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ゾンビの坩堝【5】
ゾンビの坩堝(49)
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いつにも増してまずい夕食を終え、何倍にもむくんだようなだるさを押して歯磨きをしに洗面所へ……帰ってきてから、不在の間に汚れたトイレシートを始末……やがて消灯を迎えて部屋は真っ暗になった。寝床の暗がりで自分はとろとろし、息苦しさから何度も身もだえした。蒸された脳裏であれやこれやが揺らめき、入り混じっていく……奥からの、さざ波を思わせるうめき……壁の向こうからはノコギリっぽいいびき……ジャイ公が寝ているということは、もう日付は変わっているのだろう。やがて尿意を催し、仕方なく掛け布団をはいだ自分はぞくぞくっと身震いした。横になっていたにもかかわらず、だるさがずっしりとたまっている……くすぶる頭は煙っていて、ふうっと暗闇に散ってしまいそうだ。昼間の疲れのせいか、あるいは病が……かぶりを振り、目を凝らした自分は黒サンダルを履き、壁につかまって部屋を出た。
鳥肌の立つ、ほの暗い通路に身を縮め、スピーカーからの繰り返しにさらされながら南館をぼんやり眺める……そうしているうち、自分はここがすべてという感覚にとらわれていった。この西通路を下って真っ暗なデイルームを横目に南館へ入り、南西の角を左折して南通路から東通路、北通路を経て、また振り出しに……逆に回っても同じこと……マール、マール、マール、マール、マール……やがてロバ先生みたいにさまよい、エレベーターの操作パネルをいたずらにいじって……芯から震えてきて、かちかちと歯が鳴った。
こんなところにいて、たまるか……――
ふらっと踏み出して角を曲がった先では、切れかかった照明がちらちら瞬いている。トイレの中は真っ暗……まずは照明のスイッチを……手すりから離れ、出入口に近付こうと通路を横切りかけたとき、自分はいきなりばくっと丸呑みされた。
停電?――
しばし立ち尽くし、自分は手探りで壁か手すりを求めた。しかし、手は闇をかくばかり……ふらつきながら腕を伸ばすほど、辺りは空になっていくようだった。マール、マール、マール……じっとりと病衣が濡れ、くらくらして前後左右があやふやに……それほど幅のある通路ではない。すぐそこに部屋だって並んでいるはずだが……――
だッッ!?――
背中にビス打ちかという衝撃があり、悲鳴を上げて自分は崩れた。膝と手をつき、じんじんする痛みに呆ける。一体、何が……――
パシュッ――
空気のはじける音がし、右尻の激痛で反り返って――自身のうめきに混じって、タンッ、タン、と小さな粒が床をはねる。闇のどこかで、嘲笑が押し殺されたような……――
う、撃たれている?――
耳をそばだて、あたふたと這う途中で左足の黒サンダルが脱げる。つんのめりながら立ち上がったところで壁にぶつかり、尻餅をついて――したたか後頭部を打って一瞬意識が遠のく。自分はまた四つん這いになり、冷え冷えとした床を這って、這って……助けを求めようにも喉からはあえぎばかり……――
パシュッ、パシュッ――
左頬辺りに連続し、間の抜けた悲鳴を上げてうずくまる自分の尻が再び的にされ、尻尾に火をつけられた亀さながらに這い回るうちに息が切れ、動けなくなっていく……パシュ、パシュ――前から後ろから、あちこちからやられ、そのたびにかすれた悲鳴が漏れる。パシュ、パシュ……パシュ、パシュ……マール、マール、マール……パシュ、パシュ、パシュ、パシュ、パシュ………………――――
頭上から何やら声をかけられ、べたついたまぶたがわずかに開く。目の前には細かな傷、染みついた黒ずみ……自分は床にぐったりと、うつ伏せに倒れていた。
「そんなところで寝るなよ」
