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ゾンビの坩堝【5】
ゾンビの坩堝(45)
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どんどんっ、と片引き戸が叩かれ、ミッチーのやにっぽい声が乱暴に響いてくる。
「おい、奉仕活動だぞ!」
なぜか、いつもより早い……いぶかりながら開けると、チンピラネズミのしかめ面は出っ歯をそらして下がった。
「くっせえな、さっさと閉めろよ」
部屋の臭いのことだろう……一瞬固まった自分は通路に出て、片引き戸を閉めた。ミッチーの横目がこちらをねめつける。
「お前も臭いぞ。どうにかしろよ」
消え入りそうな声で謝るのが、やっとだった。隔週のリネン交換を教えてやる、とミッチーが先に立つ。ジャイ公の指示だそうだ。マール、マール、マール……離れて立つ自分たちの前でエレベーターが開く。ミッチーは空のリネンカートをつかみ、こちらにはクリーニング済みリネンが積まれた台車を出させて、無精ひげのあごをしゃくった。
「わしがリネン回収、お前はそれを配れ。行くぞ」
ハンドルを握り、腰を入れて、ずっしりした台車を南館へと押す……まずは106号室をノック……しわだらけのシーツやらカバーやらを抱え、伏し目のウーパーが出てくる。自治会長の部屋もそうだったが、南館は個室のみらしく、室内には間仕切りカーテンはない。持ち込みらしいパイプベッドが端に寄り、床頭台、床の直置きのほうき・ちりとりセット、雑巾をかけたバケツと尿取りパットのパック、トイレットペーパー……いくらか黄ばんだ空気といい、148号室と似たところがある。その隅ではロバ先生が壁にすがり、身一つで放り出されたような顔でリネン交換を見つめていた。
「ありがとう、ございます……」
頭を下げたウーパーはリネンカートに入れ、台車から替えを取って片引き戸を閉めた。へっ、とミッチーが口角をひん曲げる。ぞんざいに促され、自分は隣室へと台車を移動させた。空調のお陰で南館はぬくぬくと心地よく、関節のこわばりも取れてくる。ノックし、すえた臭いのリネンをカートに入れ、替えを取ってもらう、その繰り返し……どの部屋でも持ち込みのベッド、テーブルにイス、キャビネットといった家具が、気持ちよさそうに照明を浴びている。臭うらしい自分はうつむき、なるべく他者から離れるようにした。東通路を下って東南の角部屋――自治会長の部屋に至り、続いて南の並びを順に回っていく。黒ヤマネコの部屋からは芳香剤のにおいがし、ミッチーが熟しすぎた色気を密かに味わう。そうして西側へ……つくづく境遇の違いを思い知らされ、自分の視線は足下の影と這いずっていた。南館でさえこれなのだから、高級ホテルかどこかにいるセレブの療養生活など考えたくもない……南館の最後になった137号室からはケロノがひょこひょこ出てきて、ミッチーにへらっと愛想笑いし、きれいなリネンを抱えて部屋に引っ込む。
「おい、奉仕活動だぞ!」
なぜか、いつもより早い……いぶかりながら開けると、チンピラネズミのしかめ面は出っ歯をそらして下がった。
「くっせえな、さっさと閉めろよ」
部屋の臭いのことだろう……一瞬固まった自分は通路に出て、片引き戸を閉めた。ミッチーの横目がこちらをねめつける。
「お前も臭いぞ。どうにかしろよ」
消え入りそうな声で謝るのが、やっとだった。隔週のリネン交換を教えてやる、とミッチーが先に立つ。ジャイ公の指示だそうだ。マール、マール、マール……離れて立つ自分たちの前でエレベーターが開く。ミッチーは空のリネンカートをつかみ、こちらにはクリーニング済みリネンが積まれた台車を出させて、無精ひげのあごをしゃくった。
「わしがリネン回収、お前はそれを配れ。行くぞ」
ハンドルを握り、腰を入れて、ずっしりした台車を南館へと押す……まずは106号室をノック……しわだらけのシーツやらカバーやらを抱え、伏し目のウーパーが出てくる。自治会長の部屋もそうだったが、南館は個室のみらしく、室内には間仕切りカーテンはない。持ち込みらしいパイプベッドが端に寄り、床頭台、床の直置きのほうき・ちりとりセット、雑巾をかけたバケツと尿取りパットのパック、トイレットペーパー……いくらか黄ばんだ空気といい、148号室と似たところがある。その隅ではロバ先生が壁にすがり、身一つで放り出されたような顔でリネン交換を見つめていた。
「ありがとう、ございます……」
頭を下げたウーパーはリネンカートに入れ、台車から替えを取って片引き戸を閉めた。へっ、とミッチーが口角をひん曲げる。ぞんざいに促され、自分は隣室へと台車を移動させた。空調のお陰で南館はぬくぬくと心地よく、関節のこわばりも取れてくる。ノックし、すえた臭いのリネンをカートに入れ、替えを取ってもらう、その繰り返し……どの部屋でも持ち込みのベッド、テーブルにイス、キャビネットといった家具が、気持ちよさそうに照明を浴びている。臭うらしい自分はうつむき、なるべく他者から離れるようにした。東通路を下って東南の角部屋――自治会長の部屋に至り、続いて南の並びを順に回っていく。黒ヤマネコの部屋からは芳香剤のにおいがし、ミッチーが熟しすぎた色気を密かに味わう。そうして西側へ……つくづく境遇の違いを思い知らされ、自分の視線は足下の影と這いずっていた。南館でさえこれなのだから、高級ホテルかどこかにいるセレブの療養生活など考えたくもない……南館の最後になった137号室からはケロノがひょこひょこ出てきて、ミッチーにへらっと愛想笑いし、きれいなリネンを抱えて部屋に引っ込む。
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