泣き叫ぶ私、嘘をつく母

Azu

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泣き叫ぶ私、嘘をつく母

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 中学生の頃、私はニキビに悩まされていた。市販の薬を塗ってもなかなか治らず、鏡を見るたびにニキビが目に入り、私の精神は限界が来ていた。そしてとうとう私は母に皮膚科に行きたいと直談判した。しかし母は連れていきませんの一点張りだった。いいよと言ってくれるものだと思っていたので、私は予想外の展開に驚き、しまいには泣き叫ぶというなんとも見苦しい姿を母の前で披露した。なかなか泣き止まない私を見て母は「皮膚科なんてないから」と明らかに嘘をついて私を泣き止ませようとした。私はそんな母を見て、この人には何を言っても無駄だと悟った。ここまで母を子どもの悩みに寄り添わない悪人のような描き方をしているが、基本的に母は悪い人ではない。ケーキ作りが趣味で夜ご飯前につまみ食いをしてお腹いっぱいになり、夜ご飯が食べられなくなることが多々あるというおちゃめな人間である。
 私が母に直談判してから数日後、私は風邪をひいてしまった。なかなか熱が下がらないので病院に行くことにした。名前を呼ばれ、待合室で母と椅子に座っているとき、ふとあるものが目に飛び込んだ。「皮膚科」という文字である。椅子の目の前にあるドアに皮膚科と書かれていたのである。数日前母は私に皮膚科なんてないと言っていたが、目の前に皮膚科があるという状況がおかしかった。皮膚科あるじゃんと母に言うべきかの葛藤が始まった。皮膚科があるよと言ってしまえば母が嘘をついていたと証明でき、私の気分は晴れる。しかし、「あなたを黙らせるためにわざといったのよ」、もしくは「そんなこといったっけ」という返答が来ることも予想される。結局病院内では答えは出ず、車の中まで持ち越しになった。母が運転する車に乗りながら皮膚科の有無を母に言うべきか真剣に考え、結局、皮膚科があったことは言わないことに決めた。母も絶対に皮膚科という文字を目にしただろうが無駄な争いは避けるというのが私のモットーの一つであるためこのような決断に至った。ちなみに数年後、妹も母に皮膚科に行きたいと言って断られていたが、皮膚科に行かせてあげなさいと父のアシストのおかげで妹は何事もなく皮膚科に行っていた。
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