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覚醒編
第5話 - ワタシノモノ
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上野菜々美は体育館裏を抜けて旧校舎・事務室へと徳田花を運び、椅子に座らせた状態にして縄で縛った。その後、生気を失った顔で佇む年老いた男性に注射器を刺し、声をかけた。
「起きないとは思うけどしっかり見張っててね」
そのまま男性は徳田の正面へと立った。
そしてもう1人40代を超えているであろう女性にも注射器を刺して「よろしくね」と軽くウィンクをして旧校舎を後にした。
この東京第三地区高等学校は旧校舎の老朽化により100年以上前に現在の校舎へと移り変わった。学校OBや地域の住民の要望もあり、旧校舎は500年以上の歴史ある建造物として改修工事の後、一部が残され、現在は博物館として機能している。先の男性は館長、そして女性は受付として働いている。
#####
「あっ! なっちゃんどこ行ってたの?」
「お腹痛くなっちゃったからトイレ行ってた~」
「大丈夫? 休んだら?」
「大丈夫だよ~。保健室にも行って先生に薬も貰ったし」
「そっか。なっちゃん注射器打ったまま走ってったから分かんなくなっちゃったよ。先生と話した後なっちゃんの方見たらもういないんだもん」
「ごめんね、月ちゃん」
少し膨れている瑞希の様子を見ながら菜々美は心がざわつく
––––私のモノにしたい
7歳の頃に近所に月島家は引っ越してきた。政府からの指示でお互いに第一東京特別教育機関へと入学し、私たちは学校でも外でも常に一緒にいた。
「月ちゃんのこと好きー」
私たち以外の女の子たちもよく友達同士で「好き」という言葉を発し合っていた。そして周りの大人たちも子供たちの可愛いじゃれあいに笑みを浮かべながら見守っていた。
でも私の「好き」はそんな安い言葉ではなかった。
だからと言ってそれが恋愛感情なのかは今よりも幼かった私には分からなかった。
それでも時間が経つにつれてその感情がハッキリしてきた。
月ちゃんは生まれつき才能に恵まれ、容姿も美しく更にとても心の優しい女の子だ。そのような子を周りの子供たちが放っておくはずがなく、彼女の周りにもいつも沢山の友人がいた。また大人たちからの人気も高く月ちゃんは常に中心にいた。
私は常に月ちゃんの側にいたがその様子に対して憎しみや嫉妬心に近い感情が沸き起こった。
––––ワタシノモノダ
少し成長した後、これが"独占欲"や"支配欲"と呼ばれることを知った。
特別教育機関を卒業する頃には月ちゃんに対する私の独占欲は自分の中に抑えておくことが困難な程に膨れ上がっていた。
そんな私の独占欲や支配欲が私のサイクスに呼応した。
「何故そんなことをしたのか?」と聞かれれば「何となく」と答えるしかない。
私は突如として"病みつき幸せ生活"を他人に刺してみたくなった。
注射を打たれた相手は私のサイクスを強制的に流し込まれ、4時間私の意のままに操れるようになる。操られている間、相手は自分の超能力を使えない代わりに飛躍的に向上した運動能力で戦闘をする。
一気に使えるのは4人まで。効力が切れる前に注射を打てば効果は延長される。
1ヶ月前から私は数人の一般人に注射を打ち様々な実験を行った。
お互いに殺し合いをさせてみた時に消費するサイクスの量によって効果時間は変わるのか、4人の中に私は含まれるのか、私への注射の効果は変化するのかなど自分の超能力について知る必要があった。
「(花ちゃん先生が警察の人だったなんてね。ちょっと前から月ちゃんと2人でコソコソしてて許せないと思ってずっと見張ってはいたんだよね)」
「(折角だし私の超能力に付き合ってもらお)」
「次は、、長座体前屈だってー。なっちゃん体育館だよ」
「じゃあ行こっか」
瑞希は菜々美の左腕を掴む
「なに?」
「今度は走ってどっか行かないように」
「ごめんって」
瑞希はふと菜々美の左腕を見て尋ねた。
