬間移動する配達される

 ボールは尾上、二宮と一瞬で移動し、ゴールに吸い込まれた。

 事前に申請した以外の固有の超能力の使用は認められていない。樋口の超能力が改善され場所の指定は可能となったが直接ゴールへと瞬間移動させると反則行為とされる可能性が高い。
 それを考慮し、他選手を経由しての得点を選択する冷静さも樋口は備えていた。

 1年1組はしばらくの間、為す術なく点差を縮められる。

 20 - 17

 タイムアウトを取り、瑞希が注射器を持ってチームメイトに尋ねる。

「皆んなは私のこと信じてくれる?」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...