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ゾンビの坩堝【7】
ゾンビの坩堝(67)
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他人の世話どころじゃ、なかったくせに……――
強制終了されはしたが、あのオンライン面会からディアは持ち直す、というよりも変わっていくようだった。奇形のさなぎがもがき、少しずつ皮を破っていくみたいに……それに何やらかき乱される自分は、ディアのそばにいたくなかった。
何が支援団体だ……勝手にすればいいんだ……――
部屋を出た自分はディアたちとは反対、デイルーム側から行き止まりに戻った。奥のうなりを無視し、床頭台に洗面用具を戻して通路に立つ。すでに被収容者の大半が並んでおり、タクト大振りの楽曲が終盤に差しかかった頃にジャイ公たちが顔を見せた。
今朝のどら猫面は妙に張り詰め、殴り込みを控えたやくざを思わせた。ミッチー、フォックスも言葉少なに朝の体操を待っている。そして一仕事終えたディアが戻ってきて、自分はぺこっと苦々しく頭を下げた。
『それでは、今朝も元気よくリハビリ体操を始めましょう!』
快活な声が響いてもウーパーは姿を見せず、今日も一日ロバ先生の面倒を見るのかと自分はうんざりした。スピーカーからのかけ声に合わせて腕を振り、膝を曲げるゾンビたち……ジャイ公のそれはいつになく力んでおり、指導員に褒められると、ありがとうございます、と慇懃に返していた。
そうして朝の体操が終わり、発酵しすぎた糠床っぽい汗臭さがデイルームに流れ出す。ジャイ公はなぜか部屋に引っ込み、いぶかった自分は、はあ、はあ、と肩を上下させるディアを背にミッチーらの後に続いた。
大画面を占める社章の前に並ぶ、頭を下げた青い無表情……寒色半纏姿の自治会長、黒ヤマネコらが最前列の南館側は、いつもと同じく透明な仕切りボックス入りだったが、北館側はところどころ狭く、アウトラインも乱れていた。過剰収容にもかかわらず一定のスペースに詰め込もうとするからであって、それが姿勢のゆがんだ面々を一段とみっともなく見せていた。
早く終わってくれ……――
まだ一日は始まったばかりだが、血管を石膏が流れるみたいにだるい……徳念を聞かされていると、なおさらひどく感じられて……自分が最後列で苦っていたところ、ジャイ公がなんとウーパーと北館の最前列の横に付いた。引き出されてきたのか……ストライプ柄の間から見える、そびえるジャイ公の背を前にうつむく、ずんぐりとした後ろ姿に自分は視線を注いだ。朝礼に出られるのなら、ロバ先生の世話だって……うかがう視界は、ほんのり明るくなった。
強制終了されはしたが、あのオンライン面会からディアは持ち直す、というよりも変わっていくようだった。奇形のさなぎがもがき、少しずつ皮を破っていくみたいに……それに何やらかき乱される自分は、ディアのそばにいたくなかった。
何が支援団体だ……勝手にすればいいんだ……――
部屋を出た自分はディアたちとは反対、デイルーム側から行き止まりに戻った。奥のうなりを無視し、床頭台に洗面用具を戻して通路に立つ。すでに被収容者の大半が並んでおり、タクト大振りの楽曲が終盤に差しかかった頃にジャイ公たちが顔を見せた。
今朝のどら猫面は妙に張り詰め、殴り込みを控えたやくざを思わせた。ミッチー、フォックスも言葉少なに朝の体操を待っている。そして一仕事終えたディアが戻ってきて、自分はぺこっと苦々しく頭を下げた。
『それでは、今朝も元気よくリハビリ体操を始めましょう!』
快活な声が響いてもウーパーは姿を見せず、今日も一日ロバ先生の面倒を見るのかと自分はうんざりした。スピーカーからのかけ声に合わせて腕を振り、膝を曲げるゾンビたち……ジャイ公のそれはいつになく力んでおり、指導員に褒められると、ありがとうございます、と慇懃に返していた。
そうして朝の体操が終わり、発酵しすぎた糠床っぽい汗臭さがデイルームに流れ出す。ジャイ公はなぜか部屋に引っ込み、いぶかった自分は、はあ、はあ、と肩を上下させるディアを背にミッチーらの後に続いた。
大画面を占める社章の前に並ぶ、頭を下げた青い無表情……寒色半纏姿の自治会長、黒ヤマネコらが最前列の南館側は、いつもと同じく透明な仕切りボックス入りだったが、北館側はところどころ狭く、アウトラインも乱れていた。過剰収容にもかかわらず一定のスペースに詰め込もうとするからであって、それが姿勢のゆがんだ面々を一段とみっともなく見せていた。
早く終わってくれ……――
まだ一日は始まったばかりだが、血管を石膏が流れるみたいにだるい……徳念を聞かされていると、なおさらひどく感じられて……自分が最後列で苦っていたところ、ジャイ公がなんとウーパーと北館の最前列の横に付いた。引き出されてきたのか……ストライプ柄の間から見える、そびえるジャイ公の背を前にうつむく、ずんぐりとした後ろ姿に自分は視線を注いだ。朝礼に出られるのなら、ロバ先生の世話だって……うかがう視界は、ほんのり明るくなった。
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