「なっちゃん、手どうしたの?」
「え? どうもないよ?」
「あ、それなら良いけど」
2人はそのまま並んで体育館へと向かって行った。
#####
放課後、帰る支度を終えて瑞希が菜々美に声をかける。
「なっちゃん、帰ろ」
「あ、月ちゃんごめんね。今日はおじいちゃんのお見舞いに行かなきゃ」
「そうだったんだ。おじいちゃん体調大丈夫?」
「最近はだいぶ落ち着いてきたよ。食欲も戻ってきたみたい」
「良かった。私もお見舞い行かなきゃなー」
「うん、おじいちゃんも喜ぶよ」
「じゃあ今度行くよ! 今日は何も用意できてないし……」
「ありがとっ」
瑞希は会話を終えると校門へ向かい帰路についた。
一方、菜々美は病院へは向かわず東京第三地区高等学校・旧校舎の事務室へと向かっていた。
そこには目を瞑ったまま椅子に縛られている徳田花が座っていた。
「先生、起きて」
既に意識が戻っている徳田が真っ直ぐ菜々美を見る。
「上野さん、あなたが犯人だったのね」
「そうだよ」
「どうして……」
少し息を吐いて菜々美が答えた。
「私には欲しいモノがあるんだよ」
「……何が欲しいの?」
「(時間を稼げ、諦めるな)」
徳田は菜々美となるべく会話をし、時間を稼ごうと努めた。
警視庁捜査一課、特に愛香、玲奈、瀧の3人が見つけてくれる。勿論、徳田は彼らを信じている。しかし、彼女は一つの賭けに出ていた。
徳田は意識が消える直前、サイクスを自分の腕に込め、菜々美の左腕を掴んだ。
これは上野に対する抵抗が目的ではない。
彼女の腕に自身のサイクスを残したのだ。
"月島瑞希"
本来ならば15歳の少女に私が頼ることなど許されない。しかし彼女が咄嗟にとった自分の行動は上野の腕に自分の残留サイクスを多めに付着させることだった。
気付くか分からない。
気付いたとしても彼女が何か行動を起こすのかも分からない。しかし、私は彼女の洞察力を目の当たりにした。賭けに出てみたくなったのだ。
「(可能性は多い方が良い)」
「(だから……諦めるな)」
––––徳田花の瞳にはまだ炎が宿っている。
「起きないとは思うけどしっかり見張っててね」
そのまま男性は徳田の正面へと立った。
そしてもう1人40代を超えているであろう女性にも注射器を刺して「よろしくね」と軽くウィンクをして旧校舎を後にした。
この東京第三地区高等学校は旧校舎の老朽化により100年以上前に現在の校舎へと移り変わった。学校OBや地域の住民の要望もあり、旧校舎は500年以上の歴史ある建造物として改修工事の後、一部が残され、現在は博物館として機能している。先の男性は館長、そして女性は受付として働いている。
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「あっ! なっちゃんどこ行ってたの?」
「お腹痛くなっちゃったからトイレ行ってた~」
「大丈夫? 休んだら?」
「大丈夫だよ~。保健室にも行って先生に薬も貰ったし」
「そっか。なっちゃん注射器打ったまま走ってったから分かんなくなっちゃったよ。先生と話した後なっちゃんの方見たらもういないんだもん」
「ごめんね、月ちゃん」
少し膨れている瑞希の様子を見ながら菜々美は心がざわつく
––––私のモノにしたい
7歳の頃に近所に月島家は引っ越してきた。政府からの指示でお互いに第一東京特別教育機関へと入学し、私たちは学校でも外でも常に一緒にいた。
「月ちゃんのこと好きー」
私たち以外の女の子たちもよく友達同士で「好き」という言葉を発し合っていた。そして周りの大人たちも子供たちの可愛いじゃれあいに笑みを浮かべながら見守っていた。
でも私の「好き」はそんな安い言葉ではなかった。
だからと言ってそれが恋愛感情なのかは今よりも幼かった私には分からなかった。
それでも時間が経つにつれてその感情がハッキリしてきた。
月ちゃんは生まれつき才能に恵まれ、容姿も美しく更にとても心の優しい女の子だ。そのような子を周りの子供たちが放っておくはずがなく、彼女の周りにもいつも沢山の友人がいた。また大人たちからの人気も高く月ちゃんは常に中心にいた。
