ゾンビの坩堝

GANA.

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ゾンビの坩堝【9】

ゾンビの坩堝(83)

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「か、関係があるのか分かりませんが、夜中に何か大きな袋が運び出されるのを見たって人が……」                        
「誰だ?」
 ヘッドに厳しく問われ、ディアは押し黙った。ウォッチがあるのだから、言葉を交わす相手なんかそうはいないはず……おそらくはディア自身、もしくはウーパーか……マール、マール、マール……まじないにも聞こえる斉唱がこもり、くらくらしてきたところで、くぐもったため息がアクセントになった。
「451番は死んだ」
 聞き違いかと目を上げ、自分はスモークシールドを見つめた。
「急な病だ。個人情報保護でこれ以上は言えない」
 元・自治会長が、死んだ……しかし青地のストライプ柄は、わずかにそよいだだけだった。あのときの、あの崩れっぷり……のぼせすぎてしまったのか、頭の血管が切れでもしたのか……あちらのディアの横顔は、目を見開いたままになっていた。
「ごっ、ごめんなさい!」
 西半分の端から、悲鳴に近い片言がある。ウーパーが下腹部をかばい、どくどくと声をあふれさせる。
「ぜんぶウソ! このこ、451じゃない……ここ、はいるまえに……だけど、ウソつけいわれた、あのひと……1945に!」
 思わぬ爆弾発言に列は揺れ、ゆがみや傾きが目立つ。にわかにデイルームが活気づき、鼓動するように感じられた。1945番ことジャイ公は腕組みのまま、ウーパーに目をむいていた。
「ウソを、ついていたって……」わなわなと、どら声がかすれる。「全部、ウソだったのかっ!」
 涙声のウーパーを指差し、ジャイ公はさらに激高した。
「なぜ、そんなウソをついたんだ! かわいそうだと思って、力になってやったのに! それで、今度はオレのせいか!」
「ち、ちがう! あなたが……言うとおりにしないと……」
「お前は、ウソをついたんだろ! ウソつきめ! またそんなウソをつくのか! 一体何が目的なんだ! いい加減にしろ、このウソつきっ!」
 こめかみに稲妻をひらめかせ、猛火を吐く勢いのジャイ公――ミッチーたちが、ウソつき、ウソつき、と口々に火を投げ込む。その他大勢は目を伏せ、血の気のない顔をしていたが、生け贄が供されるのをおとなしく待つようでもあった。こわばる自分の前でウーパーは焼かれ、身じろぎしながら燃え上がっていく。
「ハブだ、ハブっ!」ジャイ公が吠える。「お前のウソでとんでもないことになった! 罰としてお前はハブ! 荷物をまとめて部屋から出ていけ! 食事もなしだっ!」
 ハブ……省く……仲間外れのことか……焼け焦げた顔を引きつらせ、すがろうとするウーパーがミッチーに阻まれ、警告を発する左手首に固まった。
「そ、それはだめ! このこ、しんじゃう!」
「知らねえよ! 自業自得だろ!」
 吐き捨てたミッチーに突き飛ばされ、よろよろとウーパーは尻餅をついた。マール、マール、マール……青い肌のゾンビたちは、誰も彼も無表情のままだった。
「恵んでもらえばいいだろ」ふーっと煙を吐くようにジャイ公が言う。「乞食みたいによ。先公の面倒は、ちゃんと見ろよ!」
 ぱん、ぱん、と黒い手を打ち合わせ、ヘッドがまたため息をくぐもらせる。
「451番のことは、こちらとしても残念だ。寄付も一番多かったしな」
 気まぐれに骨董品を弄んでいたら、うっかり壊してしまったという口ぶりだった。ジャイ公がヘッドに向き直り、深々と頭を下げる。へたり込んだウーパー、立ち尽くすディアの他はそれに倣い、黒ずくめたちが消えて格子状の列は崩れた。ぐずぐずした腹で片引き戸を閉め、パイプベッドに倒れ込むと屁が漏れ、自分の顔まで生臭いものが漂ってきた。
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