ゾンビの坩堝

GANA.

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ゾンビの坩堝【7】

ゾンビの坩堝(60)

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 南はずるいっ! 自治会ずるいっ!――
 吠え声で我に返り、何事かと耳をそばだてる。マール、マール、マール……いつ終わるともしれない循環を波立てる、傍若無人な濁流……――
 南はずるいっ! 自治会ずるいっ! 南はずるいっ! 自治会ずるいっ! 過剰収容、押し付けだっ!――
 どら声にあおられ、男たちが唱和……昼休みになったらしいフロアを時計回りに震わせていく。それらが通り過ぎてからトイレを出て、北東の角からこっそりうかがった先にジャイ公を先頭、その後に続くミッチー、フォックスら総勢十名ほどの背中があった。後ろからだと、左右の肩のずれ、背骨の湾曲、骨盤の傾きといったゆがみがよく分かる。見たところ、どうやら全員が北館の被収容者……昨日は昼過ぎと夕方に新入りが北館にねじ込まれ、今朝の朝礼で、自治体から要請があればさらに受け入れる、と聞かされたからだろう。北館に余分な寝床などなく、新しく入るたびに通路の端で寝転がる姿が増えていた。
 南はずるい……自治会ずるい……――
 反芻するうちに血がのぼり、熱くなっていく……施設の方針に唯々諾々と従い、北館に押し付けているのは自治会であり、南館の代表でもある自治会長……北館側の東通路では部屋からいくつも顔がのぞき、下っていく一行をそれとなくうかがっている。自分はふらりと陰から出て、わめき立てる流れに吸い寄せられていった。
「こら、先公っ!」
 とどろくどら声に驚き、自分は足を止めた。ロバ先生が吠えかかられ、エレベータードアを背に震えている。素足だった。また操作パネルをいじっていたらしい。もう何度目だろう……ウーパーは何をやっているのか……――
「いじるなって、言ってんだろぉ!」ミッチーが楽しげに恫喝する。「何遍同じこと言わせんだよ。壊れたらお前が責任取るのかよ、ボケジジイ!」
「弁償もそうですけどぉ」
 フォックスが後に続く。薄ら笑いで小首を傾げ、右肩が突っ張った腕組みだった。
「エレベーターがダメになったら、食事だって上がってこなくなるじゃないですか。みんなの迷惑、それってダメですよねぇ」
 他の男たちもあれやこれやと尻馬に乗り、エレベータードアにめり込みそうなほどロバ先生を追い詰めていく。そうしてジャイ公たちは肴にしているようでもあった。自然と密になり、群れているにもかかわらずウォッチは鳴らず、監視カメラは隅から眺めているだけ……並んだ部屋からの青い顔、熱っぽい目つきも同じだった。
「あの役立たずを連れてこい」
 ジャイ公が仲間の一人をウーパーのところに走らせ、おびえきった獲物をにらみつける。
「しかしまあ、こんなふうにボケちまってどうしようもないな。しかも、ゾンビにまでなるなんてよ。ただの厄介者じゃねえか。頼むからさ、この操作パネルをいじるのはやめろ。あ、それと小便漏らすのもな。すんげえ臭えからよ」
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