TRACKER

セラム

文字の大きさ
上 下
23 / 172
サイクスの効率化編

第22話 - 大食漢(グラトニー)

しおりを挟む
「ったく、やってらんねぇぜ」

 ライオンのたてがみの様に小麦色に染められた髪に、よく日に焼けた筋骨隆々の若い男が建設現場の休憩所で座り込む。
 男の名は樋口ひぐち けん。小野建設で建設作業員として働く26歳だ。

「なぁ、超能力を使えない俺らが肉体労働やっててあいつみたいな超能力者が現場監督だったり、建築家だったりすんのっておかしくね? なぁお前も思うよなぁ、泉?」

 現場監督である中田なかた あつしの方を顎で指しながら3歳後輩のいずみ 浩介こうすけに声をかける。

「いや、あの僕は超能力使えるんですけど……」
「オメェは力仕事やってっから良いんだよ。てかお前サイクス量少ねぇから俺らとあんまり変わんねぇから良いんだよ」

 そう言って樋口は泉の背中を大笑いしながら叩く。泉は迷惑そうに横目で樋口を見る。

「ほら、樋口さん続きやりますよ」
「へいへい」

 2人は再び持ち場に戻る。

「(けっ、サイクスがあるか無いかで扱い変わるのなんて納得いかねぇぜ。元々サイクスなんて存在しなかったんなら俺らの方がオリジナルじゃねーかクソ)」

 樋口はふと現場から遠くにそびえ立ち、微かに視界に捉えることが出来る巨大な建物に目をやる。

「(あれがサイクス第二研究所だな……あぁいう頭が良い連中がサイクスは素晴らしいとか何とか言って声高に言うからいけねぇんだよチクショウ。腕っぷしなら自信あんだけどなぁ。あいつらのサイクスを奪えねぇもんかなぁ)」

 樋口の中でサイクス第二研究所に対する憎しみが増していく。また、日頃から感じている一般人と超能力者との差にもイラつきが収まらない。
 ここ最近よく夢を見る。夢の中では自分は超能力を使い、これまで妬んできた連中に恨みを晴らしている。初めの頃は超能力者に対して嫌悪感を抱いているにも関わらず夢の中ではサイクスを使っていることに矛盾を感じていた。
 しかし今では寧ろ自分を犠牲にして超能力者になり非超能力者を救う救世主であるかのように感じている。

「(これが現実になったらなぁ)」

 安全管理の為に現場を廻り、鉄骨を"超常現象ポルターガイスト"を使って支えながら指導をしている中田の背中を睨みつける。

「(クソが)」

 樋口は自身の内側から何か熱いものを感じ始めた。同時に酷い空腹感が広がった。

「(腹……減ったな……)」

 空腹に耐えられず樋口の目が血走る。目の前の中田の肉体から食欲をそそる光る何かが見え始める。

「(何だ……中田の身体の周りから何かが流れてるのが見える。何だあれ。美味そうだな……食いてぇ……)」

 ––––"大食漢グラトニー"

 樋口の身体から溢れ出したサイクスがまるで意思を持っているかのように動き出す。それは人の口を模した形へと変貌し、中田のサイクスに食らいついた。中田のサイクは大半を食われ、それは樋口のサイクスに融合した。

 中田は自分の身体に異変を感じる。

「(何だ……? サイクスが……)」

 鉄骨を支えていたサイクスが微弱になり限界が近付く。

「まず……」

 瞬間、鉄骨が中田の頭上に落下する。

 現場が騒然とする。
 その中で樋口は満腹感に幸福を感じていた。

「(何だこれ……こんな美味いモン今まで食ったことねぇ)」

 樋口は他の超能力者にの方を見る。これまで見えなかった生命エネルギーのようなものが見えるようになっている。

「(これが……サイクスか……?)」

 その日、樋口兼と同じ現場で建設業者として働く超能力者13名のうち中田を含めた4名はサイクスのコントロールを失い事故により死亡、残り9名は身体の不調を訴え病院へと搬送された。


#####


 瑞希は訓練室Aで目を閉じて直立して静止して動かない。

 15分後、瑞希の全身から汗が噴き出し、瞼が震え始め、膝をつく。

「ハァ……ハァ……」

 激しく息を切らし、体内に留めていたサイクスが一気に放出される。そこで瑞希は再び目を閉じて肉体の周りに留めようと取り組む。
 インナー・サイクスの維持、持続が切れた後のアウター・サイクスへの切り替えの訓練だ。

「上達してきてるわよ」

 花は瑞希の肩を優しくトンッと叩く。

 瑞希は少し頷き、息を整えてジャージの上着を脱ぎ、スポーツブラが露わになる。和人の前では恥ずかしさがあり上を脱いだりしないが、彼は体術の訓練を別室で行っている。インナー・サイクスとアウター・サイクスの上達度、武術への経験度を考慮して別のプログラムが組まれている。

「1枚脱ぐだけでも大分体感温度違いますねっ」

 瑞希が汗をタオルで拭きながら花に話しかける。

「そうね。大分感覚が変わると思うわよ」

 瑞希が少し考え事を始める。

「どうしたの?」
「いや……何だか私のサイクスに似てるなって」
「どういうこと?」

 瑞希は少し考え、

「普段は上着を着てる感じでp-Phoneを出した状態はそれを脱いでる感じ。軽さも違うし何だか温度も違う感じするし」

 瑞希はそう言ってp-Phoneの出し入れを繰り返しながらサイクスの感覚を確かめる。

「(何だか掴めてきた?)」

 瑞希は立ち上がって200PBの状態でアウター・サイクスを始めた。それを見た花が目を見開く。

「(一気に瑞希のサイクスの安定感が増した!?)」

 瑞希はそのままp-Phoneを発動しそのままアウター・サイクスを切り替える。これまでより遥かにスムーズに移行した。

「瑞希……!?」
「先生!」

 瑞希が笑顔を向ける。

「何だか洋服のイメージだとやりやすいかも!」

 瑞希は超能力の特性上、2種類のサイクスを扱っている。200PBは上着を着用している状態、50PBはその上着を脱いだ状態というイメージを持つことでサイクスの安定感が増したのだ。

「(感覚を掴んだのね。瑞希は2種類のサイクスを扱うために単純に他の超能力者の2倍の作業量。こんな2週間ちょっとで掴むなんてとんでもないわね)」

「瑞希、疲れているかもしれないけどその感覚を完璧に自分のものにしましょう!」
「はい!」

 瑞希は目を閉じ、この感覚を逃すまいとアウター・サイクスに集中し始めた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...