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ゾンビの坩堝【5】
ゾンビの坩堝(43)
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しっ、静かにしろっ!――
怒鳴るも静まらず、自分は引きつった声で抑えにかかった。ジャイ公たちが怒鳴り込み、指導員が駆けつけることになったら……ひたすら水をかけるようにしているうち、ノラは息を切らしてあえぎ、げへ、げへっとむせ込んでトーンダウンしていく……幸い、隣や通路に恐れていた動きはない。べたつく額を拭い、そろそろと下がった自分は寝床で掛け布団をかぶり、右耳は枕、左耳は左手で塞いだ。
何が、前向きに、だ……――
この立場になってから言え、と呪うほど体は縮まり、硬くなっていく……こんな奴となんか、誰もやっていけるはずがない。口で言うのは簡単なんだ……だが、もしかすると自分よりはうまくやれるのかもしれない……そんな考えがよぎる、すえた臭いの暗がり……こんな自分よりも優しく、思いやりを持って……これまで液晶画面越しに見かけた、善意あふれる笑顔が抽象的に浮かぶ。ああいう人々なら、きっとにこにこ向き合えるのだろう……それなのに、自分なんかと同室だから……しかし、それも仕方がない……運が悪かったのだから……そうした煩悶さえ、火照りでぼやけ、薄れていく……シナプスからの信号が煙となってしまうようだ。何も考えられない……考えたくない、何も……――
どん、どん、どん、と片引き戸を叩く音に起こされ、あたふたと出た通路では配膳補助係のコアラがそっぽを向き、いら立たしげな指導員が黒い手を配膳車にかけていた。自分は何度も頭を下げ、うな垂れたまま朝食を受け取った。
べちゃべちゃの猫まんまを奥に置き、がくっと寝床に腰を下ろす……雑に盛られた冷めかけの米飯、刻みネギがちらほら浮かぶ味噌汁、キャベツと玉ねぎのソテーに焼きのり……どれを口にしても、食品サンプルかと思うほど味気ない。これも病状が悪化しているからなのか……胃がぐずぐずになってきたが、病を克服するためにも食べなければ……残して、あいつに貪られたくもない……奥からの、んちゃんちゃんちゃという咀嚼音がやたらはっきりと聞こえる。口にかき込んで麦茶を飲み、食器を空にしてつけたテレビでは、素人に毛の生えたアイドルが巷で話題のグルメに感激し、おいしい、やばい、と連呼している。いい気なものだ……潰さんばかりに電源ボタンを押し、リモコンを放り出して仰向けになった目には、くすんだ天井、鈍色のカーテンレール……自分は掛け布団を引っかぶった。どいつもこいつも、みんなゾンビになってしまえばいい……――
まどろみから引き戻され、暗がりで自分は耳をそばだてた。がさがさとトイレシートを踏む音……これは、排便をするときの……落ち着きなく場所を定め、あのみっともない尻を下ろして……そういえば、あいつに投げつけたトイレシートの代わりを敷いていない……ぼと、とっ、と音がし、やがて間仕切りカーテンが揺れて横になった気配がする。じくじく差し込む腹を抱え、のぞいたそこにそれらは転がっていた。トイレシートのないところに……ふうっと悪臭が、挑発的に漂ってくる。
怒鳴るも静まらず、自分は引きつった声で抑えにかかった。ジャイ公たちが怒鳴り込み、指導員が駆けつけることになったら……ひたすら水をかけるようにしているうち、ノラは息を切らしてあえぎ、げへ、げへっとむせ込んでトーンダウンしていく……幸い、隣や通路に恐れていた動きはない。べたつく額を拭い、そろそろと下がった自分は寝床で掛け布団をかぶり、右耳は枕、左耳は左手で塞いだ。
何が、前向きに、だ……――
この立場になってから言え、と呪うほど体は縮まり、硬くなっていく……こんな奴となんか、誰もやっていけるはずがない。口で言うのは簡単なんだ……だが、もしかすると自分よりはうまくやれるのかもしれない……そんな考えがよぎる、すえた臭いの暗がり……こんな自分よりも優しく、思いやりを持って……これまで液晶画面越しに見かけた、善意あふれる笑顔が抽象的に浮かぶ。ああいう人々なら、きっとにこにこ向き合えるのだろう……それなのに、自分なんかと同室だから……しかし、それも仕方がない……運が悪かったのだから……そうした煩悶さえ、火照りでぼやけ、薄れていく……シナプスからの信号が煙となってしまうようだ。何も考えられない……考えたくない、何も……――
どん、どん、どん、と片引き戸を叩く音に起こされ、あたふたと出た通路では配膳補助係のコアラがそっぽを向き、いら立たしげな指導員が黒い手を配膳車にかけていた。自分は何度も頭を下げ、うな垂れたまま朝食を受け取った。
べちゃべちゃの猫まんまを奥に置き、がくっと寝床に腰を下ろす……雑に盛られた冷めかけの米飯、刻みネギがちらほら浮かぶ味噌汁、キャベツと玉ねぎのソテーに焼きのり……どれを口にしても、食品サンプルかと思うほど味気ない。これも病状が悪化しているからなのか……胃がぐずぐずになってきたが、病を克服するためにも食べなければ……残して、あいつに貪られたくもない……奥からの、んちゃんちゃんちゃという咀嚼音がやたらはっきりと聞こえる。口にかき込んで麦茶を飲み、食器を空にしてつけたテレビでは、素人に毛の生えたアイドルが巷で話題のグルメに感激し、おいしい、やばい、と連呼している。いい気なものだ……潰さんばかりに電源ボタンを押し、リモコンを放り出して仰向けになった目には、くすんだ天井、鈍色のカーテンレール……自分は掛け布団を引っかぶった。どいつもこいつも、みんなゾンビになってしまえばいい……――
まどろみから引き戻され、暗がりで自分は耳をそばだてた。がさがさとトイレシートを踏む音……これは、排便をするときの……落ち着きなく場所を定め、あのみっともない尻を下ろして……そういえば、あいつに投げつけたトイレシートの代わりを敷いていない……ぼと、とっ、と音がし、やがて間仕切りカーテンが揺れて横になった気配がする。じくじく差し込む腹を抱え、のぞいたそこにそれらは転がっていた。トイレシートのないところに……ふうっと悪臭が、挑発的に漂ってくる。
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