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クラスマッチ編
第35話 - クラスマッチ⑧
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「(昨日のドッジボールは6人。外野3人に5番の森さんの4人は確実に樋口さんの超能力による目的地として利用出来ていた。バスケは樋口さんを除いて4人。全員確実に設定されている。懸念は……)」
瑞希は志乃と辻野の2人がジャンプボールの為に移動しているのを見ながら思考を凝らす。
「(設定人数の最大数は4人なのか? それ以上なのか? そもそも目的地は人だけなのか? 特定の場所は設定できるのか?)」
チラッと瑞希がバスケットゴールに目をやる。
「(バスケットゴールに樋口さんの残留サイクスは無い。試合中にここに設定されることはないね)」
志乃がこれまでとは比べ物にならないほどのサイクスを足に込める。
#####
––––試合前
「志乃ちゃん、ちょっと良い?」
瑞希が志乃に声をかける。クラスマッチやその練習を通じて瑞希はクラスメイトとの距離がより縮まり、下の名前で呼びかけることが多くなった。
「何?」
「ジャンプボールでのことなんだけどいつも以上にサイクスを込めて欲しいの」
「絶対取れってことね」
「と言うより相手にボールを触れさせたくないんだ」
「その心は?」
「昨日の試合、森さんがボールを投げた時点で超能力は始まってた。ってことは目的地に設定された人なら誰でも開始することが出来る可能性が高いんだ」
「なるほど。相手にボールを触れられた時点でボールが曲がったりするかもしれないってことだね」
「そういうこと。ジャンプの高さっていうよりスピード重視のジャンプが良いかも」
#####
ジャンプボールの際、選手はボールが最高到達点に届く前に触れてはならない。
このルールを踏まえつつ志乃は辻野がボールを触れる前に弾き切らなければならない。タイミングを測るのはとても困難。コンマ数秒のズレが失敗となる。
「(落ち着け、私)」
このクラスマッチ期間中、瑞希の成長は目を見張るものがある。そしてその成長は他の選手たちにも影響を与えており、志乃も例外ではない。
「(今だ!)」
審判がボールを投げて0コンマ数秒、志乃は跳んだ
「ナイス!!」
志乃は瑞希の注文通り、いや、それ以上の解答を示した瞬間である。
ボールは辻野が全く触れられることなく1年1組の陣内に弾かれた。
「(なっ!!! 辻野さんが触れることすら出来なかった! 触りさえすれば発動するのに!)」
予想外の出来事に樋口は一瞬驚くが瑞希にボールが渡るのを見て直ぐに冷静になる。
「(いや、冷静になれ。月島さんにボールが渡る。この後直ぐにシュートを放つはず。その3点はあげるわ。その後にゆっくり仕掛ければ良い。そして私のサイクスを皆んなと共有する時間も作ることが出来る!)」
瑞希はボールを持った瞬間、これまでの試合とは異なりシュートモーションには入らずにドリブルでボールを運んだ。
「(シュートを打ってこない!?)」
予想外のプレーの連発に樋口は動揺する。
「(予定通り!)」
#####
萌が試合前の会話を思い返す。
「昨日の試合で分かった事として樋口さんのサイクスを定期的に共有することが必要ということ。30秒程度でボールの速さは遅くなったりパワーが弱くなったりしてた。攻撃は24秒ルールや14秒ルールを上手く利用しよう。そしてバイオレーションによってプレーが切れるのもOK。とにかくどちらかの得点が入った後のハイタッチみたいな行為をする時間を作らせない」
24秒ルールとはオフェンスの際、24秒以内にシュートを打たなければならないルールである。また、オフェンスがシュート後にリバウンドを取った時には14秒に変更される。
バイオレーションとはファウル以外の禁止行為のことを指す。これを犯してしまうとオフェンスチームはボールの所有権を失い、相手チームへとボールは移る。
相手チームはバイオレーションの起こった最も近いサイド、またはエンドラインからスローインをしてゲームを再開する。そのスローインは5秒以内に行わなければならない。
バイオレーションは記録されず、回数に制限はない。
#####
「(私、バスケのルールあんまり知らないけど、要はあの掲示板の時間が0になる前までは大丈夫ってわけでしょ。そしてバスケの経験が全くない私と結衣ちゃんは……)」
萌が綾子からパスを受ける。
「(時間稼ぎを悟られないようにパスの出し所が無くて時間が経っているように装う!)」
「(そして8秒ルールが適用されないように私たちはなるべくフロントコートにいること!)」
8秒ルールとはボールを取った瞬間から8秒以内にバックコート (味方チームのゴールがあるコート) からフロントコート (相手チームのゴールがあるコート) へボールを運ばなければならないルールである。
その間に瑞希は樋口の超能力をある程度確定することに努める。
「(それでもある程度点は欲しい!)」
志乃は左サイド深くでドリブルを仕掛ける。相手が手を出した瞬間に足を止め一瞬後ろに下がる。そこを取りに来た尾上の手が届く前にボールを右手から左手へ移動させ、背中からフリーの瑞希にパスを通す。
瑞希がパスを受けた場所は3ポイントエリア。足に込められたサイクスの量から3ポイントを狙っているのは明らかだった。
二宮と今野が止めに入る。
瑞希の頭の中には3ポイントの選択肢は初めから無かった。
瑞希は綾子の残留サイクスを見ており、彼女の向かった場所を把握していた。2人のDFの間をノールックでバウンドパスを通す。
綾子はそのままレイアップで3年4組のゴールを陥れた。
志乃がチラッと時間を見る。
「(24秒フルで使い切れた!)」
2-0。
得点表示が更新される。
