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覚醒編

第1話 - 思案

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月島 瑞希
 3107年3月27日福岡県第4地区出身。特異型超能力者で生まれつき膨大なサイクス量を誇る。
 政府は内務省が直接管理できるよう第3地区にある第1東京特別教育機関への入学を指示 (内務省は第3地区、旧台東区霞ヶ関を本拠地としている)、7歳より家族と共に居を移した。入学してからその類稀な才能を発揮し、成績は常にトップを維持した。
 11歳の頃、両親を殺人事件のために亡くす。これがきっかけで固有の超能力を発現するかと思われたが直接現場を見ていないためか発現することはなかった。(第一発見者である姉の月島愛香に関する資料は別途参照)

––––チャプン

「……」

 徳田花は湯船に浸かりながら警視庁から派遣される前に配布された月島瑞希の資料を思い返している。

*****

「4年前は髪の毛肩くらいまでしかなくて、それに眼鏡もかけてたから今と雰囲気が全然違うので最初ビックリしました」

*****

「(月島さんは確実に私の超能力にかかっていた)」
「(私の超能力、"私とあなたの秘密シークレット・フェイス")」
対象者の意識を刺激して私自身の容姿を誤認させる超能力ちから……!!
 1. 対象者と目を合わせる
 2. 対象者と同時に私物に触れる
 3. 解除しない限り同時に触れた私物を所持しておけばその効果は永続する。但し、その私物を所持しなかった場合強制的に解除される
 4. もし対象者と共通の知り合いがいればその人物の顔に認識させることが可能
 5. 対象者と昔会ったことがある場合、超能力をかける際に対象者が自分の”顔”を思い出した時点で超能力にかけることは不可能となる。
 "私とあなたの秘密シークレット・フェイス"は対象者の意識に直接刺激を与えるため周囲の人々との容姿の認識の差に違和感を覚えることが少なくなる。

「(報告によると月島さんは残留サイクス (超能力者が超能力ちからを使用する際、その場に微量なサイクスが残留する。サイクスの指紋のようなもの) を認識することが出来て更に色も可視化され超能力のタイプまで分類が出来るってあったわね……。生まれつき残留サイクスを見ることが出来る超能力者は一定数存在する。そして月島さんのようにサイクス量が多い者にはその残留サイクスからタイプを分類出来てもおかしくない。けど、私のように精神刺激型超能力者は多くいるわ。個人までは特定できないはず。一体どうやって私の超能力ちからは看破されたの?)」

 浴槽の淵に頬を乗せながらあらゆる可能性に思慮を巡らせる。

–––可能性1. 初めから私の超能力にかかっていない
 この場合、月島さんの発言に違和感が生じる。そもそも私とあなたの秘密シークレット・フェイスの発動条件5と矛盾する。
–––可能性2. 私の超能力にかかっている間に私のことを思い出した
 この場合、月島さんの発言はブラフだった可能性が高い。しかしながら超能力にかかった後の容姿 (ロングヘアーを後ろに団子状に束ねた髪型、眼鏡なし) を分かっていたことから発動後、彼女の何らかの超能力で強制的に解除された。
–––可能性3. 無意識のうちに彼女固有の超能力が発現し、彼女自身まだ把握していない

 簡単に言えば可能性2と可能性3の違いは月島さんが意識的に超能力ちからを得ているのか無意識的に超能力ちからを得たのかの違い。
 もしも前者の場合、彼女は自分の超能力のことを報告せず隠していることになる。そうなると……

「ややこしくなるわね……」

 私が警視庁から派遣された主な任務は上野菜々美と特に月島瑞希の監視。彼女らに悟られないように潜入捜査向けの私が選ばれたわけだ。
 政府は月島さんの潜在能力を高く評価している。その一方で、あれ程の才能がありながら固有の超能力を発現しないでいることに警戒をしている。あまりにも強大な超能力だった場合の策をすぐに用意しておきたいという思惑。
 可能性2のことを考慮すると政府も警戒せざるを得ない。

––––ザバッ

 徳田花は湯船から出るとそのまま浴室を後にした。
 
「同僚の妹の監視なんていい気分じゃないわね」

 濡れた身体をバスタオルで拭いた後、そのまま身体に巻き、髪の毛用の拭きタオルで髪の毛の水分をとった後アップにする。

「よしっ」

 そう呟くと徳田は洗面台からオイル美容液を取り出し、手のひら全体にオイルを広げ、顔の内側から大きく外へ円を描くように大胆につける。入浴後の徳田花のルーティーンである。

「(てか、潜入するにしても非常勤とかでよくないかしら? わざわざ1年5組の副担任て……ただでさえ子供の扱いなんて慣れてないのに……ストレスで肌が荒れるわ)」

「(それに……もし……もしも危険な超能力ちからだったら私じゃ対処できないわよ。上野さんの超能力ちからなんて典型的な身体強化じゃない。せめてあと一人派遣して欲しかったわ)」

 徳田は入念なボディケアの後、ワンピースタイプのルームウェアを着て洗面所を後にした。


#####


「(4年前、私は徳田先生に会っている)」

 上野菜々美と別れた後、月島瑞希は自宅へ向かいながら思案する。

「(両親の殺害現場に多くの警察官が現場検証に来ていた。その中に先生はいた)」

"あなたの存在証明サイクス・マッピング"
 その場に残留したサイクスを可視化する。またその色によってどの型に属する超能力なのかを特定する。

「(これだけだと超能力の特性を分類できても個人までは特定できない。でも私は生まれつき一人一人の残留サイクスの淀みや流れ方など何となく特徴を読み取れる。徳田先生のサイクス……綺麗な透き通った水色。とっても綺麗だったから覚えやすかった)」

 瑞希は様々な可能性に思いを巡らせながら一定のリズムで歩を進める。

「(先生の超能力は発動条件を満たした後、対象者に先生自身の容姿を誤認させる超能力ちから。発動条件全ては分からないけど先生のボールペンを (ボールペンだけでなく先生の私物の場合も考えられる) 対象者に触れさせてそれを先生が所持しておくことはほぼ確実)」

 自宅への直線に差し掛かる。遠くから警視庁の一人が見える。恐らく姉の愛香あいかの護衛だろう。

「(正直、先生の超能力ちからの考察は重要じゃない。問題は何故警察関係者がいるのかってことよね……。予想は出来る。特別教育機関を卒業した私となっちゃん、特に私の監視。目立った動きを避けたい為に潜入に長けた先生が選ばれた感じかな。そんなに警戒しなくても危ない超能力なんて開発しないって……。まぁ警察関係の人なら悪い人じゃないだろうし、とりあえず放っておいても大丈夫かな)」

 自宅に入ってローファーを脱ぎ、綺麗に揃える。少し伸びをしてリビングへ向かう。

「(んー……ちょっと頭使い過ぎちゃった)」

 瑞希は扉を開き、リビングへ入った。

「ただいま~」

 そこには内務省から派遣された世話係兼護衛の阿部あべ 翔子しょうこ、そして隣には車椅子に座り、艶のあるロングヘアーを下ろし背中を向けている女性。
 瑞希の言葉に反応して振り返り、笑顔で応えた。


「お帰り、みず」

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