くぐもった、含み笑い混じりの声が降ってくる。視線を這わせた先には、見覚えのある黒ブーツ……がく、がくと起き上がった前には腕組みの指導員が立っており、並んだ部屋のあちこちから青い冷淡がこちらを眺めていた。
「お前、漏らしてるぞ」
スモークシールド越しの失笑が、自分にはよく分からなかった。股と内ももの冷たさに目をやると、染みの広がったストライプ柄が肌に貼り付いている……そこと接していた床は濡れ、ふうっと臭っていて……みじめな注目を集め、指導員の説教になぶられる自分は、いつまでも顔を上げられなかった。
鳥肌の立つ、ほの暗い通路に身を縮め、スピーカーからの繰り返しにさらされながら南館をぼんやり眺める……そうしているうち、自分はここがすべてという感覚にとらわれていった。この西通路を下って真っ暗なデイルームを横目に南館へ入り、南西の角を左折して南通路から東通路、北通路を経て、また振り出しに……逆に回っても同じこと……マール、マール、マール、マール、マール……やがてロバ先生みたいにさまよい、エレベーターの操作パネルをいたずらにいじって……芯から震えてきて、かちかちと歯が鳴った。
こんなところにいて、たまるか……――
ふらっと踏み出して角を曲がった先では、切れかかった照明がちらちら瞬いている。トイレの中は真っ暗……まずは照明のスイッチを……手すりから離れ、出入口に近付こうと通路を横切りかけたとき、自分はいきなりばくっと丸呑みされた。
停電?――
しばし立ち尽くし、自分は手探りで壁か手すりを求めた。しかし、手は闇をかくばかり……ふらつきながら腕を伸ばすほど、辺りは空になっていくようだった。マール、マール、マール……じっとりと病衣が濡れ、くらくらして前後左右があやふやに……それほど幅のある通路ではない。すぐそこに部屋だって並んでいるはずだが……――
だッッ!?――
背中にビス打ちかという衝撃があり、悲鳴を上げて自分は崩れた。膝と手をつき、じんじんする痛みに呆ける。一体、何が……――
パシュッ――
空気のはじける音がし、右尻の激痛で反り返って――自身のうめきに混じって、タンッ、タン、と小さな粒が床をはねる。闇のどこかで、嘲笑が押し殺されたような……――
う、撃たれている?――
耳をそばだて、あたふたと這う途中で左足の黒サンダルが脱げる。つんのめりながら立ち上がったところで壁にぶつかり、尻餅をついて――したたか後頭部を打って一瞬意識が遠のく。自分はまた四つん這いになり、冷え冷えとした床を這って、這って……助けを求めようにも喉からはあえぎばかり……――
パシュッ、パシュッ――
左頬辺りに連続し、間の抜けた悲鳴を上げてうずくまる自分の尻が再び的にされ、尻尾に火をつけられた亀さながらに這い回るうちに息が切れ、動けなくなっていく……パシュ、パシュ――前から後ろから、あちこちからやられ、そのたびにかすれた悲鳴が漏れる。パシュ、パシュ……パシュ、パシュ……マール、マール、マール……パシュ、パシュ、パシュ、パシュ、パシュ………………――――
頭上から何やら声をかけられ、べたついたまぶたがわずかに開く。目の前には細かな傷、染みついた黒ずみ……自分は床にぐったりと、うつ伏せに倒れていた。
「そんなところで寝るなよ」
くぐもった、含み笑い混じりの声が降ってくる。視線を這わせた先には、見覚えのある黒ブーツ……がく、がくと起き上がった前には腕組みの指導員が立っており、並んだ部屋のあちこちから青い冷淡がこちらを眺めていた。
「お前、漏らしてるぞ」
スモークシールド越しの失笑が、自分にはよく分からなかった。股と内ももの冷たさに目をやると、染みの広がったストライプ柄が肌に貼り付いている……そこと接していた床は濡れ、ふうっと臭っていて……みじめな注目を集め、指導員の説教になぶられる自分は、いつまでも顔を上げられなかった。
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