瑞希は志乃と辻野の2人がジャンプボールの為に移動しているのを見ながら思考を凝らす。
「(設定人数の最大数は4人なのか? それ以上なのか? そもそも目的地は人だけなのか? 特定の場所は設定できるのか?)」
チラッと瑞希がバスケットゴールに目をやる。
「(バスケットゴールに樋口さんの残留サイクスは無い。試合中にここに設定されることはないね)」
志乃がこれまでとは比べ物にならないほどのサイクスを足に込める。
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––––試合前
「志乃ちゃん、ちょっと良い?」
瑞希が志乃に声をかける。クラスマッチやその練習を通じて瑞希はクラスメイトとの距離がより縮まり、下の名前で呼びかけることが多くなった。
「何?」
「ジャンプボールでのことなんだけどいつも以上にサイクスを込めて欲しいの」
「絶対取れってことね」
「と言うより相手にボールを触れさせたくないんだ」
「その心は?」
「昨日の試合、森さんがボールを投げた時点で超能力は始まってた。ってことは目的地に設定された人なら誰でも開始することが出来る可能性が高いんだ」
「なるほど。相手にボールを触れられた時点でボールが曲がったりするかもしれないってことだね」
「そういうこと。ジャンプの高さっていうよりスピード重視のジャンプが良いかも」
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ジャンプボールの際、選手はボールが最高到達点に届く前に触れてはならない。
このルールを踏まえつつ志乃は辻野がボールを触れる前に弾き切らなければならない。タイミングを測るのはとても困難。コンマ数秒のズレが失敗となる。
「(落ち着け、私)」
このクラスマッチ期間中、瑞希の成長は目を見張るものがある。そしてその成長は他の選手たちにも影響を与えており、志乃も例外ではない。
「(今だ!)」
審判がボールを投げて0コンマ数秒、志乃は跳んだ
「ナイス!!」
志乃は瑞希の注文通り、いや、それ以上の解答を示した瞬間である。
ボールは辻野が全く触れられることなく1年1組の陣内に弾かれた。
「(なっ!!! 辻野さんが触れることすら出来なかった! 触りさえすれば発動するのに!)」
予想外の出来事に樋口は一瞬驚くが瑞希にボールが渡るのを見て直ぐに冷静になる。
「(いや、冷静になれ。月島さんにボールが渡る。この後直ぐにシュートを放つはず。その3点はあげるわ。その後にゆっくり仕掛ければ良い。そして私のサイクスを皆んなと共有する時間も作ることが出来る!)」
瑞希はボールを持った瞬間、これまでの試合とは異なりシュートモーションには入らずにドリブルでボールを運んだ。
「(シュートを打ってこない!?)」
予想外のプレーの連発に樋口は動揺する。
「(予定通り!)」
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萌が試合前の会話を思い返す。
「昨日の試合で分かった事として樋口さんのサイクスを定期的に共有することが必要ということ。30秒程度でボールの速さは遅くなったりパワーが弱くなったりしてた。攻撃は24秒ルールや14秒ルールを上手く利用しよう。そしてバイオレーションによってプレーが切れるのもOK。とにかくどちらかの得点が入った後のハイタッチみたいな行為をする時間を作らせない」
24秒ルールとはオフェンスの際、24秒以内にシュートを打たなければならないルールである。また、オフェンスがシュート後にリバウンドを取った時には14秒に変更される。
バイオレーションとはファウル以外の禁止行為のことを指す。これを犯してしまうとオフェンスチームはボールの所有権を失い、相手チームへとボールは移る。
相手チームはバイオレーションの起こった最も近いサイド、またはエンドラインからスローインをしてゲームを再開する。そのスローインは5秒以内に行わなければならない。
バイオレーションは記録されず、回数に制限はない。
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「(私、バスケのルールあんまり知らないけど、要はあの掲示板の時間が0になる前までは大丈夫ってわけでしょ。そしてバスケの経験が全くない私と結衣ちゃんは……)」
萌が綾子からパスを受ける。
「(時間稼ぎを悟られないようにパスの出し所が無くて時間が経っているように装う!)」
「(そして8秒ルールが適用されないように私たちはなるべくフロントコートにいること!)」
8秒ルールとはボールを取った瞬間から8秒以内にバックコート (味方チームのゴールがあるコート) からフロントコート (相手チームのゴールがあるコート) へボールを運ばなければならないルールである。
その間に瑞希は樋口の超能力をある程度確定することに努める。
「(それでもある程度点は欲しい!)」
志乃は左サイド深くでドリブルを仕掛ける。相手が手を出した瞬間に足を止め一瞬後ろに下がる。そこを取りに来た尾上の手が届く前にボールを右手から左手へ移動させ、背中からフリーの瑞希にパスを通す。
瑞希がパスを受けた場所は3ポイントエリア。足に込められたサイクスの量から3ポイントを狙っているのは明らかだった。
二宮と今野が止めに入る。
瑞希の頭の中には3ポイントの選択肢は初めから無かった。
瑞希は綾子の残留サイクスを見ており、彼女の向かった場所を把握していた。2人のDFの間をノールックでバウンドパスを通す。
綾子はそのままレイアップで3年4組のゴールを陥れた。
志乃がチラッと時間を見る。
「(24秒フルで使い切れた!)」
2-0。
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