私は常に月ちゃんの側にいたがその様子に対して憎しみや嫉妬心に近い感情が沸き起こった。
––––ワタシノモノダ
少し成長した後、これが"独占欲"や"支配欲"と呼ばれることを知った。
特別教育機関を卒業する頃には月ちゃんに対する私の独占欲は自分の中に抑えておくことが困難な程に膨れ上がっていた。
そんな私の独占欲や支配欲が私のサイクスに呼応した。
「何故そんなことをしたのか?」と聞かれれば「何となく」と答えるしかない。
私は突如として"病みつき幸せ生活"を他人に刺してみたくなった。
注射を打たれた相手は私のサイクスを強制的に流し込まれ、4時間私の意のままに操れるようになる。操られている間、相手は自分の超能力を使えない代わりに飛躍的に向上した運動能力で戦闘をする。
一気に使えるのは4人まで。効力が切れる前に注射を打てば効果は延長される。
1ヶ月前から私は数人の一般人に注射を打ち様々な実験を行った。
お互いに殺し合いをさせてみた時に消費するサイクスの量によって効果時間は変わるのか、4人の中に私は含まれるのか、私への注射の効果は変化するのかなど自分の超能力について知る必要があった。
「(花ちゃん先生が警察の人だったなんてね。ちょっと前から月ちゃんと2人でコソコソしてて許せないと思ってずっと見張ってはいたんだよね)」
「(折角だし私の超能力に付き合ってもらお)」
「次は、、長座体前屈だってー。なっちゃん体育館だよ」
「じゃあ行こっか」
瑞希は菜々美の左腕を掴む
「なに?」
「今度は走ってどっか行かないように」
「ごめんって」
瑞希はふと菜々美の左腕を見て尋ねた。
「なっちゃん、手どうしたの?」
「え? どうもないよ?」
「あ、それなら良いけど」
2人はそのまま並んで体育館へと向かって行った。
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放課後、帰る支度を終えて瑞希が菜々美に声をかける。
「なっちゃん、帰ろ」
「あ、月ちゃんごめんね。今日はおじいちゃんのお見舞いに行かなきゃ」
「そうだったんだ。おじいちゃん体調大丈夫?」
「最近はだいぶ落ち着いてきたよ。食欲も戻ってきたみたい」
「良かった。私もお見舞い行かなきゃなー」
「うん、おじいちゃんも喜ぶよ」
「じゃあ今度行くよ! 今日は何も用意できてないし……」
「ありがとっ」
瑞希は会話を終えると校門へ向かい帰路についた。
一方、菜々美は病院へは向かわず東京第三地区高等学校・旧校舎の事務室へと向かっていた。
そこには目を瞑ったまま椅子に縛られている徳田花が座っていた。
「先生、起きて」
既に意識が戻っている徳田が真っ直ぐ菜々美を見る。
「上野さん、あなたが犯人だったのね」
「そうだよ」
「どうして……」
少し息を吐いて菜々美が答えた。
「私には欲しいモノがあるんだよ」
「……何が欲しいの?」
「(時間を稼げ、諦めるな)」
徳田は菜々美となるべく会話をし、時間を稼ごうと努めた。
警視庁捜査一課、特に愛香、玲奈、瀧の3人が見つけてくれる。勿論、徳田は彼らを信じている。しかし、彼女は一つの賭けに出ていた。
徳田は意識が消える直前、サイクスを自分の腕に込め、菜々美の左腕を掴んだ。
これは上野に対する抵抗が目的ではない。
彼女の腕に自身のサイクスを残したのだ。
"月島瑞希"
本来ならば15歳の少女に私が頼ることなど許されない。しかし彼女が咄嗟にとった自分の行動は上野の腕に自分の残留サイクスを多めに付着させることだった。
気付くか分からない。
気付いたとしても彼女が何か行動を起こすのかも分からない。しかし、私は彼女の洞察力を目の当たりにした。賭けに出てみたくなったのだ。
「(可能性は多い方が良い)」
「(だから……諦めるな)」
––––徳田花の瞳にはまだ炎が宿っている。
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